二年目の課外実習が近づいてきている。
さて、リア・アルナスはいつも通りの学園生活を送っている。
週末にエルフの国へ向かい、ラウルという友人から聞いたゲームの話をソラトに語りまとめてもらい、ルーンの元へ向かったり――と自由気ままである。ちなみに週末はエルフの女王様の元へと向かうので、ルーンの元へ行くのは放課後である。放課後に霊榠山を行き来するのは、リアだから出来ることだろう。
(ソラトは日本語もさっさと覚えたし、いい感じにまとめてくれている。それにしても何であいつあんなに覚えるのはやいんだろ?)
ソラトには日本語を覚えさせ、ラウルに聞いた情報を纏めさせている。ソラトは意気揚々とそれを行っている。
(女王様の所では、少しずつ情報は集まっているし、いい感じだけど……まだ女王様の元へは週末行かなければならないけれど。もう少ししたらエルフの国へ週末通いも終わるかな?)
リアの予想ではもうちょっと頑張ればエルフの国への週末通いは終わるだろうと想像しているのである。あくまでリアの目安のため、実際にどうかはわからないが……。
リアはその日ものんびりと誰とも会話を交わさず、ただそこに存在して淡々と授業を受けていた。その場にいる誰も、リアの事をまさか《姿無き英雄》であるなんて思いはしない。それだけ平凡に埋没しているのがリアである。
ちなみに、ティアルク・ルミアネス達に関しては相変わらず目立っている。入学してまだそんなに経っていない新入生たちにも、あの男は何者だ? と言われているのである。リアは呆れながらも、学園生活中にバレるだろうなと思って観察している。
(――あれだよね。ハーレム主人公がバレる可能性がある一つの大きなイベントが今度あるこれだよね)
リアはそう思いながらプリントに目を通す。
そこには、課外実習のことが書かれている。去年もあった課外実習が今年も行われるのだ。今回もギルドのメンバーが学園からの依頼を受けて今回も参加する。ネアラもおそらく自分の意志で参加することだろう。
ネアラはリアとソラトにあこがれの気持ちを抱いているため、驚く事に二人に関わる事だと率先して関わろうとするのである。
去年の課外実習では、リアは足手まといだと置いて行かれた。正直言って、今回の課外実習でも何か起こる可能性だって多いと思う。
リア・アルナスという少女は一見して、侮られるような見た目をしている。誰よりも弱く見え、やる気がないように見える。そして《臆病者》という称号まで持っている。その少女は強者とは結び付かない。
(また置いて行かれるかな。それはそれで目立ちそうだから嫌なんだけど、まぁ、仕方がないかな。でもなるべく置いて行かれないようにした方がいいか)
正直、二年連続置いて行かれたら驚くほどに目立ってしまうから――。
目立つことはリアにとって嫌な事である。だけれど、リア・アルナスが巻き込まれ体質で何か起こる気配はする。
(そもそもなんだか主人公っぽいハーレム主人公と過去アリ主人公もいるわけだしなぁ。何もないってことはおそらくない。その何かが起こった時に私がどれだけ目立たないようにその場を乗り切れるかが一番の問題か)
リアは何もないという事はないと思っている。
――課外実習という出来事があるのならば、何かが起こる予感がする。リア一人でも何か起こる予感があるのに、リア以外も何か出来事を呼び寄せそうな人がいるので、その思いも当然である。
(……それに今回は、過去アリ主人公と同じ班だし)
正直言って、何でカトラス・イルバネスと同じ班にさせられてしまっているのだろうか……という思いはリアにはあるが、それはそれで楽しそうなのでそのあたりは問題ない。
《姿無き英雄》に救われ、《姿無き英雄》に憧れ強者を目指し、そして挫折した過去を持つ少年。それでいて、《姿無き英雄》の事を今も気にかけている。
(……強くなるのを心から諦めたわけではないのならば、何かしらのきっかけがあればおそらく動き出すだろうね。そのきっかけが学園中に起こるかは分からないけれど、間近で観察が出来るのは楽しいだろう)
学園生活でのイベントは、煩わしい気持ちも大きい。ただ、時折観察を楽しんでいる者達が何を起こすのかというのを覗き見するのは楽しいだろうとリアは内心笑う。
――あくまでも傍観者であることをリアは望んでいる。
話題に上がる中心に自分がいることをリアは望まない。
自分が目立つことになりそうだったら、他の生徒を生贄にして目立たせて、自分は埋没したいとさえ考えている。
(幸い、過去アリ主人公が同じ班だし。それならば何かあれば過去アリ主人公のことを目立たせればいい。元々この学園内でこれだけあからさまに強くなろうとしていない存在として、さぼり魔な存在として目立っているんだから、課外実習で目立ってもおかしくはないはず)
自分が目立つことがありそうならば、カトラス・イルバネスを生贄にして目立たせようとリアはそんなことを考えて微笑んだ。




