学園生活をのんびり送る。
リアはのんびりと授業を受けている。
課外実習であれだけ暴れたり、エルフの国で粛清を行ったり――そういうことを起こした後も、リアは平然と過ごしている。
リアという少女にとってみれば、課外実習もエルフの国での出来事も――全てが日常の一部でしかない。他の者達にとっては、非日常だったとしても、リアにとってはただの日常の一部だ。
「《姿無き英雄》様があの森にいただなんて……是非お会いしたかったわ」
「イルバネスは《姿無き英雄》様の活躍を見たんだよね」
「やっぱり《姿無き英雄》様は凄い」
カトラス・イルバネスがクラスメイトたちに囲まれている。それはカトラスがこの学園に通うようになってから、はじめての光景といえるだろう。カトラスは課外実習以降、こうして囲まれていて、正直言ってうんざりしている。
――当の本人が、私は関係ありませんとでもいうようにのんびりと日常を過ごしているのもまた色々と考えてしまうものである。
リアはカトラスに視線を向けられたのに気付いたのか、他の周りに分からないようにカトラスの事を睨みつけた。
その殺気にカトラスは慌てて視線をそらした。
(……うん。やっぱりイルバネスを生贄にしてよかったよ。私が目立つよりも、イルバネスが目立った方がいいもんね。それにしてもあれだなー。イルバネスがどれだけ本気で強くなろうとしているかもちゃんと確認しないとな)
リアはそんなことを考えながら、本を読んでいた。
のんびりと本を読むリアはカトラスのことを鍛えたくないわけではない。一度口にしたことはちゃんと行いたいとは思っているので、そういうつもりはある。ただし、自分が強くなることの方がリアにとっては第一である。
(まぁ、この前ネアラに接触したみたいだし、私に本当に鍛えられたいなら頑張るでしょ。それよりも本当にイルバネス見ていると良かったって思う。私が《姿無き英雄》だと分からなくても、私が目立ったんじゃ意味がないもの。目立ってイルバネスみたいに囲まれたら絶対に嫌だもん)
リアにとってみたら嫌だなと思っているので、生贄に出来て良かったとほくほく顔である。あんなふうに囲まれたらこうしてのんびり過ごすことなんて出来なかっただろう。
(これから何をしたいかももっと考えて行かないと。薬師の弟子にもちゃんとなりたいしさ。そのあたりもちゃんとしないと。エルフの女王様と一緒に王家の山にも登るし、あとは……やっぱり天空島にいきたいから)
――リアはやりたいことが沢山出来ている。
その一つ一つをこなしていこうとリアは考える。
正直、《超越者》であるリアは就職をする必要は全くない。それでもリアが薬師になろうとしているのは、ただ自分が目立ちたくないからである。
その目標が叶えられなくてもリアはどうにでも出来るか、それでも薬師として生計をたてられるぐらいにはなりたいリアである。
(天空島に行くとしたら冬休みかな。一人でぶらぶら天空島にいって、そしてルーンのいっていたもっと先へ行けたら……って思うし。もっと図書館で調べないとだし)
ルーンと話したからこそ、余計にリアは天空島への興味がわいていた。天空島に向かい、そして見た事がない場所をもっと見たいと――そうリアは考える。
その後、授業が始まって、リアは授業を受ける。その授業でも教師がカトラスに話しかけたりしていた。それは全て《姿無き英雄》にカトラスが関わったからである。そしてカトラスが課外実習以来、授業も真面目に取り組んでいるからというのもあるだろう。
教師からしてみれば、課外実習をきっかけに才能の芽を伸ばそうとしているカトラスに嬉しくなっているのだ。
その原因であり、この世界の英雄の一人である《姿無き英雄》がこの場にいるとは教師はまったく思っていなかった。
リアはあてられれば答えるが、それだけである。リアは相変わらずマイペースで、誰ともかかわることなく、ただ授業を受けている。
リアのことを教師は全く気にも留めない。運よく生き残っただけとしか認識していない。――それだけリアが彼らの思う《姿無き英雄》の姿と異なるからである。
(というか、去年もあれだったし、今年もこんな感じだったから来年も何か起こったりするんだろうか。その時のためにも準備しとこうかな。でもあれかな。その時までにイルバネスのことを鍛えておけば、私が何かしなくてもイルバネスの方でどうにかできるかな?)
リアは来年も同じように何かが起きるというのならば、カトラスを鍛えるのもいいかもしれないと思った。カトラスを鍛えて、もっと目立たせることにすれば自分が目立たなくていいと思って心の中で笑った。
カトラスはリアがそんなことを考えていることなど想像もしていない様子で普通に授業を受けているのであった。




