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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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エルフの国に到着しました。

 「はじめて来たけどかなりにぎわってるんだね、此処」

 「……そうじゃ…いや、そうだね」

 エルフの国、マナフィルムの王都。

 そこの入り口に立つ小さな人影が二つ並んでいる。

 手を繋いで街を見て言葉を交わす姿に道行く人々が微笑ましそうな視線を向けていた。

 二人とも背は百四十前後。

 リアとネアラは親の用事だと偽ってこの国に入国していた。関所で入国するのに問題がないと判断され無事にこのマナフィルムの首都にいる。幼い二人の少女を疑うような警備兵はそもそもいなかった。

 レベル高位者は大抵大人の姿である。

 それは大人になるまではほとんどの者が種族としての限界を超えられないからだ。最もその例外がリアなわけだが。

 そして入国してから、王都まではもちろんの事、ネアラはリアに抱えられたままの移動だった。

 身分が高い事を隠しなさいとリアに言われてから言葉遣いを気をつけているつもりだが、中々長年使ってきた言葉使いを隠すというのは難しかったらしい。

 ついでにいえば空中を揺さぶられながらの移動だったため、ネアラの気分は悪かったのもあって言葉を直す事にあまり頭がいっていないようだ。

 空中で抱えられて長距離を高速で移動なんてネアラは経験した事なかったので、それも無理はない事だっただろう。

 「とりあえず宿をとるよ」

 エルフの国とはいえ、建国から二百年以上立っているため他の種族もかなりの数が居ついていたりする。人間も少なからず住んでいる国であるから、リアたちが此処にいても対して目立ってはいなかった。

 リア達の視界に映る街並みは何処までも活気にあふれていた。

 商品を売る商人達、この街を観光に来たのか物珍しそうに見て回っている旅人達、様々な人でその場は溢れていた。

 「……宿?」

 問いかけるネアラは帽子を深くかぶり、その黒髪をすっかり隠してしまっていた。

 此処はリルア皇国と隣接した国なのもあって、隣国の姫が黒髪黒目だというのは多くの人が知っている事なのだ。

 つい先ほど死んだ事になったばかりのリルア皇国の姫が、隣国で元気な姿を見せるのは問題がある。

 なんせこの世界では他に例を見ないほどに珍しい髪と瞳の色なのだから、隠しておかなければよっぽどの馬鹿ではない限り勘付くだろう。

 「暗くなってきたし今日は泊るの。貴方はそこで待ってて」

 「《姿……いえ、リア姉は?」

 《姿無き英雄》と呼ぼうとして一睨みを食らったネアラは慌てて訂正をする。

 ちなみにリアの方が年上なため呼び方は『リア姉』に決まったらしい。

 「私はちょっとあそこに用事があるから。しばらく待ってなさい。あ、外には出たらダメだから。わかってるわね?」

 「わかっておる……」

 ネアラはリアの言葉に頷く。

 (実感はわかないが、妾は自由になれたのだ。目の前の存在によって…。そして妾は死んだ事になったのだ。それなのに元気な姿を此処で『リルア皇国の姫、ネアラ』として見せるわけにはいかない)

 正直な話、母がなくなり、父が倒れてからずっと悩まされていた問題がつい先ほど終わったと言われてもあまりネアラは実感が湧いていなかった。

 一時間も経たずに国の問題をさらっと解決してしまったリアを見る。

 ネアラと同じぐらいの背丈の小さな少女。

 栗色の寝癖で少しはねている髪を肩まで伸ばし、丸々とした幼さの残る大きな瞳を持つ、一見しただけでは可愛らしい幼い少女にしか見えないレベル高位者。

 《姿無き英雄》と呼ばれる全てが謎に包まれた存在に手を引かれて歩いている事実がネアラには不思議だった。

 助けられたのはつい先ほど。全てを解決されたのもつい先ほど。

 まだ一日も経過していないのもあって益々現実味がない話だ。

 (……こんな濃い一日、姫として生きてきて初めてかもしれぬ)

 そんな思考に陥りながらも、ネアラはただリアに手を引かれて宿まで歩くのだった。





 リアがネアラを引き連れて到着した宿は、普通の宿だった。ギルド最高ランクであれば最高級の宿にぐらい泊まれるだろうが、リアは国外に出かける場合にはいつもあえて一般客の溢れる宿をとっている。

 その事に「ギルド最高ランクなのに」と驚いたネアラにリアは、

 「私は一般人に偽装してるの。目立つ真似はしたくない。それに最高級の宿なんてかたっくるしくて嫌だし」

 と、そんな彼女らしい答えを言い放ったのだった。

 普通の一般人は最高級の宿には泊まる事はまずない。リアは『金持ち』として目立つことも嫌なのであった。

 二人部屋の一部屋を取り、お金を払いチェックインする。

 ふかふかの大きなベッドが二つ並んでおり、窓から外を見ればマナフィルムの活気あふれる様子が一望できる。中々良い宿であった。

 ネアラは色々あって疲れているのか、部屋に入ってすぐベッドに座った。

 疲れた様子の彼女にリアは言う。

 「じゃ、私ちょっといってくるから」

 「……エルフの女王への用事とは仕事か?」

 「ちょっとギルドマスターに頼まれてね」

 たったそれだけ答えて、リアはそのまま消えた。

 その場には呆れたような表情を浮かべたネアラが残されている。

 「なんという神出鬼没な存在じゃ…」

 息を吐いて、ネアラはベッドへと横たわる。そしてそのまましばらくの眠りにつくのであった。



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