トリップ少女 4
「アユミは強いね」
「ティアルク先輩こそ、とても強いですね」
アユミとティアルクは微笑みあっている。
ティアルクはアユミの強さに驚嘆と感心を持ち、アユミはティアルクの強さを改めて実感しその強さに益々好意を募らせていた。
それが面白くないのは、ミレイ、レクリア、エマリスである。
彼女たちは一般的に見て、その年代にしては強く学園では優秀な成績を収めているとはいえ、アユミよりもレベルは低い。そもそもアユミのようにゲームのレベルをそのまま保ったままこちらに転移してくるというのは、チートであると言えるだろう。ミレイたちは、そのアユミの強さに驚き、ティアルクと共に並んで戦えるアユミに嫉妬の感情を抱いている。
彼女たちは、ティアルクの秘密を知っているわけではない。しかし、ティアルクが自分たちよりも強く、先を行っている存在であることは知っている。そんな存在に追いつきたくて、そんな存在に恋い焦がれて、隣に並びたいと望んでいるのだ。
(私も、ティアルクに追いつきたい。アユミに負けていられない)
ミレイはそう決意する。
(ティアルクさん……あんなにアユミさんと仲良くなって。私もあんなふうに並んであるきたい)
レクリアはティアルクとアユミの背中を見て、もっと強くなりたいと望む。
(ティアルクは流石として、アユミもこんなに強いとは……)
エマリスはその強さに、もどかしい感情を抱く。
それぞれが笑いあう彼らを見て、焦燥にも似た感情を感じていた。彼女たちはティアルク・ルミアネスに恋をしている。その秘密を知らなくても、その隣に並びたいと望んでいる。
だからこうしてその隣に並ぶライバルが現れ、焦りを覚えるのも当然だと言える。——そんな彼女たちに鈍感であるティアルクが気づくはずもなかった。
さて、そんな様子をじっと見つめているリアとソラトである。
「凄いハーレムだなぁ」
「うらやましいの?」
「いや? 俺はリアちゃん以外どうでもいい。リアちゃんが俺の事を好きになってくれればそれで」
「ない」
リアはばっさりとそういうものの、ソラトはいつものことなので気にした様子もない。リアはソラトの言葉に答えながらもじーっとアユミたちを見ている。
(今の所、順調か。もっと色々起こるかなと期待してたんだけど。あまりにも詰まらなさそうならかえってもいいけど……、どうしようかな。でも何か起こりそうな予感はするし。んー。悩みどころ。このまま何か起きないことがあるか。ない気がするけど、どうだろう)
リアはそんなことを考えていた。
リアとしてみれば気になってついてきたわけだが、何も起こらないかもしれないということでちょっと微妙な気分になっている。
リアの目の前で彼らはとても順調に進めて行っている。多くを倒しているのは一番レベルの高いティアルクである。そしてその次はアユミ。まぁ、順当に考えて、レベルが高いものがそれだけ活躍できるのは当然である。なので、正直言ってミレイたちが活躍できないのは仕方がないことだ。
とはいえ、ミレイたちはティアルクとアユミの実際のレベルを把握してないだろうから、じれったい思いになるのも当然と言えるだろう。
「あ。なんか焦ってるね」
「うん。焦ってる」
ソラトとリアの目から見ても、時間が経つにつれてミレイたちが焦っているのが見て取れた。ティアルクは鈍感でどういう気持ちで彼女たちが焦っているのを気づいていないし、アユミはティアルクと仲良く討伐が出来ていることが嬉しくて仕方がないと言った様子である。
「注意もしないな」
「ハーレム主人公、気づかない。トリップ少女、浮かれてる」
「……魔物討伐って、そんな悠々とできるものじゃないだろうけどな。あのレベルだと」
ソラトはふざけがちな人間であるが、基本的に戦闘に関しては真面目目線である。というか、リアが絡まなきゃ基本的にソラトはしっかりしている方だ。
リアのことを追いかけている中で、ソラトも死にかけた事は何度もあるし、大変な目にあったのも沢山あった。そういう経験を通じて、ソラトは成長して、レベルをあげられたのだ。
ティアルクとアユミに関してみれば、経験値が足りない状況でレベルをあげたというのがある。彼らは魔物討伐と言う場でも余裕であるが、それはリアとソラトと同じような余裕ではない。
「ん? なんか、来てるな」
「うん」
話しながら覗いていると、ソラトとリアは何か魔力の塊が近づいていることに気づいた。ティアルクたちはまだ気づいていないようだ。
リアとソラトは彼らを助けるために此処にいるわけではないので、そのまま立ち止まったままだ。
そうしている中で、彼らがようやく何かが近づくのに気づいた。
――そして彼らの前に現れたのは、巨大なゴリラのような魔物である。その周りには、少し小さなゴリラの魔物が群れている。
 




