過去あり主人公っぽいクラスメイト1
「―――というわけでHRを終わる」
リア・アルナスは担任の話を適当に聞き流しながらも、アルフィルド学園の生徒として一年A組の教室に居た。
相変わらずその顔には何の表情も浮かんでいない。何を考えているのかさっぱりわからない。入学式から既に一か月ほど経過している。その間にぼっちであるリアに話しかけようとした優しい生徒もいたものの、まったくリアが相手にしなかったため、今ではリアに話しかけようとするものはあまりいない。
椅子に腰かけているリアは「日誌」というものを手にしていた。今日の日直はリア・アルナスとカトラス・イルバネスの二人である。
しかし、誰から見てもわかる事だが、日直の仕事はリア一人で終わらせていた。
カトラス・イルバネスという少年は、この学園の中でも異質な存在であるといえた。それは一重に強者を目指すための学園に居るというのにやる気を欠片も見せないからだろう。それでいて実力はとびぬけているというのだから、クラスメイト達にとっても接し方がわからないクラスメイトという認識であった。
教室の中で所謂ぼっちなのは、リア・アルナスとカトラス・イルバネスだけであった。
最も二人とも自分が一人であることをさして気にした様子はない。寧ろリアに至ってはぼっち生活を充実していた。
(やっぱり学校ってのは苦手で、嫌いだな。一人って素晴らしい)
などと考えながら読書をする。読んでいる本は到底一般生徒が読むようなものではない。《魔術式構成式・上級》などという高度な本だ。
しかし教室内でその事を気にするそぶりを見せるクラスメイトはいない。それはリアが《隠蔽》というスキルを行使しているが故だった。
ちなみにステータスもそれで《隠蔽》している。《スキル解除》や《分析》のスキルがあれば《隠蔽》を解除することはできるが、それは《隠蔽》を行使している人よりもレベルが高くなければ効果をなさない。
ギルド最高ランクを保持しているリアの《隠蔽》を解除できるものなどそうはいない。
そもそもこの学園内でリアよりレベルが高い猛者は居ない。だから、誰もリアのやっていることに気づかない。
(日誌に書くこととか正直ないよね。私個人の出来事なら書く事割とあるけど、そんなの普通に書かないし。適当に授業の様子を書くかなぁ。てか、イルバネス本当仕事しないな)
日誌にちらりと視線を向けてリアはそんなことを思う。そして次にカトラス・イルバネスに目を向ける。
カトラス・イルバネスは一切日直の仕事を手伝う気がない。寧ろ日直であるという事を知らないのではないかとさえ考えられる。
とはいえ、リアは特に文句を言うつもりもない。
自分から対して親しくもない存在に話しかけるなんてそんな恐ろしい事リアは進んでしない。
それに一人でのんびりと日直をする方がリアとしては楽だ。あとステータスを《隠蔽》している学園でのリアのレベルは十五とされている。本来のリアのステータスはこんな感じである。
リア・アルナス level.120
種族 人間
年齢 十五歳
HP 2500
MP 1200
STR(筋力値) 950
VIT(防御値) 590
INT(知力値) 600
DEX(器用値) 486
AGI(俊敏値) 822
LUC(運値) 460
CHARM(魅力値) 444
獲得スキル
《隠蔽level.98》、《瞬速level.95》、《気配察知level.100》、《無音移動level.89》、《空中歩行level.95》、《魔力level.90》、《火属性level.87》、《闇属性level.88》、《水属性level.69》、《神聖術level.64》、《暗殺者の心得level.70》、《隠密行動level.73》、《アーランド流刀術level.101》、《コーロルダ流槍術level.99》、《マルタガ流双剣術level.105》、《ネルネアス流格闘術level.80》、《回避level.111》、《分析level.70》、《読書level.99》、《調合level.69》、《浮遊level.55》
ユニークスキル
《何人もその存在を知り得ない》
獲得称号
《活字中毒者》、《姿無き英雄》、《ドラゴンキラー》、《空気》、《一匹狼》、《臆病者》、《隠密行動の達人》、《戦乙女》、《影なる王者》、《暗躍する魂》、《複数流派の獲得者》、《トラブルホイホイ》、《ギルドランクX》、《超越者》
本来のステータスでも《臆病者》の称号をリアは持っている。
リアはこの世界に生れ落ちてから、恐怖心をずっと感じていた。
それはこの世界が地球ではいなかった恐ろしい魔物があふれる事を知っていたから。
『ホワイトガーデン』時代、廃人であり、隅々までゲームをプレイしていたリアは特にこの世界がどういうものか知っていた。最もこの世界はゲームの時代よりも後の時代だけれども。
死にたくないという思いと死ぬかもしれないって怯えが常にあった。だからこそ、リアは強くなった。だって強者であるならば死なずに済むからだ。生きていけるからだ。
最もその結果、ギルドマスターに見つかり、養子にされたわけだが。
(お義父さんにはどうあがいても勝てないしなー。それにギルド最高ランクの方が強い物と戦いやすいし)
《臆病者》であるが、戦闘狂。リアはそういう存在だった。
死にたくないから強くなりたい。強くなりたいなら戦えばいい。強者に勝てたってことは生きていけるという事。強い存在と戦って、かつ事で、まだ生きていけるとそんな風にリアは安堵する。強くなったって。これでまた生きれるって。
(はやく帰りたい。ゆっくりのんびりしたいけど、家帰ったらネアラが居るんだっけ。あー、私が助けたからだけど、正直あんまり慣れてない人が家に居るとか困るんだよなぁ)
何て考えていたら一つの声が響いた。
「イルバネス!」
それは、ティアルク・ルミアネスの声だった。
リアはちらちと視線を向ける。
ティアルクの後ろには、相変わらずミレイ・アーガンクル、レクリア・ミントスア、エマリス・カルトの三人の美少女が居る。ちなみに、ティアルクの助け出したフィリア・カザスタスはクラスが違うこともあってここにはいない。最も休み時間にはやってくるわけだが。
カトラスは、ティアルクを見る。なんだよ、とでもいう風に。
「アルナスさんに日直を押し付けるんじゃない! かわいそうだろう」
リアはティアルクがそう口にした瞬間さっと本を閉じ、ティアルクたちに悟られないように教室から出る。
リアとカトラスの日直の番が回ってくるのは二回目であるが、一回目の時からカトラスは一切日直をしなかった。正直ティアルクがカトラスに説教するのはどうでもいいが、自分が絡む事を大声で言われるのは迷惑である。
(そもそも私は別に一人で日直の方が楽だから放っといてくれたら一番楽なんだけど)
なんて思いながら、一時間目の授業が始まる時刻まで時間をつぶそうとしばらくうろうろするのであった。




