気まぐれ強化合宿 3
「ネアラ、戦う」
「うん。でもリア姉、それよりこの人のことを紹介してもらっていい? その人、リア姉の噂の友達だよね。ソラ兄が嫌がってた」
リアはネアラを連れて、霊榠山にやってきていた。ルーンのいる山頂ではない。寧ろ麓に近い場所だが、それでも霊榠山と呼ばれる場所は危険な場所なのだ。
その場所に連れてこられたネアラは、ソラトが連れてきた男の人へと視線を向けて告げる。
――ネアラはラウルの存在を知っていた。ソラトが散々文句を言っていた存在。それでいてリアよりもレベルが高いという不思議な存在。
……ネアラはラウルをマジマジと見る。
正直言って、目の前の存在がリアの友人だというのは何とも言えない気持ちになる。
(リア姉の友人にしては――、何だか隙が多い。リア姉よりレベルが高いって聞いているけど、そんな強者のオーラ? みたいなのもない。リア姉とソラ兄もそういうのは隠しているけど近づけば近づくほど、二人は強いことが分かる。でも――目の前の人はそういう雰囲気があまりない)
まじまじと仮面越しにネアラは、ラウルを見る。
仮面越しとはいえ、見つめられていることが分かるラウルは気まずい気持ちになる。
「えっと……俺はラウルだ。よろしく」
「……私はリア姉の義理の妹のネアラ。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるネアラは、やっぱりラウルという存在が不思議である。
「えっと、君は――」
「ラウル、無駄話する暇なし。鍛える」
「いや、でもリア。俺は、何も説明を受けずにつれてこられ――」
「黙る」
ソラトから行く先も告げられずに此処まで強行突破で連れてこられたラウルは、レベルのこともあり身体の疲労はそこまでないものの、慣れてないことをして疲れていた。
強化合宿をしてもらえることは、ラウルにとってみればありがたいことだ。しかし、此処に辿り着けば休ませてもらえると淡い期待を抱いていたラウルの思いは裏切られる。リアに視線を向けられ、ラウルは黙る。
これ以上何か言ったらリアがどんな風な態度をするのかわからないというのが分かったのだ。
「――ソラト、ネアラを、鍛える。私、ラウルにちょっとやる」
「えー。俺、リアちゃんに鍛えてもらいたいんだけど。折角リアちゃんと一緒に鍛錬出来るって思ったのに? ねーねー、リアちゃん、俺と鍛錬しよーよ!!」
「はぁ……ソラト。煩い。ちょっと、黙る」
「えー……じゃあ、リアちゃん。俺がネアラを鍛えるのちゃーんとやったらさ、俺のことも鍛えてよ!! 合宿って言うぐらいなら何日かやるんでしょ。だったらその時間の何割か俺にもさいてよ!!」
「……ちゃんとやったら」
「やった!! じゃあ、俺全力でネアラ鍛える。リアちゃんに褒めてもらえるぐらい頑張る!!」
霊榠山――そう呼ばれる魔物溢れる地で、リアもソラトもマイペースだ。リアにとってみれば、霊榠山は庭のようなものであるし、ソラトも麓に近い場所ならば問題がない。まぁ、ソラトはリアがいるなら大丈夫だろうと思っているから気が抜いているというのもあるだろう。
ネアラはソラトがやる気を出してしまい、気が気ではなかった。だって、ソラトがリアのことに関しては本気を出すことも分かっている。だからこれからどんな目に遭うのだろうかとハラハラしていた。
逆にラウルは少し呑気であった。それはリアの厳しさや冷たさを何となく知っていたとしても真実分かっていないからであろう。そしてリアと一緒に居るソラトを初めて見て、こういう風にソラトが喋るのだと驚いていた。
「よし、ネアラ行くぞ」
「……うん」
「なんだ、やる気ないな?」
「いや、ソラ兄、絶対……スパルタでしょ」
「当然。だって俺はリアちゃんに褒められたいんだから。お前を鍛えないとリアちゃんが俺に時間を割いてくれないんだから」
「本当にソラ兄はぶれないね……。うん、いいよ。私も強くなりたいし、死ぬ気で頑張る」
ネアラはこれまでの経験で、死ぬ気で頑張らないと本当に死んでしまうことを理解していた。それだけ《姿無き英雄》と《炎剣》と呼ばれる二人は容赦がないのだ。
そのことを誰よりもネアラは知っている。
(強くなる。いつか《超越者》になりたい。リア姉とソラ兄に追いつきたいから。だからこそ、私は……、死ぬ気で頑張る。死ぬかもしれなくても、二人に追いつくために。二人と同じ方法で強くなるために)
目の前のソラトを見ると、ネアラは不安がないわけではない。どれだけ無茶ぶりをされるのだろうかというその気持ちも大きい。
それでも追いつきたい気持ちがあるから、ネアラは覚悟を決めた。
そしてソラトとネアラは、その場を後にする。
「じゃあ、ラウル。やるよ」
「……鍛えてくれたのは分かったけど、何を?」
「ん、すぐわかる。説明なし。身体で感じて」
「え?」
意味が分からないとラウルは驚きの声をあげる。
――だけど疑問を口にする余裕さえも、リア・アルナスは与えてくれなかった。彼女はもう既に行動を開始していたのだ




