エルフの国で粛清 ③
「――ここであのマナを倒す」
「しかし、本当に倒せるのか? あの女、レベル三百もあると噂だが」
「その事実自体が本当のことかは分からないだろう。それに幾らレベルが高かったとしても隙というものはあるものだ。人質が取れなかったことは残念だが、それでも勝機はある」
――愚かなことに、彼らはエルフの女王であるマナに勝てるつもりでいる。そんな勝利、夢を見たところで手に入るはずなどないのに。
そして彼らにとってみれば、マナを打倒することは正義である。
彼らはこのエルフの国の膨大な権力を全て範疇に収めているマナという存在が気に食わない。その権力はマナ一人が享受するものではなく、エルフ全体に配るべきである、とそんな風に思っているようだ。
そもそもの話、このマナフィルムという国はマナという女王がいたからこそこれだけ発展し、マナという存在のおかげでこれだけ発展してきたのだが、そのあたりのことは無視していると言えるだろう。
レベルが三百オーバーというのも、誇張なのではないかと思っているようだ。
それだけこの国が平和だったからなのかもしれない。マナが力を振るう必要があるような状況がこの国には陥って来なかったのだろう。だからこそ、マナの実力を疑うような馬鹿も出てきたと言えるのかもしれない。
彼らは道具を使ってマナを倒そうとしているようだ。
その多くが魔法を使うのを阻害するものである。並の存在ならば、一つでも魔法を使えなくなってしまうだろう。それがかなりの数がある。彼らはマナと敵対するような愚か者なのだが、そういう所は頭が回っているらしい。
マナは幾ら強者とはいえ、エルフである。エルフは通常、魔法の扱いに長けていてそれ以外はそうでもない。マナであろうとも魔法を防げればどうにでも出来ると思っているのかもしれない。
――ついでに言えば、他の側近たちだってこれだけの数があればどうにでも出来ると。
さて、その道具を手に自分たちの勝利を確信している様子の男たちをリア・アルナスはそっと見ていた。
(うわぁ……あんな道具で女王様をどうにかできるならだれも苦労していないよ!! そのくらいで女王様がやられるならとっくに女王様は女王ではなくなっているよ!! そんな簡単なことも分からないなんて馬鹿すぎる。私なら幾らハンデがあったとしても、何か道具があったとしても女王様を倒せるなんて全く思わないんだけど。しかもさ、この馬鹿たちを殺しちゃいけないのかー。殺しちゃった方が絶対にはやいのに女王様は優しいっていうか、エルフの国を愛しているんだろうな)
リアはそんなことを考える。
《超越者》は基本的に変わり者で、自分勝手なものばかりだ。自分勝手で、自分のことばかり考えているからこそ――、《超越者》に至れる。どこかで割り切らなければ、どこかで足元を掬われてしまうものである。
マナは《超越者》の中でも慈愛というものを持っていると言えるだろう。リアには欠片もない感情である。そもそもマナは女王なんてものをやらなくても、一人でもこの世界を生きていける。国に縛られる必要性など、マナにはない。それでもこの国をおさめているのは、やはりマナがこの自分が作りだした国を大切に思っているからだろう。
――自分の暮らしている場所に愛着を少なからず持つ気持ちはまだ分からなくもないが、こういう存在たちをも国民として認識しているマナの気持ちはさっぱりリアには分からない。
(私が何もしなくても女王様はどうにでも出来る。けど、折角此処に来ているし、こういう連中相手に少し遊ぶのもいいかも。基本的には女王様が何かしらするんだろうけど。私は女王様の言っていたように何かしようとする存在をちょくちょく止めるだけ。ああ、でも女王様がどういう風に戦うかとかちらっとでも見れると思うと嬉しいかも。もちろん、女王様はこういう連中に本気なんて出さないだろうけれども。それにああいう道具を使われた状況で自分も動けるかとかも)
リアは自分を律して、ただ自分が強くなるためにストイックである。リアはそういう道具を使われたことがない。なので、使われた状況で自分がどうなるのだろうかと考えていた。もし使われて動きにくくなったとしてもマナがいるなら助けてはもらえるだろうし、敢えて浴びてみてもいいかもしれない――などと酔狂な事を考えている。
(そもそも魔法が封じられたとしても物理的にどうにでも出来るしな。しかしあの道具使えば使った方も魔法が使えないものかな? いや、でもそれだと詰むだろうし、相手だけが魔法を使えなくするとかできるのかな? うーん、分からない。使ってもらわないと分からないからな)
あの魔法具が実際にどういう効果なのかリアには分からない。
そういうものをリアはあまり使ったことがない。そもそもリアの戦い方は物理的に叩き切るといった脳筋な戦い方である。レベルをあげてその力で敵を倒す!! という戦い方なんてあったものではない。
リアはその道具を使った状態の自分はどれだけ動けるのだろうかと、こんな状況でワクワクしていた。




