二度目の課外実習 6
「僕は、ギルドランクAを所持してるんだ…」
突然の言葉。
ティアルクに何かがあるはずだと確信していたはずのミレイでさえもその言葉に固まった。
ギルドランクAは普通に生活していてたどり着ける領域ではない。
というか、S以上は一般人からしてみれば化け物も同然の強さである。そのすぐ下……ギルドランクAは《超越者》に到達していないとはいえ、その強さは凡人には計り切れないと言えるだろう。
ギルドランクAはもうすぐその領域に――《超越者》に到達し得る存在だと言う事である。
それは驚愕に値すべきことである。
ミレイは顔を真っ青にさせていた。ギルドランクの高位者――ギルドランクAに達しているという事はレベル七十近くはあるだろう存在の暴露を聞かされて堪ったものではない心境に陥っているのである。
普通に考えて一般人はあまり強者と関わらない。いや、関われない。
そもそもギルドランクCを所持していれば、そこそこのギルド員として働く事が出来るほどであり、身分も保障され、学園に通う必要性などない。
それなのに学園にティアルクが通っているという事は何かしらの事情があるという事である。
普通に考えてそんな重そうな事情に、一般生徒が関わりたいと思うはずもない。
ティアルクが軽はずみで暴露をはじめている。こんな誰が聞いているか分からないような場所で。幸いにも、ミレイ以外は近くにいない。それでもこんな場所で話すことではないのである。
(ティアルクのギルドランクがこれだけ高いなんて、どうして、こんなところで過ごしているのだろうか)
ミレイはティアルクがなんでこの学園に通っているのだろうか。何か任務でもあるのだろうか――とそこまで考えていた。
普通に考えてギルドランクが高位であるものが学園に通う理由など何一つないのだ。その事を貴族の令嬢としてミレイは十分に理解していた。
「ティアルク、それは――」
ミレイが口を開く。
何を言えばいいのか、正直わからない。
何を語ればいいのか、正直わからない。
だけれども、ミレイはティアルク・ルミアネスという存在の事を知りたかった。
(私はティアルクが何を抱えていたとしても、ティアルクのことを知りたい。ティアルクが私にこうして秘密をいってくれたのは私のことを信頼してくれたからだろう。ティアルクは私にそういう感情を抱いていないのはわかるわ……。だからこそ聞かないといけない)
好きだと思ったから、大切だと思ったから。だから知りたいと漠然とした思いを抱えて、ただ口を開いた。
だけど、その言葉は続けられなかった。
突如としてその場は、それどこではなくなってしまったからだ。ティアルクやミレイが気づいた時にはもう遅かった。
ウオオオオオオオと、大きな鳴き声が響いた。何かの叫び声。興奮したような声だった。
バサバサと羽ばたきをするのは、鳥の形をした魔物たちだ。空を舞う彼らは、地上を走り回る獲物を狙っている。
ダッと地面を強く蹴る音が聞こえてくる。
それは、生物が移動している音だった。
狼の姿や猿の姿をした魔物など――沢山の魔物達が、姿を現す。
「……これはっ」
ティアルクが声を上げる。それと同時に《アイテムボックス》から一振りの長剣を取りだす。それはいつも学園で使っているものではない。その真っ白な刀身の輝きを見れば、それが一流の職人の手によって作られている事がわかるだろう。
それは、ギルドランクAとして活躍するティアルクの本来の武器である。
本来の武器を手にしたというのは、ティアルクの本気の証であると言えるだろう。その隣でミレイも顔を強張らせながら、ティアルクのことを見ている。
「ミレイ! 話は後だ。とりあえず、やるぞ」
「ええ」
ティアルクはミレイと顔を合わせて声をかけ、ミレイはそれに言葉を返す。
(こんなに大量の魔物に囲まれてしまうなんて初めての経験で怖い。私はこの場で生き延びられるかもわからない。だけど、恐怖よりもティアルクが傍にいてくれるからこそ大丈夫だという思いが強い)
ミレイはティアルクが傍にいるからこそ、大丈夫だと自分の心に言い聞かせることが出来た。何が起きたとしても、ティアルクという光が前にあるからこそ大丈夫なのだと。
―—ミレイはティアルクの横に立ち、武器を構えるのだった。




