ルーンの傍で手紙を書く。
リア・アルナスはその日、霊榠山を登っている。
全速力で駆け上がるリアは、ルーンに会えると心を躍らせていた。エルフの女王様に対しての手紙もまだ完成していない。
前世でも今世でも手紙なんてほとんど書いたことがないリアである。リアは文字を書くことが苦手である。引きこもりであった前世も、やると決めたことはとことんやる性格で、ひたすら《ホワイトガーデン》をやりこんでいた。
基本的に大人しくするよりも、行動を起こす人間なのだ。リア・アルナスと言う少女は。
(本当に手紙、どうしよう。何か書き写すとかなら楽なんだけど、自分で考えて書くのは苦手)
リアはそんなことを考えながら、どんどん頂上へと向かっていく。その際にも魔物を葬ることは忘れない。《何人もその存在を知りえない》を行使して、ひたすら魔物を退治していく。此処にほぼ人が訪れないから騒ぎになっていないものの、見るものがいたらそれはもう騒ぎになることだろう。
(ルーンの元で手紙の続き書こう。ルーンなら私よりも手紙の内容考えるのもうまそう)
などとリアはそんなことを考えながら、頂上に到着する。眠っているルーンの元にゆっくりと近づいて、リアは《黒雛》と《白鷗》という武器を使って、ルーンに向かっていった。それからいつも通りの殺し合い(遊び)が繰り広げられる。
そしてリアが飽きるまで繰り広げられるのであった。
「ルーンは手紙を書いたことある?」
「あるわけない」
「内容、一緒に考えてくれる?」
「誰に書くんだ?」
「エルフの女王様」
リアがそう言いながら霊榠山の頂上で紙やペンを広げている。こんなところで手紙を書く存在なんてリアぐらいだろう。当たり前の話だが、ルーンは人ではなく、魔物なので手紙なんて書くこともないのであった。
リアは「んー」とうなりながら手紙を書いている。
「俺ではなく人の知り合いに聞けばいいものを……」
「聞いても書けなさそうだったから。それにルーンの所で書く方が落ち着く」
ネアラに聞いても書けなさそうだったリアは此処で書くことにしたのである。ちなみにソラトにはたまたま会わなかったので相談もしていない。多分、今頃ソラトは自分だけリアに相談されなかったと落ち込んでいることだろう。
「そうか」
「うん。近況報告書けばいいって言ってた。でも何を書くか」
「それでいいなら何でもいいだろ。ただ相手がエルフの女王なら文章は気を付けた方がいいかもな」
「……めんどくさい。あとお義父さんにも書いてって言われたし」
「そっちはエルフの女王よりは簡単に書いていいと思うが」
「だよね」
リアはそんなことを言いながら、寝転がって足をバタバタ動かしながら文章を考えている。ルーンはそんな自由気ままな様子のリアに相変わらずだなと思ってしまう。
「――とりあえず、この前エルフの女王様に会ってからおこったことを書くか。課外実習とか、家族旅行とか、闘技大会とか適当に書こう」
リアはそんなことをブツブツとつぶやきながら、なんとか書き進めていく。
魔物を退治したり、ギルドの依頼をこなすよりも、リアは悩んだ様子である。普通の人だと手紙を書く方が圧倒的に楽だと感じるだろうけれども、リアはそのあたりは不得意なのだ。
(ラウルやソラトのこととか、学園のことは書かなくていい。ある程度、箇条書きでも、多分エルフの女王様は気にしないだろうから、そんなのでいいか。しかし自分で読んでみると、色々と酷い手紙だよね……。でもまぁ、私の精一杯だしなぁ。うーん、でもそんなに手紙を上手く書けなくても生きてはいけるし、手紙を書く練習はしなくていいかな。それよりも私はもっと強くなるための努力をしたいし)
リアはエルフの女王様への手紙を長い時間をかけて書き終えて、あおむけに寝転がってごろごろとする。その間にも使えるスキルは行使している。ルーンは珍しく疲弊しているリアを見て面白そうに声をあげて笑っている。
ルーンにとってはリア・アルナスという少女はそれはもう面白く愉快な少女である。
誰よりも強くなることに貪欲で、誰よりも真っ直ぐで、変わっている少女。そんな少女が手紙を書くことでこれだけ疲れているのを見ると不思議な気分になってしまうのであった。
「ルーン、また殺し合い(遊ぼう)」
しばらくごろごろしていたリアは、突如として立ち上がるとルーンに向かって笑う。先ほどまで遊びという名の殺し合いをしていたというのに、またやろうとするなんてリアは元気である。
人によっては一度として、ルーンと殺し合いなんてしたくないと思うのかもしれないが、リアは幾らでもルーンと殺し合いをしていたかった。
「――勝つつもりでいくから」
そんな宣言と共にリアは、ルーンに向かっていくのだった。




