事件が起きているらしい。
ルーンの傍で書いた手紙をリア・アルナスはギルドマスターへと渡した。ついでにギルドマスターあての簡潔すぎる手紙も渡している。
ギルドマスターは、リアからの手紙に嬉しそうにしていた。
「リア、ありがとう」
「……面倒だからあんま書かない」
「はは、また書く気はあるんだな?」
ギルドマスターはそう口にしながら嬉しそうにぐりぐりとリアの頭を撫でまわす。
リアは「やめて」と怒って手を振り払う。手を振り払われてもギルドマスターは楽しそうに笑っている。
その様子を見て何とも言えない表情を浮かべたリアは、「じゃ、帰る」と言ってギルドマスター室から去ろうとする。しかしリアはギルドマスターによって止められた。
「リア、ちょっと待て」
「私、帰りたい」
「まぁ、そう言うな。リアも無視できない情報だぞ?」
「何?」
リアがそう問いかければ、ギルドマスターは口を開く。
「この国で殺害事件が起きている」
「え、何それ物騒。やだ」
……自分も相手が邪魔だったらすぐに殺すということをしているが、理由がなければ殺したりなどはしないリアなのでそんなことを言う。
そもそもこの世界は人の命が軽いので、割とどんどん殺されていく。戦場で死ぬことは当たり前のことだ。そんな世界で殺害事件と口にするということはよっぽど殺されにくい人が殺されたのか。それとも本当に理由もなくに殺害を行うものでもいたのだろうか。
「……狙われているのはレベルが一般人たちよりも高いものが多い」
「ふぅん? そこに、《超越者》は?」
「流石にいないな。《超越者》に手を出そうなんて馬鹿ではないんだろう。ただ、レベルが最高でも70を超えてるやつがやられてる」
「結構強い奴」
「ああ。そうだな。結構レベルの高い連中が狙われている。レベルが低い人には興味がないらしいが、このままレベルがそれなりに高い連中がどんどん殺されるのは問題になろう? そいつが何を考えているかは俺には分からないが……」
「うん。問題。殺人鬼は困る」
リアはそう答えながら、ギルドマスターが何をしてほしいのかは理解した。リアは仮面をつけたまま、ギルドマスターの方を向く。
「――私が、捕まえる? 殺す? どっちがいい?」
「出来れば捕まえた方がいいな。リアならどちらも出来るだろ?」
「ん」
「何人も殺しているからな。流石にこのまま殺すより捕まえて罰したほうがいいだろ」
「うん。死んだら終わり」
リア・アルナスという少女は、死んだら終わりではなかった。転生というものが行われ、前世の記憶が残っていて、だから終わらなかった。けれど、通常は死んだら終わりだ。前世の記憶を持って転生なんてほとんど起こるわけがない。
(きっと私の人生も、これが終われば次はない。転生っていうのは行われるかもしれないけれど、前世の記憶を持ったままは無理かもしれない。だからこそ、死にたくないなって思うわけだし)
リアはそんなことを思っている。
(それにしてもレベルがそれなりに高い人たちを殺している人がいるか。そうやってレベルをあげているんだろうか。……まぁ、それもありといえばありだけど――そんなことしたら秩序がなくなってしまうしなぁ。この世界が人の死が軽いとはいえ……)
思考するリアにギルドマスターは言う。
「隠しているから狙われることはないと思うが、ソラトだってそいつに狙われる可能性もあるだろうな」
「あー……」
リアはソラトのことを認めてはいる。幼馴染とは思っている。そんなソラトが狙われるかもしれないと聞いてちょっと思う事はあるのであった。
「ソラトなら返り討ち出来るかも?」
「まぁ、そうだな。あいつはリアに追いつきたいってひたすらレベルをあげているからな」
ソラトはギルドマスターの言うように、リアにおいつきたいという思いで常にレベルあげを行っているため、同レベルの人たちよりも実戦経験が豊富だったり、強くなるために試行錯誤しているので、返り討ちに出来る可能性もある。
「――でもまぁ、ソラトが狙われるまで待ってたらまた被害者が増えるだろうしな」
「うん。放課後や休みの日に狙われそうな人の所ぶらぶらする」
「ああ。そうしてくれ。俺も見つけたら捕まえておく」
「お義父さんより、先に捕まえる」
リアはそんなやる気に満ちた声をあげる。ギルドマスターは仕事があるのでリアほど自由に動くことは出来ないが、見つけたら捕まえる気のようだ。
リアはどうせならギルドマスターよりもはやく捕まえたいと、そういう思いでいっぱいである。
「じゃあ、帰る」
そして話が終わればリアは今度こそ本当にギルドマスター室から去っていくのであった。、
(リアならさっさと捕まえられるだろうな。あいつは戦闘能力だけじゃなく、情報収集の能力もすさまじいからな)
ギルドマスターはそんなことを考えた後、ギルドマスターの仕事を再開するのだった。
 




