王家の山へ、エルフの女王と ③
王家の山は、王城から少し離れた場所にある少し小高い山である。
その山には結界が張られているのか、許可されたもの以外入ることが出来ない。なので、リアも当然此処に入ったことはない。
その許可されたものしか入ることの出来ない山にリアは足を踏み入れる。
(……うーん、なんか雰囲気とかも今まで感じた事がない感じ。なんだか不思議な場所? 前に結界みたいなのがあるけど、結界を通過する前からなんだか不思議な感覚だし。入ったらこれどうなるんだろう?)
リアは無言である。そんなリアにマナは声をかける。
「リア、入るわよ」
「はい」
「私に手を重ねて」
「はい」
リアは言われるがままに、手を重ねる。
入るために必要だと言われてもリアは、誰かと手をかさねるというのはほとんどないので、それに対しても何とも言えない気持ちである。
リアが手を重ねたまま、マナと一緒に王家の山へと入る。
結界を通過した途端、不思議な感覚にリアは包まれた。
「……此処、もう王家の山ですか?」
「ええ。そうよ。初めて入ってみてどうかしら?」
「……不思議な感覚。不思議な静けさと、そして魔物の鼓動? 何か結構、魔物多い?」
「そうね。元々此処は、強い魔物が住んでいる場所だもの。今は王家の山なんて言われているけれど、私が王国を起こすより前はただの魔物が多い山だったのだけど、精霊との関わり合いもあって此処には結界が張られ、いつしか王家の山って言われるようになったの」
――元々はただの山であった。ただ魔物が存在するだけの山。そこに精霊という強大な存在のかかわりがあり、結界が張られ、此処は王家の山と呼ばれるようになった。
(元々ただの山だった場所が、こうして王家の山と呼ばれるようになったなんて夢が広がる話だ。こういう歴史を知るのは何だか楽しい。でもやっぱり精霊に関わりあいがある山なんだなあ)
リアはそんなことを考えながら、マナの話を聞いていた。
マナの話を聞くことは、リアにとっては興味深いものだったが、精霊に関わる場所にいるのは落ち着かなかった。
「此処が、変な静けさがあるのってなんでですか?」
「精霊のおかげね。精霊がいるからこそこの場は昔より落ち着いているわ。この山って今は王家の山と呼ばれていて、まだ落ち着いているけれど……昔はもっと此処は危険な場所だったのよ。今もその名残もあるから、危険といえば危険だけど」
「へえ……」
リアは精霊というものを知覚したことはない。精霊というものをよく分かっていない。
それでもそれだけの力を持つ存在というのは、脅威であろう。
(やっぱり精霊って怖い存在だと思う。恐ろしいというか、興味深いというか……この場所が王家の山と呼ばれる理由も、精霊がいるからか。それだけの強さを持つ精霊だときっと怖いんだろうな)
リアは恐ろしいとそればかり考えている。
それでも恐ろしいからこそ、精霊を知ることが必要である。
「――女王様、此処の精霊は、私にとって敵ですか?」
「あのね、リア。敵だったら連れて行かないわよ。本当にリアは心配性ね。そういう所がきっとリアらしいのでしょうけど。此処の精霊は貴方の事を知っているわ。そして貴方のことを気にしているようなの。リアは精霊を見えなくても、精霊たちはリアを気に掛けられるもの」
「……そうですか。でもそれも、怖いですね」
リアは自分が気に掛けられているという事実に恐ろしさを感じる。この大きな山全体に、結界を張り、来るものを拒む――そんなものを生み出せるものは怖いのである。
「リア、何も気にしなくていいのよ。貴方は貴方らしく、此処にいる精霊と関わればいい」
「……それで、殺されたりしません?」
「大丈夫よ。少なくとも私はリアを殺させはしないから」
「なら、安心です」
リアはリアらしくしか結局いられない。自由気ままに生きているリアは、精霊の前だろうとも、いつも通り過ごしていくことだろう。それでも問題がないとマナは言うが、それでもリアは心配している。しかしマナが言い切ってくれたので、ほっとしているのであった。
それからリアはマナと一緒に山を登る。
エルフの女王であるマナと、《姿無き英雄》と呼ばれるリア。
二人の《超越者》が居れば、何も危険なことなんてない。
(女王様と一緒に山を登るのは楽だね。やっぱり女王様が強いからだろう。女王様と一緒にこうして山を登るのも中々楽しいかも。でも精霊に会うのはちょっとアレだけど)
リアはマナと共に山を登ることに楽しさを見出している。マナとリアが揃えばどんな魔物でも特に問題なく葬れる。まぁ、そもそもマナが魔力を垂れ流しているからかあんまり魔物もよってこないが。
あとマナが言うには、精霊の力が働いていて、精霊が望まないものは山の中で迷いやすいらしい。ただし、今回はマナの道案内なので、そういう心配はないが。




