過去あり主人公は待ちに待った訓練で疲弊する
「もっと立って」
「……」
「そこ、スキル使えば?」
「……」
「ほら、来た」
カトラス・イルバネスは、待ちに待ったリア・アルナスに鍛えてもらえる時がやってきた。
ネアラと共に一緒に霊榠山の麓に辿り着いて、リアに話しかけられ、そして訓練に参加することになった。リアの言葉はいつだって短い。ただカトラスのことを鍛えるためだけにそこで行動を起こしているリア。
カトラスに魔物を狩らせたり、自分と模擬戦をさせたり――リアは一切カトラスを休ませることはない。ただただひたすら鍛え上げようとする。
その隣では、ネアラも同じ目にあっている。
カトラスよりも年下の少女――ネアラは、慣れた様子で一心に動き続けている。ネアラもリアの義理の妹になった当初は、今のカトラスと同じように余裕が全くなかったのだが、この一年でネアラもリアの訓練に少しずつ慣れてきている。
魔物退治を行ったり、リアに鍛えられることによって少しずつレベルをあげている。リアと同じ年ごろになった頃には、きっとレベルも少なくとも五十は超えることにはなるだろうとリアは思っている。
(ネアラも少しずつ戦いに慣れてきている。それにしてもネアラが私と同じ年ごろだったらネアラを隠れ蓑にして目立たせられたのに。やっぱりイルバネスのことを鍛え上げてとことん目立たせるか)
リアはそんなことを考えながら魔物の群れの中に二人を放り込んでいた。
わざわざリアが魔物を追い立てて集めて、戦わせたりしていた。ちなみにカトラスもネアラも頭から血を流すレベルの大怪我をおったりしていたわけだが、リアは助けもしていなかった。そのくらいなら大丈夫だろうと、リアはそんな風に思っているのだ。
(それにもうすぐ繁殖期が起こるって言われているし、二人とも死なないように鍛えていたほうがいいしなぁ)
リアは、のんびりと観察している。
ネアラとカトラスが必死に戦っている様子を。
ネアラとカトラスのことというより、来年あたりに起こるとルーンが言っていた繁殖期のことを考えている。
ちなみに繁殖期が来年あたりに起きそうなことは既にギルドマスターにもエルフの女王にも伝え済みである。ギルドとしては来年に向けて、戦力を鍛え上げようと色々な試みを行おうとしているらしい。
(やっぱり狩り放題って素敵だよね。なるべく人が死なないように、沢山魔物を狩らないとだし。それにしてもやっぱりそうなると就職活動出来ないだろうし、あの薬師の弟子に今年中にはなりたい)
リアは断られても断られてもあの薬師の弟子になろうと勝手に決めていた。何度行っても今の所断られているが、ああいう職人タイプはひたむきに弟子になりたいと言い続ければそのうち折れるはず!! というのがリアの気持ちである。一応他の薬師も探しているが、下手に向上心が高かったり、同期がいっぱいいそうなところはリアは嫌なのであった。
「……はあはぁ」
「リ、リア姉、倒したよ!!」
さて、のんびりと就職先のことを考えている間にリアの手によって集められた魔物達はカトラスとネアラによって倒されていた。
リアはその声を聞いて、ユニークスキルを解いて姿を現す。
「ん」
「……リア姉、水」
「……ん」
リアは水をネアラとカトラスに渡した。
水を勢いよくごくごくと飲んだネアラは、ふぅと息を吐く。
「それより、リア姉……今日、ソラ兄いないけど良かったの?」
「何が?」
「何がって、多分ソラ兄、リア姉の特訓なら幾らでも付き合いたかったと思うよ。そこにイルバネスさんがいるんじゃ、多分ソラ兄煩いよ」
「……知らない」
「リア姉はもう……私がソラ兄の煩いの聞かなきゃなんだよ?」
地面に座り込んだネアラは呆れたように言い放つ。
(……ソラ兄、リア姉の訓練が幾らきつくてもリア姉がいるならいいっていうマゾっぽい発言しているんだもん。しかもリア姉は基本的に姿を現さないから私がそれを聞かなきゃだし。ソラ兄のことは尊敬しているけれど、リア姉のことになると煩いしなぁ……)
正直言ってソラトのことを尊敬していても、リアのことになると煩いのでそのあたりはどうにかしてほしいネアラである。
それにソラトの素を知っているものの前でしかそういう態度を見せないので、リアへの思いのはけ口にネアラはされていた。
「……イルバネスさんも、多分ソラ兄が煩いだろうから気を付けてくださいね」
「……ああ」
これだけ立て続けに魔物を葬り続けたのはほぼ初めてであったカトラスは、疲れたように息を吐いている。
――はじめて訓練をつけられて疲れているであろうカトラスを、リアが労わるなんてことはもちろんない。そんなわけで訓練は少し休んですぐに開始された。
カトラスはその後、ふらふらしながら家へと戻った。……その後、ネアラが言った通りに、人気がない場所でソラトに絡まれて、それも含めてカトラスは疲れてしまうのであった。




