週末はエルフの国へ ③
リアは、エルフの国に溶け込んでいる。
誰にも気づかれることなく、誰にも話しかけられることなく、ただそこにいる。王城を後にしたリアは、マナに不満を持っている連中のことを考える。
(女王様に不満を持っている連中……。その人たちってどういうところにいるんだろ? 正直私は女王様に不満を持って何かしようとしている存在が理解出来ないから想像出来ない)
リアはマナから不満を持つ連中の情報はもらわなかった。マナが忘れているということはないだろう。敢えて、もしかしたら情報を渡さないのかもしれない。先に情報をもらわずに行動したほうが予想外の情報を掴んでくるかもしれないとそう思っているのかもしれない。
リアは事前情報があろうとも、なかろうともどうでもいいと思っている。どちらにせよ、やる事は変わらない。
ただリアは人込みにまぎれて、情報を集めるだけである。
「ねーねー、マナ様のことを見かけたの!! なんてかっこいいんでしょう。私、いつかマナ様の元で働きたいの!!」
「あらあら、素敵な夢ね」
小さな女の子と母親らしい女性がそんな会話を交わしているのが聞こえる。
――母親はエルフで、少女は人間とのハーフらしい。エルフというのは人間よりも寿命が長く、その分数は少ない。リアが生まれるよりもずっと前は種族間のいざこざもそれなりにあったらしい。
VRMMOの頃――『ホワイトガーデン』の世界でもそういうイベントはあった。リアは、エルフの国をぶらぶらしながら、久しぶりに前世で遊んだゲームの世界の事を考える。
(私はゲームの世界ではエルフの国には来なかった。でも……ゲームの時期はエルフの国って実装されてすぐだったっけ? ちょっと流石に前世の記憶ってうろ覚えなんだよなー。ラウルに聞いた方がわかるかな? ラウルはまだ精神を地球に置いてきているっていうか、私よりもVRMMOの世界の事が分かっているだろうし)
リアはこの世界がゲームの世界だと理解して、強くなるためにその知識を使ってきた。とはいえ、十六年もこの世界を生きていれば、昔のことで忘れてきている。とはいえ、ゲームの情報をラウルと話すことでもっと強くなれるかもしれない――というそういう事を考えるとリアはわくわくした。
(とはいえ、今は女王様の頼みを遂行することが先か)
リアは王都をぶらぶらしてみて回ったが、流石にマナのお膝元と言える王都でそう言う目立った集団は見当たらない。ただ変な動きをしているものは見かけた。
王城で働いている男性らしい。種族は、このエルフの国では珍しい悪魔族。その存在は、自大陸からあまり出ないので、リアもそんなに見かけたことはない。
その存在がこそこそと動いていた。よっぽど周りに知られたくないのだろう。周りを警戒していた。リアがユニークスキルを使っていなければ、彼の動きに気づくものは誰もいなかったかもしれない。
でも、どれだけ警戒をしようとも――リアという存在に気づかなければ意味がない。
リア・アルナスがそこにいることを把握しなければ、意味がないのだ。
どんな秘密でも、リアの前では筒抜けであると言えるだろう。エルフの女王であるマナのようにリアの事に気づかなければリアの土俵に立つことさえも出来ない。
合言葉を口にして、不思議な建物の中へと入っていく。
(ふーん、怪しい。何とも怪しい。でもこの人が女王様に反意を持っているかどうかは調べないと分からない。別のことでこそこそしているかもだし)
もしかしたらこの人は何か隠しているのではないか――とリアが考えて、覗き見した結果、リアが引くような趣味を持っている人も結構これまでいたのだ。もしかしたらマナの事をどうにかしたいなどと思っておらず、何か隠したい趣味があるのかもしれないのだ。
そういう誰にも知られたくない秘密を、実は知らないうちにリアが知っているというのはよくある話である。
(ふーん、なんか何人かいるけど、なんか魔法使ってるね。聞かれないようにしている? やっぱり何か変な事企んでいる可能性がある? ちょっともう少し準備をしようか。下手につついて私が動いていることを悟られてもややこしいし、要注意にしておいて……油断した所で情報をもらえばいいし)
必ず人はどれだけ気を張っていてもどこかで気を抜くものだ。
その油断した瞬間を――リアは狙うことにした。リアがひっそりとついていくうちに情報を漏らすだろうと考え、しばらくリアはその男を追いかける。
その中で悪魔族の男の、小さな女の子が好きだという趣味が分かったりしたが――それが分かったところで追いかけるのはやめなかった。やっぱり何かありそうだなーと思って追いかけたリア。そのうち分かったのは、その男はマナに反意を翻すつもりはないらしいが、利用されようとしていることが分かった。
(悪魔族の中でも若いからってことか。あとは小さな女の子好きっていうのでそこから落とそうとしている感じだね)
そんなことを考えながら、リアはもっと情報収集をすることにした。




