ハーレム主人公は友人を元気づけたい。
「アキラ、一緒に遊びに行こう」
ティアルク・ルミアネスは、アキラ・サラガンにそう言って笑いかける。
アキラの反応は薄い。――相変わらず心ここにあらずな様子で、彼は学園生活を送っている。《姿無き英雄》に自分の拠り所としていた宗教団体をつぶされ、生きる目的を失った彼には、ティアルクの言葉も響かない。
そんなアキラをティアルクは元気づけようと連れまわしている。
そしてティアルクの周りにいるミレイたちだって、アキラの様子が尋常ではないため、ティアルクがアキラに心を砕くのも仕方がないかと思っているようだ。
アキラの心は壊れている。自分の一番大切にしているものがなくなってしまったから。
(……ハーレム主人公の言葉は、あの男友達には伝わっていない。そもそも、サラガンにとってはハーレム主人公はあくまで生贄でしかなかっただろうし。まぁ、私に倒されるぐらいの存在は決してこの世界を支配する神になんてなりえなかっただろうけれど)
リアはスキルを行使してじーっと、ハーレム主人公たちを観察していた。
自分がその拠り所を壊し、今のアキラ・サラガンの現状に繋がっていることは分かっているが、それはリアにとってどうでもいいことである。
なのでリアが何か働きかけることはない。観察対象ではあるが、結局のところ、アキラ・サラガンが絶望してようが、このまま腑抜けたままだろうが、まぁ、それはそれなのである。
(拠り所にしていたものが滅びるってどんな気持ちなんだろう? 私のそれは……強くなる事かな。そして自分が死ぬこと。うん、結局の所、私がサラガンと同じ現状になることは死なない限りない。そして死んでしまったらこんな感情も感じないだろうし、ないな)
自分の事を客観的に考えて、リアは、そのように考える。
一度死んだ身だからこそ、リアはそういう風にぶれない。リアは強くなることを拠り所にしていて、リアにとっては自分が死ぬことだけが唯一の絶望である。
言ってしまえば生きてさえいればどうにでもなると思っていると言えるのかもしれない。
「アキラ、あのさ――」
「アキラ!!」
「アキラはさ――」
アキラ・サラガンのように理由も語らず、ただ周りが見えなくなって、心ここにあらずな様子を見せればもう構ってられないと見捨てるものもいるだろう。ただティアルクはそういう事はしない性格のようだ。
アキラがどれだけティアルクに反応を示さなくても、アキラがどれだけ自分を見ていなくても――それでも友人だと胸を張って言うだろう。
それは完全にリア充でコミュニケーション能力の化け物だからこそ出来る能力である。リアには理解が出来ない。
リアの視線の先で、ずっと虚ろな目をしているアキラはなぜか学園にはちゃんと通っている。自殺する事もない。
(絶望した人って、もっと行動をしなくなるかと思ったんだけど、サラガンって日常生活は送っているっていうか、うーん、そもそも元々宗教団体の命令でこうして過ごしていたし、それを行わなければならないって感情なのかな。心ここにあらずでもその命令を遂行しなければいけないと思っているのか。だけれどもやっぱり自分の拠り所であった場所がないことは確かだからそれを受け入れられなくて今の感じ?)
アキラの行動はリアからしてみれば不可解である。よく分からない。自分が分からないからこそ、どんな行動を起こすのだろうかと思い、良い観察対象であるわけである。
(そもそももういないものを気にしても仕方がないしね。そもそも宗教団体がつぶれたのは私よりも弱かったからだし。私よりも強くて――それで本当に呼び出した神もどきが神のような全知全能な力を持っていて、この世界の誰もを屈服させる存在であったならこんなことにはならないだろうし。強者が歴史を作り、強者の命令が絶対だろうし、負けたのが悪いよね)
リアは恐らく誰が居なくなったとしてもアキラほど絶望することはない。リアも人間なので少しぐらいは落ち込んだり悲しむことはあるかもしれないが……それだけである。
リアの目の前で、アキラはティアルクがどれだけ元気づけようと頑張って話しかけていても無言で、適当な対応である。ティアルクの事など見ておらず、ティアルクのことなど考えていないことが分かる。
アキラにとってはティアルクのことよりも、今はもうなくなってしまった宗教団体の方が大事なのであろう。
「――なぁ、アキラを元気づけるためにはどうしたらいいんだろうか。きっとつらいことがあったのだろう。でも僕はアキラの親友だからアキラに笑っててほしいんだ」
ティアルクは、周りの友人たちにそう問いかけて憂いを帯びた表情を浮かべている。リアはえーって気持ちでそれを聞いている。
親友とアキラのことを口にしているティアルクはアキラの事を知らない。それでもティアルクにとってはアキラは親友らしい。
ティアルクの言葉にミレイたちは笑みを溢して、色んな意見を言っていた。
その様子をしばらく覗いた後、リアはその場を後にした。




