二度目の課外実習 1
「では、これより課外実習を始める」
その場に教師の声が響き渡った。
そこは、アルガヌの森。
木々がざわめき、花々が咲き乱れ、獣の鳴き声が響き渡るようなそんな場所。
教師の周りでは生徒たちが真剣に話を聞いている。
この課外実習は生徒全員が参加しているものだ。上級生も含めた班に分かれた上で、いくつかの場所からスタートする。それは全校生徒が同じ場所から移動することが大変だからである。そもそもそれだけ集まれば、幾ら広大な森の中とはいえ、生徒たちが衝突しあうことになるかもしれない。
リアは、カトラスを含む生徒たちと共にそこに佇んでいる。
(私の事がバレないようにのんびりやろうかな。変な事が起こらなきゃ一番良いのだけど。どうだろう? ハーレム主人公も色々遭遇しやすいし、私も結構色々遭遇しやすいしなぁ)
リアはそんなことを考えながら相変わらずの無表情である。その表情は何を考えているのかさっぱり周りには分からないことだろう。
「沢山の経験を積み、是非強くなってみせろ」
教師は生徒達の前に立ち、堂々とそんな台詞を言い放つ。
自身のようになって見せろとでもいうような物言いは、教師が自分の強さに自信を持っているが故の態度に見えた。
強くなりたいと多くの人が思っている。
それは強さとは全てが手に入る手っ取り早い手段であるから。
強さとはこの世界では絶対的な無視できない項目であるから。
その教師はレベル五十を越えた実力者である。そんな実力者からの言葉に生徒達のほとんどが奮いたった。
最初にスタートする拠点は、ハーレム主人公の取り巻きの一人である獣人の少女と同じエリアだった。
エマリスはわざわざカトラスに近づいてきて、言葉をいい放つ。
「ティアルクに負けたんだから、今日は真面目にやってくれるんだよな?」
それは確認するような言葉だった。
「……約束は約束だ。真面目にやる」
それを見て、ぶっきらぼうにカトラスが言い放つ。
その言葉を聞いたエマリスは、安心したように息を吐く。そして自分の班へと戻っていった。
リアはやれやれといった気分になった。
(……わざわざ確認に来る必要とか全くないと思うんだけどなぁ。カトラスって何だかんだ真面目ちゃんだし。今は色んなことが重なって、やる気を失っているだけみたいだけど、やる時は鍛錬しているしさ。それよりもハーレム主人公の実力を結構把握しているのに、あの決闘を良しとしているのが一番の問題なのだけど)
エマリスには是非ともカトラスのことよりも、ティアルクのことをどうにかしてほしいと思ってならないリアである。正直言って学園生活中に《姿無き英雄》だとバレる気はないが、そうでないにしても何かの拍子で絡まれたらたまったものではないのだ。
ちなみにリアとカトラス以外の上級生は去年と違い、リアのレベルが低くても見捨てる気はないらしい。まともな上級生にあたってリアは少しほっとした。別にリアの実力ならばこの森で生き残ることぐらいはたやすいが、去年と同様置いて行かれてしまったら目立つだろう。
またネアラを捕まえて連れて行ってもらうのもありかもしれないが、それはそれで目立つ。
(課外実習はギルドからも人がくるから余計に気を付けないと。学園の連中よりも目が節穴ではないだろうし、私が実力隠しているって気づくかもしれない)
リアは慎重に事を進めて行こうと思った。
この課外実習の中で、自分の事が広まるなんてことになったら学園生活を続けられない。そもそも学園生活中にバレたらリアは問答無用で学園をやめて逃亡するだろう。
そんなわけで学園生活を穏やかに過ごしていくためにもリアはバレないようにしようと思った。リアはカトラスのことをちらりと見る。
(やっぱり一番は過去アリ主人公をこれでもかってぐらい目立たせて、私が目立たないようにすることだよね。今回は本気出して真面目に取り組む気みたいだし、それならばやりようもある。何かややこしい事態にならないように過去アリ主人公を目立たせて、学園で噂になるぐらいにしよう。で、私はのんびり、隠蔽したレベルだけの動きをしたいな。……まぁ、何も起こらなきゃだけど)
何も起こらなければ過去アリ主人公を目立たせる方向で行こうと決意して心の中で笑う。
――そんなことを思われているなどと欠片も知らないカトラスはといえば、ティアルクに負けたため真面目に取り組む気はあるものの……色んな感情を感じているようだ。
強くなることを諦めた自分が、強くなるための課外実習を真面目に取り組む。――それは矛盾しているような行動だ。そもそも諦めたのならばこんな学園に来なければいいので、リアからしてみればカトラスは十分に色々と矛盾した存在であるが。
(……やるだけやるか)
そしてカトラスは、やるだけやろうと決意して、上級生に続いて森へと入っていく。




