後輩はソラトと仲良くなりたい。
ポユ・ルジは二学期が始まるのを楽しみにしていた。というのも、ソラトに会えると思ったからである。
ポユは、ソラトに夏休みも会いたかった。会ってくれるのならば、場所を教えてくれるのならば家に押しかけたかった。
しかしソラトに拒否されてしまったため残念なことにソラトと夏休みに会えることはなかった。
(……ソラト先輩は、夏休みはどんなふうに過ごしていたんだろう。ソラト先輩の大事な人と一緒だったのかな。ソラト先輩の大事な人とも会いたいなー。ソラト先輩が卒業する前にソラト先輩からの信頼を勝ち取れたらいいのに)
ポユはそんなことを考えながらソラトの事をばかり考えている。
夏休みの間、ポユがどんなふうに過ごしていたかといえば、レベル上げに勤しんでいた。ポユはソラトに出会うまで此処まで強くなろうとはしていなかった。強くなれるのには越したことがないと思っていたが、そこまで積極的に戦うことに全てをかけているわけではなかったのだ。
それがソラトに出会えたから。ソラトに出会ってしまったから――。たった一つの出会いが、人の人生を左右するものである。
ソラトはリアと出会って《炎剣》になるまで強くなった。
ネアラだってリアに出会えたからこそ、今のネアラがいる。
――リアに関しては転生者であるというのもあり、最初から目的があったのでまた別だろうが。とはいえ、リアもギルドマスターやソラトとの出会いで変わったことも沢山あるだろうが。
ポユにとっての大きな出会いというのは、ソラトとの出会いである。ソラトに出会ったからこそ、強くなろうと思った。
(夏休みは私が生きてきた中で一番頑張った!! それは自信を持って言える。だからソラト先輩にいって、褒めてもらいたいなぁ)
などと考えているポユであるが、ポユのことを聞いてもソラトは特に褒めはしないだろう。それはソラトがポユ以上に鍛錬に勤しんでいるからといえる。ソラトにとってポユの頑張りは、特に頑張ってるとは思えないのである。
ソラトが憧れ、ソラトが追い付きたくてやまないリアはソラト以上に強さを追い求めているのだ。
「ソラト先輩!!」
さてポユはソラトを見かけると話しかけた。
もちろん、人がいない時にだけである。ソラトは人がいる前で話しかけてくるのは嫌がることをちゃんとポユは分かっている。
学園に居るソラトは相変わらず顔を長い前髪で隠して、相変わらず不気味な様子を向けている。そんなソラトに進んで近づくのは、ポユぐらいであろう。
ポユはこうしてソラトの本当の姿を周りが知らなくて自分が知っているというのが嬉しかった。
「――なんだ?」
ソラトは何で自分に話しかけてきたのだとそんな風に冷たい目を浮かべている。
「ソラト先輩、私、頑張ったんですよ。夏休みもソラト先輩に追いつきたいと頑張ってたので、ほめてほしいです!!」
ポユはそんなことを言っている。ソラトはポユに視線を向ける。その冷たい視線にぞくぞくとしてしまう。
「レベル上がったのか?」
「え、いえ……そんな簡単にレベル上がるわけないじゃないですか!! なんですか、ソラト先輩は上がったんですか?」
「俺は上がったな。今のレベルだと上がりにくいけどリ――……何人かと一緒に鍛錬したりしたから」
リアの名前を出しそうになって止める。リアの名前をポユの前で出せば、ポユはリアに興味を抱くだろう。
気持ち悪い思考をしているポユだが、勘が良いことをソラトは分かっている。だからもしソラトがリアのことを口にしたら、ポユはリアを探し当てる可能性がある。
「えー。凄い!! ソラト先輩はやっぱり凄い!! 私もレベルあげたいです」
「じゃあ、あげればいいだろう」
「……ソラト先輩は付き合ってくれたりは」
「しないな。そもそもレべルが低いお前が、夏休みっていう時間があったのにレベル一つあげてないのはお前にやる気がないからだ」
褒められるかもと期待していたポユだが、冷たくされてもぞくぞくするのでこれはこれでアリだなどと変態的な事を考えていた。
(ソラト先輩に褒めてもらうためにはもっともっと――、頑張らないと。というか、ソラト先輩は現状、私の事をどうでもいいと思っている。私が近づかなかったら、ソラト先輩は私と話もしないだろう。そういうのはちょっと嫌だ。というか、折角ソラト先輩という存在に出会えたのだからソラト先輩の中で気にかける価値がある存在になれたら――よし、頑張ろう。この学園生活中にソラト先輩と仲よくなればソラト先輩の親しい人とも仲良くなれるかもしれない……)
そんなことをポユは決意する。もっとソラトと仲良くなりたいから、もっと近づきたいから。そしていつか、ソラトの大切な人を知りたいなと思っている。
――ソラトはリア以外はどうでもいいと思っているので、気に掛けられることは難しいとソラトを知るネアラが知れば思うことだろう。
ただまぁ、ポユが思う事は自由である。ポユがレベル上げを成功させるかどうかは、本人次第である。




