ネアラの処遇
「えー」
学園の授業を終えた放課後にギルドマスターに呼ばれて、ギルドを訪れたリアはギルドマスターによって放たれた言葉に不服そうな声を上げた。
不機嫌そうな表情を浮かべて、駄々を捏ねる子供のような仕草をするリアであった。
エルフの女王様と邂逅を果たしてから五日後、あの時リアが助けた少女ネアラがようやくギルドマスターの元へと届けられたのである。ギルドマスターの隣にネアラがいる時点で、嫌な予感はしていたものの、ギルドマスターの言い放った言葉はリアにとって予想外のものであった。
「だから、これはお前の義妹になるといったんだ」
そう、ギルドマスターはリアにとって不可解な事を言い放っている。
リアがつい先日助けた少女、ネアラを養女にするなどと。そしてもう関わる事がないと思っていた少女が、自分の義妹になるだなんて正直リアにとって望ましい事とは言えなかった。いや、寧ろ望ましくない事だと言えるだろう。
「……何で?」
「才能があるからだ」
ネアラを養女にする。その発言に対する疑問にすぐに答えが返ってくる。
ギルドマスターは基本的にリアが助けた事情がある若者などは全て孤児院に送っていた。
それなのに何故わざわざネアラを養女にするのかと言えば、『才能があるから』だった。
「お前を養女にしたのもそうだ。才能があったからだ。こいつもお前ほどではないにしても才能がある。だから、お前の義妹にする」
リアを発見してすぐに養女にしたのと同様、ギルドマスターはネアラを養女にするのだという。才能がある子供というのがギルドマスターは好きだった。それゆえに才能がある子供は養女にするのである。
(……もう関わりないと思ったのに義妹になるとか。めんどくさい)
リアは人と関わる事が苦手である。ギルドマスターや義姉はまだ良いとしても、一昨日助けた少女が新しい家族になるといわれても正直ピンと来ないのだ。
「そしてこいつはお前に預ける」
「は?」
続けて言われた言葉にリアは驚いてギルドマスターを見る。
リアの視線の先では何処までもにこやかに、楽しそうに笑うギルドマスターが居る。一切悪びれのない笑みを浮かべて、了承するのが当然だといった態度である。
「これはお前が助けてきたものだ。お前が面倒をみるんだ」
「嫌だよ!」
言われた意味を理解して、リアは思わず叫んだ。
それに驚いたのはネアラである。
一日しか接していなかった《姿無き英雄》のあまりにも子供っぽい言葉だったから。
「嫌だよ。絶対に嫌だよ! 何で一人暮らしのマイホームに得体のしれない子をいれなきゃいけないの!」
「得体が知れないってお前が助けたんだろう」
「そりゃ、素性はわかるよ。でも嫌だよ。他人と生活をするなんて私が嫌がる事知ってるくせに!」
リアは怒っていた。
(エルフの女王様への手紙を届ける事でも嫌だったのに! 何で私が他人と生活しなきゃいけないの)
自分のお金で学園の近くにアパートを借りている(最も所持しているのはギルドマスターだが、お金はちゃんと払っている)リアは、元々自分の場所に他人が入る事を嫌う。それは義父や義姉であっても同様だ。度々やってくるソラトに関しても慣れているから少しは許容出来るが、余りにも部屋にくるなら問答無用で追い出しているほどである。
それなのに一昨日出会ったばかりの少女の面倒を見ろと言うのだ。
とはいってもリアはギルドマスターを信頼はしている。自分に頼む事に何か意味があるのではないかとも思っている。
だからこそマナへも渋々だが手紙を届けたのだ。
(……何か大事な事だと思って届けたのにしょうもない事書いてたなんてお義父さんの馬鹿! 油断した時、一週間から一ヶ月後ぐらいに闇討ちしてやる!)
物騒な事を考えるリアはギルドマスターがわざわざリアの事を思って手紙を書いたなどと思いもしていない。
なんせギルドマスターはそんな親バカな心配などリアの前では見せないのだから当たり前かもしれない。
それでも、そんな思考に陥ってもなんだかんだでリアはギルドマスターを信頼していた。
だからこそ、不服そうにしながらも答える。
「……どうせ拒否権はないんでしょう。いいわ。その子、私の方で面倒をみる。才能があるから預かるっていうなら私が強くするわ」
それはめんどくさそうな物言いであった。
(それに私と一緒にいるなら色々巻き込まれそうだし…、近くにいたからって死なれたら縁起悪いし…。うん、悪い方向に考えずに弟子を取ったって思おう。そうだ。憂さ晴らしに徹底的に死なないギリギリぐらいで鍛え上げれば――…)
相変わらずリアの思考は危険であった。
「《姿無き英雄》に鍛えてもらえるとは……」
などと感慨深く呟いているネアラがその事を後悔するのはすぐ後の事である。
「あ、ネアラ。こいつは学生だから平日の昼間は暇なら此処にくるといい」
「お義父さん! 居候は認めてもそんな情報バラす事、私認めてないんだから!」
さらっと自身が学生だという事実をばらされたリアが吠える。
「はは、怒るなよ」
「お義父さんの馬鹿!」
《姿無き英雄》がこれだけ怒っているというのに笑って流すギルドマスターは流石と言えるだろう。ネアラは目の前の親子の口論をただ見ている事しか出来ない。
「相変わらず子供っぽいなお前は」
「私はもう十五歳なの! 子供扱いしないでよ!」
「充分子供だろ。十五歳なんて」
「あー、もう本当いつかぎゃふんって言わせてやるんだから!」
「おう、やれるもんならやってみろ」
「その言い方ムカつく!」
そこまで言い切るとリアはネアラの方を振り向く。突然視線を向けられて、ネアラは戸惑ったようにリアを見返していた。
「義妹になろうと私の邪魔をするならすぐに殺すから」
「……は、はい」
「はははっ、そんな脅すなよ。お前の義妹だぞ?」
「お義父さんは黙ってて。――で、ネアラ。私は一切手加減しない。私の、やり方で、貴方を鍛える。……死にたくない、なら、死ぬ気でやりなさい」
鍛え上げる事に一切の手加減をしないとそう言い切る。
リアはやるからにはとことんやる性格をしていると言えるだろう。
自分を養女にしてくれた人、今の自分が存在するのに欠かせない人――それがリアにとってのギルドマスターだ。そんな人に頼まれたからこそ、断れない。
そもそもギルドマスターの方がレベルが高いし、断る事は難しいのだ。
「じゃあ、ネアラ。お義父さんに、場所、聞いて。そして、きて。私、もう……行く」
「え、あ、は、はい」
リアはネアラの返事も聞かずにユニークスキルを使用して、その場から消えるのであった。
そして、リアには義妹が出来た。




