二度目の課外実習 7
場所は変わって、森の中央部。
小川の流れるすぐ傍で、カトラス達の班は魔物狩りをおこなっていた。
とはいってもほとんど倒しているのはカトラスと他二名だけである。時折リアも魔物にとどめをさしているが、それはまさしく漁夫の利と言えるものであった。
カトラスたちが弱らせた今にも死にかけている魔物に最後止めを刺すというそれだけだ。
リアのレベルではこの森を徘徊している魔物を一人で倒すのは難しいと判断されているためであった。
「……ふぅ、少しはこれでポイントとなるかな」
そういいながら、生徒は倒した魔物の一部を切断して袋に詰める。これは魔物を倒した証として学園に提出する必要があるのだ。
野外実習できちんと結果を出せるか心配していたその生徒だったが、どうにかやっていけそうな事実に安心したように息を吐く。
そして、ちらりとカトラスへと視線を向けた。
カトラスは長剣を手に、涼しい顔をして立っている。先ほどまでその得物を手に、魔物の命を葬ってきたようには見えない。
一切動揺もせず、冷静に敵を滅する事が出来る事。
それだけの度胸がカトラスにはあった。
(本当に何でこんなに強いのに……)
その生徒もカトラスの噂は知っていた。強さを持つのに、強くなろうとしない存在であると。
そしてやはり思うのは、何故こんなに強いのに強くなろうと努力しないのかという疑問である。
ティアルクに何故カトラスがこういう状態なのか聞いているはずなのにそれでもやはりそう思ってしまうのは、エマリスの傲慢さ故だろう。
その生徒はリアへと視線をずらした。
リアは相変わらずの様子で、魔物が目の前で倒されても、血しぶきが舞っても何も感じていないようだった。
その表情は決して動かず。
その口は決して開かない。
(…どうなることかと思ったけど、イルバネスがちゃんとやってくれるならちゃんと出来そうだ。良かった)
この際、リアの事に対してはどうしようもないので目をつむる。とりあえず良い成績さえ収められればいい。
そんな風に生徒は考えていた。
「じゃあ次は――」
そして生徒が次の指示を出そうとした時、服の裾を引かれた。
そちらを見れば、何時の間に移動していたのだろうか隣に来ていたリアがくいっと服の裾を引っ張っていた。
無感動な何も映さない瞳が、じっと生徒を見ていた。
「な、なんだよ」
リアがこんな風に行動するのは、はじめての事だった。
生徒は驚いたように口を開く。
「……かこま、れる」
呟かれた言葉は、小さかった。だけれども人間よりも聴力の良い生徒には確かに聞こえてきた。
でも聞こえてきたのと、理解できるかは異なる。
突然の言葉に生徒は動揺した。いきなり何を言いだしているのかわからなかった。
「は? 何をいってるんだ」
「………魔物、来る」
「魔物が来る?」
こくんとリアは頷く。珍しく自分から喋り出したリアの真意が生徒にはわからない。
カトラスもリアの言葉に驚いたように、リアを凝視している。
「……逃げた、方がいい」
どうやらそれを言うためだけに、リアは普段開かない口を開いたらしい。
「逃げる? どうして? 魔物が来るなら倒せばいいだけだろ」
「……無理」
「まだ戦ってもないのに…。これだから《臆病者》の称号を持っている奴は!」
生徒が馬鹿にしたように言った。戦ってみなければやれるかどうかわからない。それなのにリアが《臆病者》の称号を持つほど臆病であるが故に、戦う事を放棄しようとしているように感じたらしい。リアが《姿無き英雄》であると知っているなら別であろうが、この生徒にとってリアはあくまでただの弱い少女でしかない。
その目に浮かぶのは侮蔑である。
リアはそんな言葉を、目を向けられても動じない。怯えもしない。
ただその表情は、不機嫌そうに歪んだ。
そんなリアとその生徒の会話を聞いていたカトラスは胸になんとも言えないモヤモヤを感じていた。
(何かモヤモヤする。なんだろう、この違和感は)
すっきりしない気持ちが心中を渦巻き、カトラスは思考する。
「……そう」
リアはそう言うと、背を向けた。
そしてその場から去っていこうとする。
「ちょ、ま、待ちなさい」
課外実習では班行動をしなければ評価が落ちてしまう。だからこそ、何故か単独行動をしようとしはじめたリアをエマリスは引きとめようとする。
リアは、首を振る。
それに逆上したような表情を浮かべて、エマリスは掴みかかろうとするがそれは避けられる。
そんなリアの前にカトラスが出る。
「……お前な、理由ぐらい説明しろ」
わけがわからないながらも、リアを止めにかかる。
そんな疑問の言葉にリアははぁと大きなため息を吐いた。口を開くのも面倒だと言った様子で、カトラスを睨む。
普段は欠片も表情を変えないというのに、先ほどからリアの表情はころころ変わっている。
「……言った」
「は?」
「死ぬ」
そう口にして、リアは指差す。
カトラスたち三人の事を。
死ぬのだと。このままだと死ぬと。
そんな風にリアは無感情な声で言い放った。
「それ、どういう……」
「もう、遅い」
「は?」
「………来る」
不機嫌そうに言い放つ。
そして、その瞬間、ティアルク達同様彼らは魔物に囲まれた。
課外実習ちょっと長いので、12時と18時で投稿します。
その後はまた一日一話になると思います。
別バージョンに改稿して書いているので矛盾点あったら気づいたら直しています。




