二度目の課外実習 5
「……何かおかしい気がするのですぅ」
レクリアは珍しく緊張感のある表情を浮かべていた。
いつものようなのほほんとした表情はそこには見えられない。木々に手をあてて、呟く。
そして、空を見上げ、物思いにふける。
そんなレクリアに同じ班の生徒が近づいていく。
「どうかしたか?」
「……森の様子がおかしいのですぅ。警戒していた方がいいのですぅ」
「おかしい?」
男子生徒は問いかける。その表情は何処か硬い。
それはレクリアがエルフであるからというのも一因だ。
何故ならばエルフとは森と共に生きる一族と言われるほどに自然の様子を読みとる事に長けているからだ。
エルフは、感覚が鋭い。
何の感覚かって、それは魔力を知覚する感覚である。
エルフが魔法が得意な種族とされているのは、それ故である。事実、エルフは幼いころから魔力を感じる能力が優れており、他の種族よりもはやく魔法を行使する事が出来た。それに加え、MPを使用して使うスキルも使用するのが上手い。
ただ一つエルフの欠点を言うなれば身体能力が低い事である。
見目が麗しく、魔法が得意で―――エルフとは、そういう種族である。
一重にエルフの女王であるマナがあれだけレベルをあげることをができ、世界でも名の知れた強者である理由はその魔法能力によるものだ。
レクリアは難しい顔で返事をする。
「ええ。おかしぃのです。生物の気配が沢山するのです。そして沢山蠢いているのですぅ」
「…蠢いてる?」
「ええ。この森には普段そんなに魔物は居ないと聞いていましたが、今は違うように思えますわぁ」
相変わらずの緩い喋り方、だけれども何処か真剣味を帯びた声。
木々の間を見据えて、空を見て、そして呟く姿には、それが本当なのだと思わせるだけの何かがあった。
(おかしいです。こんな風な予感がするなんて。課外自習という、生徒が沢山いる時にこんなことが起こるなんて、なんてことでしょう……)
レクリアはそんな思考をしながらも、その表情をこわばらせている。
そんなレクリアの言葉と様子に、話を聞いた生徒の顔色は悪くなる。
「魔物が多い…?」
「ええ。逃げた方がいいのかもですぅ。私達死ぬかもしれないですものぉ」
ええ、ええと頷いて、そんな風に言い出すレクリアは中々マイペースだろう。
死ぬかもしれない。なんて口にしたレクリアは、口を閉ざす。そしてそのまま、荷物をまとめるとこの場から去ろうと行動し始めた。
「レクリアは此処から逃げるのか?」
「ええ。このままでは危険ですぅと本能が告げてますから。ですから班の皆さまにも声を掛けましょう」
本能に従うとそんな風に笑うレクリア。
レクリアも何もこんな所では死にたくはない。危険だと感じた直感は何よりも信じるべきだ――そんな言葉をレクリアに投げかけたのは他でもないエルフの女王であるマナである。
(生き抜くためにも危険な時は逃げることは大事なのですから……。ティアルクたちの事は心配ですが、ティアルクなら大丈夫でしょう。それにこれから逃げる時に声をかければいいのですから)
いそいそとレクリアは準備をすませ、歩き出す。
それを見て、その生徒も決意する。
「――じゃあ、俺も行く」
「いいのですのぉ? 私の本能が間違っていれば、何も起きなければ課外実習の得点が酷い事になりますのよ?」
「いい。エルフの森での本能ははずれる事はほとんどないだろ」
自然の中でのエルフの判断にほとんど間違いがない事は歴史が証明している事実であり、生徒ももちろんその事は知っていた。
そのため、結局生徒は課外実習を途中中断する事に少しの躊躇いはあったものの、レクリアと共に他の斑員を連れて、此処から去る事を決めたのであった。
(…とりあえず教師とかにあったらレクリアの事を言ってどうにか逃げるしかないか)
そんな風に思考しながらも、生徒はレクリアと共に他の班員を引き連れて歩き出すのであった。
その逃げる過程で見かけた教師や生徒には、この森が危険かもしれないということを告げる。とはいえ、全員がその言葉を聞いたわけではない。中には課外自習を途中を途中で終わらせるわけにはいかないと言い張って聞かないものもいた。
レクリアはそんな生徒に逃げることを強制することはなかった。
結果としてエルフのレクリアがこうしてすぐに行動を起こしたからこそ、犠牲は少なくなったと言えた。




