宗教団体をつぶした後のリアと、ギルドマスター
7/25 二話目
「……お義父さん」
「リアか? なんかつかれてんな。どうした?」
ギルドマスター室に突如、《姿無き英雄》リア・アルナスが現れる。
ギルドマスターは、突然現れたリアには驚く事はない。何故ならリアが突然現れることなど日常茶飯事だからだ。しかし、その様子がいつもと違ったためギルドマスターは問いかける。
リア・アルナスという少女は、出会った時からぶれず、いつでもマイペースで、自分のやりたいように生きていた。だけど、今のリアは何処か疲れた様子で、それでいて落ち込んでいるように見えた。
こんなリアを見ることはそうそうないので、ギルドマスターは驚いているのだ。
「宗教団体、変なの召喚してた。倒したけど、油断した」
「……変なのっていうのは前に言っていた生贄をささげて何か召喚しようとしていたってやつか? 何か召喚されてたのか?」
長い付き合いのギルドマスターとはいえ、喋る気のないリアの言葉はボソっと言われても全部理解出来るわけではない。
「そう。召喚された変なの。倒せたけど、ぎりぎりだった。私もまだまだ」
「リアにそう言わしめるか……。でも確か学生を生贄にしようとしていたんじゃなかったか? その学生はぴんぴんしていると聞いているが」
「ん。私がつぶして回るのに焦った。宗教団体の人を使っていた。それで変なの召喚された。多分、あれでも不完全。不完全で良かった。あと変な攻撃受けた。私の腕、大丈夫?」
リアはそう言いながら左腕を見せる。何かしら変な攻撃を受けたということは分かったので、ギルドマスターはリアの腕を確認する。何の問題もなさそうだ。
「問題ないな」
「良かった」
「それにしてもそんなにヤバいものだったのか?」
「うん。倒したら、《神殺し》の称号」
「あー、それも手に入ったのか」
「この称号、それを神って思っている人いたら手に入る?」
「そうだな。あのエルフの女王も持っているはずだぞ」
「へー」
「でもこんな称号手に入るぐらいだと、よっぽど変なのだったんだな」
「うん。素材、いる?」
「そうだな。あとで家の方にもってこい。でかいならここで出せないだろ」
「了解」
リアとギルドマスターはのんびりとそんな会話を交わす。
神と人に言われるような存在と戦った後でも、リアはマイペースだ。落ち込んでいる部分はありそうだが、ギルドマスターと話しているうちにいつもの調子を取り戻したようである。
ギルドマスターも義理の娘が神と呼ばれるような存在と戦ってきたと知った後でもいつも通りである。ギルドマスターからしてみれば、リアは無茶をして、それでもそういう存在を倒してしまえる強さを持ち合わせている存在なのだ。
「それで、何を落ち込んでいるんだ?」
「私もまだまだと実感。もっと強くならなきゃって思っただけ」
リアは落ち込んでいた。もっと強くならなければならないという気持ちと、油断して攻撃を受けてしまった事も含めて落ち込み気味である。
「お義父さん、私、ああいう神もどき相手でも攻撃受けないぐらいになる」
リアはそう宣言をすると、「それじゃあ行く」と口にしてその場から去って行ってしまった。神と呼ばれる存在と戦って勝ったというだけでも誇らしく思うのが当然なことだ。
そもそもああいう《神殺し》の称号が手に入るような相手と、通常ならば一生に一度戦うか戦わないかである。だというのにリアは《神殺し》の称号を手に入れても誇らしさはなく、攻撃を受けてしまったことを悔やんでいる。——それでいてまたそういう存在と戦う気満々である。
「あいつは本当に相変わらずだな……」
ギルドマスターはそう考えてならない。
(神を降ろして、この世界を支配しようとしていた宗教団体、その神が召喚されても倒すことが出来た。リアがあれだけいう相手ならば、一般人なら立ち向かうことなど全く出来ないような相手――そういう相手に勝利した後でも驕ることをしない。ああいうのを通過点だと思っているやつだからこそ、強くなっているんだろうけれど)
宗教団体が神を降ろして、そしてその神が世界を支配する予定になっていた。その降ろされた神を倒した。それは世界を一度救ったといっても過言ではない。——もちろん、実際にその降ろされた化け物がどういう相手だったかはギルドマスターも見ていないので分からない。だけどリアがあれだけ言う存在ならば、街や国の一つや二つはほろんだ可能性もあるだろう。
それでもリアはそれを周りに伝えることもない。そしてそれを倒したぐらいで満足などしない。
――その貪欲なまでの負けず嫌いと、力を求める心がリア・アルナスという少女を強くしていく。
(ああいうのを倒す方法をもっと勉強しよう。学園の図書館にもああいう神もどきについての情報もあるかもしれない。この世界には宗教団体の数が多いから、また同じようなのと遭遇する可能性も十分にあるからね)
リアは少し自室で休んだ後は、もっと強くなりたいと魔物退治に向かう。その思考は、もう次の事を考えていた。




