二度目の課外実習 3
「…ティアルク、荷物はそれだけですの?」
ミレイはティアルクの腰に下げられた少量の荷物を見て不思議そうに口にした。
課外実習は数日間行われるものである。
そのため、野外での宿泊のための道具を生徒は様々に持ち込むのは当然であった。お嬢様であるミレイも必要最低限の道具を精一杯詰め込んで課外実習に挑んでいる。
ミレイは課外実習が始まってからずっとティアルクの荷物が少なすぎる事に驚いていた。それは日帰りで何処かに遊びに行く時と変わらないような荷物だった。
ちなみに同じ班の上級生と下級生たちは魔物退治に向かっている。二年生であるティアルクとミレイは、本日の拠点と決めたこの場所を守ることを上級生から頼まれていた。
「え、それだけって?」
「…これから課外実習で三日間この森で過ごすのですよ。それなのにそれだけの荷物なのは少なすぎる気がして」
ティアルクの返答にミレイは当たり前の事を答えた。
野外での宿泊をしなければならないのならば、色々と準備しておかなければならないものが多くある。
荷物は基本的になんでも持ち込み可である。
自分で野外学習に必要な物を考えて、持ち込む。野宿をする際に必要なものを知ると言うのは、将来のためにもなることである。
将来的に戦闘の中に身をおくならば、絶対に野宿しないとは限らない。
「大丈夫だよ。《アイテムボックス》があるし」
ティアルクの告げた言葉にミレイは固まった。
(《アイテムボックス》? そんな高価な魔法具普通の学生が持てるものではありませんわ…。でもルミアネス家という貴族は聞いた事もないのですわ。貴族でもなく、高価な魔法具を持っているなんてやっぱり普通じゃないですわ。この一年半で私はティアルクの傍にいて、ティアルクの事を知ったつもりになっていたけれど、私はティアルクが隠していることを知らない)
普段からひしひしと感じていたティアルクへと違和感は正しかったのだとそう実感する。
魔法具と呼ばれるものがある。
魔法具職人たちの手によって一つ一つ作られるそれはとても高価だ。
道具によって値段が安いものはあるが、少なくとも《アイテムボックス》は性能の悪いものでも八千万ギルはするだろう。一般市民の平均収入が月に三十万ギルな事を思えば普通ならば手に出来ないものである。
《アイテムボックス》は半永久的に使え、沢山のものを収納出来る便利な魔法具なのだ。
そんなものを一介の学生が持てるかと聞かれれば持てるはずがない。
ならば、目の前でそれを普通に所持しているなどと言うティアルクはやはり普通ではないと言える。
「どうしたの?」
だけどティアルクはそれがおかしな事だと自覚していないようだった。
どうして驚いているのかわからないといった態度である。それを見たミレイは思わずなんとも言えない気持ちになる。
ミレイはアーガンクル公爵家の娘である。そのため、自身が一般的な金銭感覚を持ち合わせていない事ぐらい把握している。でもそんなミレイでさえ、おかしいと思う金銭感覚である。《アイテムボックス》を普通に個人が所持しているというのは。
(……ティアルクは何者なんですの。普段から色んな事が出来て、凄く強いし、並の人ではないことは知っているけれど。このタイミングなら、二人きりならティアルクに聞けるかもしれない。今まで聞きたくても話してくれることを待っていたけど、私は知りたい)
勘付いてはいた。
だけれどもこれほどまでに人と認識が違うだなんて思っていなかった。黙り込むミレイとそれに困ったように笑うティアルク。
「……ティアルク。普通の人は、《アイテムボックス》なんて持っていないんですわよ」
「…あ」
ミレイの言葉にティアルクははっとなったような表情を浮かべる。
「……ティアルクは、何者なんですの? 普通の学生ではないですわよね?」
それはミレイが一歩、ティアルクへと踏み出した瞬間。気になっていたけれど聞けなかった事を聞こうと踏み込んだ。
この秘密を知る事で自分たちの関係は変わるかもしれない。それでもミレイはティアルクという少年に恋をしているからこそ、ティアルクの事を知りたかった。どんな秘密だったとしても受け入れて見せようという気持ちでティアルクを見る。
「僕は――」
それに対し、ティアルクは答えた。




