二度目の課外実習 11
「……何が起こっているの!?」
同じ頃、転移者である少女――アユミは襲い来る魔物達を倒しながら、動揺したように声をあげていた。
アユミはティアルクと同じ班にならなかったことに対して、落ち込んでいたものの、愛しいティアルクのために課外実習で成果を出そうと考えていた。
―—転移者であり、ゲームの時と同じステータスを持つアユミにとって、こんな学園での課外実習など楽勝である。そうさっきまでアユミは思っていたのだ。
ちなみにアユミと同じ班に、ポユ・ルジとアキラ・サラガンもいた。アキラに関しては相変わらずリアに拠り所を壊されたために壊れたままであるが、日常生活は行えていた。心あらずでも――魔物退治ぐらいは出来るのだ。
アユミは森の中でティアルクに会えたりしたらな、などと思いながら過ごしていたのだ。のんびりと過ごしていた時に、まさかの魔物の大量襲来。それもレベル五十一を持つアユミでさえギリギリなレベルの量である。
(何でこんなことになっているの!! はっ、もしかしたらティアルク先輩が危険なのかもしれないわ!!
ティアルク先輩が何かに巻き込まれてこんな事態になっているのかもしないわ。私ならティアルク先輩の力になれるからティアルク先輩の元に駆けつけないと!!)
アユミはあくまで、自分の強さを過信している。アユミにとってこの世界は今の所イージーモードである。本気で死にかけることなどまだしたことがない。そんなことが自分に起こるはずがないと思っているのかもしれない。
―—だけど、危険というのはそういう過信した相手にこそ迫るものである。
「アユミさん!!」
ポユが声をあげた。
その顔は青ざめているが、なんとか魔物と戦えている。こうしてポユが此処で戦えているのもソラトに特別な思いを抱き、戦ってきたからといえるだろう。そんなポユの声にアユミが横を見た時、魔物がとびかかってきていた。
「あ」
声を上げた時にはおそく、油断しきっていたアユミはそのまま吹き飛ばされてしまう。
「いたい……」
木にぶつかって、地面に落ちたアユミはその痛みに声をあげる。
(痛い。痛い痛い……!!)
意識を失いそうなほどの痛み……。油断したからこその痛みをアユミは味わっていた。アユミは回復薬を取り出して飲み、なんとか立ち上がる。
立ち上がった時には、植物と一体化している人型の魔物が何体か、アユミに迫っていた。その魔物は人を取り込み、養分にすると有名な魔物である。養分にした魔物が強ければ強い程、その力を増すという恐ろしい魔物だ。
アユミはふぅと息を吐いて、魔物達へととびかかる。
目の前の魔物を倒すことで精一杯のアユミには、周りを見るだけの余裕はない。
―—アユミから少し離れた場所では、アキラとポユといった同じ班の生徒たちが苦境に立たされていてもアユミにはどうする事も出来ないのである。
淡々と魔物を相手していたアキラも、魔物との戦いの中で感じた痛みに――自分を取り戻しつつあった。
(……痛い。このままでは死んでしまう。俺は……死にたくない。俺の神はもういない。俺の居場所はもうなくなった。……でも……)
痛みというのは、その人が生きている証である。その証を魔物達に感じさせられ、アキラは徐々に正気を取り戻していた。
正気を取り戻せば、もう大事だった場所が無くなった現実から目を背けることさえもできない。でもそうだったとしても――アキラは、
「死にたくない」
死にたくないと感じてしまった。
自分の神のためなら死んでもいいと思っていた。自分の神がいないのならば死んだ方がマシだと思っていた。
―—なのに、アキラはいきたいと思ってしまった。生きている人々なら感じて当然のその願望を、アキラは抱いてしまった。
その目に光が戻ってからのアキラの活躍は華々しい。元々、自分たちの神のためにと身体を鍛えていたアキラなので、戦いには長けているのだ。
(わあ、凄い。でもまだまだだね。絶対ソラト先輩の方が凄いもん。って、やばいやばい。あんまり考え事していると死んじゃう。ソラト先輩助けて!!)
ポユは一生懸命戦っているが、ポユの実力ではこれだけの魔物を相手にするのは厳しかった。ソラトが助けにくることを期待しながらポユはなんとか魔物と対峙している。
―—しかし限界を迎えようとした時に助けに来たのは、ポユの望むソラトではなく、
「アユミ!! アキラ!!」
ミレイたちを引き連れたティアルクであった。
ソラトに生徒を助けながら森から出ろと言われたティアルクは、それに従って生徒達を助けながら外を目指していたのだ。
これも《炎剣》の発言だからだったからこそ、ティアルクは素直に聞いたと言えるだろう。この事態も自分よりもランクが高い相手の方が解決できるだろうと。
それからティアルクはアキラの目に正気が戻っていることに喜びの声を発した。アキラはそれに苦笑しながらも、「森の外に行くんだろ」と声をかけるのだった。




