ソラトは山頂を目指し、挫折する。
ソラト・マネリの夏休みはひたすら鍛錬をし、ギルドの依頼をこなすことを続けている。
ソラトは相変わらずリア・アルナスという存在に近づきたくて仕方がない。――彼の頭に諦めるという気持ちはない。
リア・アルナスという存在に近づきたくて、追いつきたくて仕方がないのだ。それだけがソラトにとっての生き甲斐で目標であると言えるだろう。
……だからこそ、ソラト・マネリはリアが友人と称してやまない霊榠山の《ホワイトドラゴン》ルーンに会いたくて仕方がなかった。
だけど……、ソラト・マネリは一人でルーンの元まではたどり着けない。
リアの力を借りればたどり着けるだろう。もしくは道具を駆使すればたどり着けるかもしれない。だけど、それでは駄目なのだ。たった一人で、自分の力一つで山頂に向かえなければ意味がない。
ソラトがあくまで求めているのは、リア・アルナスと対等な立場になることだ。
(リアちゃんは、俺のことを幼馴染だとは認識しているけれども、それだけだから。もっとリアちゃんの特別になるために、いや、寧ろリアちゃんの外堀を埋めるために……。リアちゃんの認めている友人である《ホワイトドラゴン》には会いたいんだよな。リアちゃんは強くなることに貪欲で、自分の意思を強く持っている。でもま、いいかと思った事は受け入れるだろうし。
というか、リアちゃんは今は正体がバレてないから目に見えている場所にいるけど、絶対バレたらリアちゃんは全力で隠れるもんな。俺はそんなリアちゃんを追いかける必要があるのだ。そのためにも俺は力をつけなければならない)
ただ自分の力だけで向かおうとするのは、他でもない大好きな少女に認められるためである。もっと特別に意識されるためにも、もっと力をつけなければならない。
ソラトはそう思っている。
リアは《超越者》で長い時を生きるのだから、自分も《超越者》にならなければならない。そうしなければ、先に死んでしまう。
(リアちゃんはそう簡単に俺に振り向いたりなんてしないんだから、《超越者》にはならなければならない。それでいてリアちゃんと絶対に敵対しないことをしめしたいし。リアちゃんは面倒な性格をしているから、下手に俺が力をつけると警戒するかもしれないし)
そんなことを思いながら霊榠山を進んでいくソラト。
身一つで霊榠山を登るなんて正気の沙汰ではないが、これもリアに追いつきたいという思いからである。
剣を振るう。
そして魔物の命を奪っていく。
ソラトはリアのような《何人もその存在を知りえない》というユニークスキルを持ち合わせない。その姿は霊榠山の魔物からは丸わかりである。そしてそれだけ狙われるということでもある。
押し寄せてくる魔物を、ソラトは倒していく。
中には、レベルも高く、ソラトが対応するのに難しい魔物がいたが、それでもリアに追いつきたい気持ちで登っていく。
――しかし、やはり……何の小細工もなしに、身一つでリアの友人であるルーンの元へ向かうことは難しい。
(リアちゃんは、ユニークスキルを使わなくてもこんな山を登ることぐらいできるだろう。そんなリアちゃんに追いつきたいのに、俺はまだまだだ。はやくリアちゃんに追いつかないと。リアちゃんの傍にいるために。
それにもう少し年を取ってから《超越者》になったらリアちゃんとの見た目の年齢差がありすぎてやだし。でもやっぱりこの山は一筋縄ではいかない)
霊榠山の中腹まではソラトでも来ることが出来る。ただどんどん上に登るにつれ、この場所は天候もあれ、魔物も強大になっていく。
そのトップに位置するのが、リアの友人でもあるルーンである。
一匹一匹ならソラトでも倒せる魔物の強さだが、群れを成していることも多く、それらすべてを倒して頂上まで向かうことはソラトにとっても難しいのである。
(あー、もう悔しいけど今日は此処までか。あまり無理をしすぎて死んだら意味がない。死んだらもう二度とリアちゃんと話せなくなるし、俺が死んだ後にリアちゃんの周りに男が居たりしても嫌だし、リアちゃんの記憶から俺が居なくなるのも嫌だし。……前来た時よりは上に行けたから、そのうち山頂にはたどり着く……。一旦戻ろう)
ソラトは途中で十数匹の蜥蜴の姿をした魔物をなんとか倒すと、下山していった。
少しずつだが、ソラトは頂上へと近づいている。リアがルーンと友人だと知ってからの大きな目標の一つがルーンに会うことなのだ。
「卒業までに、リアちゃんの友人の所にいけたらいいんだけど」
ぽつりとつぶやいて、ソラトは疲労した体を何とか動かしている。
(……ソラトもここまでは来れるようになったかー。そのうち山頂まで本当にきそうだな。それにしてもあれだけの数の魔物を倒しているって、ソラトもどんどん強くなっているな)
……当のリア・アルナスはその場に《何人もその存在を知りえない》を行使しながらその場にいた訳だが、ソラト・マネリに話しかけることはなかった。
 




