放課後に友人と昔の話をする ②
リア・アルナスは放課後になると、ラウルの家へと向かった。
その道中でも何か面白そうなものがあれば、リアは寄り道してこっそり覗き見していた。そんなこんなしながらラウルの家へとたどり着く。
家の明りはついている。ラウルか、ナキエルかは分からない。そのためリアはこっそりと開け放たれる窓から中へと侵入する。
勝手に侵入するリアは自由気ままである。
さて覗き見をすると料理をしているナキエルが居た。料理中に気絶させると、火事になるだろうか……などと考えてリアはちょっと待つことにする。ちなみにラウルも家にいる。
(早くご飯作り終えないかな。終えたらすぐに気絶させるんだけど)
リアは相変わらず自由気ままであり、ナキエルのことは気にもかけていない。ナキエルはリアにすぐに気絶させられそうになっていることなど把握していないので、ご機嫌そうに鼻歌を歌っている。
盛り付けまで終えて「ラウルさんを呼びにいかないと」とナキエルが言った途端、首に一撃あて、気絶させる。
(よし、目覚める気配なし。寝させよう。床でいいか? んー、でも床だと目覚めるか? どうしようかな、此処でいいか)
リアはそんなことを考えながらよいしょと身体を抱え上げ、並べた椅子に寝かせる。その後はラウルの元へと向かった。ラウルは、部屋で本を読んでいた。この世界の情報を集めているらしい。それは良い事だとリアは思う。
(今の自分に満足してしまえば、そこでもう停滞する。そんなのつまらない。というか、そんなつまらない存在が私よりもレベルが高いとかなんか嫌だし。そうなったらもう友人やめるな)
そんなことを考えながらリアは、背後に近づく。
「ラウル」
「うおおおお」
「煩い」
いい加減慣れればいいのにと思いながらリアは耳を塞ぐ。ラウルからしてみればいきなり現れるたら驚くのは当然だが、リアからしてみればもう少しどうにかしてほしいと思う。ユニークスキルを使っていて気づかれるのは嫌だけれども、レベルが自分より高いなら気づけばいいのになどと思ってしまうリアである。
「ラウル、私と話す」
「え、ああ、いいけど……」
ラウルは心臓をバクバクさせながらリアに答える。
正直な話、ラウルはこの前の気まぐれ強化合宿でリアに対する恐怖も芽生えている。リアはそのあたりを敏感に感じ取っていた。
それでもそのことを口にすることはない。リアにとってラウルが自分に怯えていようが怯えてまいがどっちでもいいのである。
「ちょっと待てナキエルに言っておかないと」
「大丈夫」
「え?」
「さっき気絶させた。放置しておいてオッケー」
「何やってんの!?」
「煩い。いいから話す。話し終えたらナキエルを起こせばいい」
リアの有無を言わさぬ言葉にラウルが反対出来るはずもない。そもそもそんなことをしたらリアが不機嫌になることが分かるからである。
ラウルにとって今の所この世界で一番怒らせたくない相手はリアである。前世のリアは、此処まで恐ろしい存在ではなかった。ゲームでしか知らなかったが、普通の女の子だったとラウルは思っていた。
だけれどリアは、この世界で変化したのだろう。――リアは友人ではあるけれど、前世でのリアと今のリアは一緒であり、違う。
だからこそ、ラウルは付き合い方に悩んでしまったりもする。
どちらにせよ、ラウルからリアに会いにいくことは出来ないので、リアが会いたい時にラウルに会いに来るだけの関係だが。
「……えっと、じゃあはやく話そう。何を話したいんだ?」
「ゲームの事」
「ゲームの事?」
「うん。私、此処の世界に来て結構たってる。忘れていることも多い。ラウルの方が覚えているでしょ」
「覚えているけど……」
リアはラウルをじろっとみる。相変わらず何を考えているか分からない瞳だ。無表情で、淡々とした語り口に、ラウルはリアの感情が読めない。
(リアって難しいんだよな。前世ではゲームでだけの関わりだったけど、この世界で実際に会うと……余計に何を考えているか分からないっていうか。それはやっぱりリアがこの世界でずっと生きてきたからだとは思うけれど。ちょっとリアに見られるとドキリとする。恐怖的な意味で。もちろん、リアの事は友人だけど……。そう考えるとあれだけリアのことを大好きって態度のソラトも、リアの素を知っていてもリアの事を尊敬している様子のネアラも凄いんだよな)
この世界で生きていく――という意志はある。だけれどもラウルが本当に、この世界を受け入れていくのにはもっと時間がかかるだろう。自分でもそのことをラウルは自覚している。
それ故にソラトのことも、ネアラのことも凄いと感じてならない。
「聞きたいけど、ゲームでは権力者ってどうだった? ラウル、関わってきた? エルフの女王様とかも」
「えーっと、俺はそのエルフの女王様には関わったことはないよ。ゲームでも知り合いではなかった。でもゲームでエルフの事は話されていたなとは思うけど」
ラウルはリアの問いにそう答えた。




