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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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トリップ少女 1

 VRMMOホワイトガーデンの世界に転移したアユミは、此処での暮らしを楽しいと感じていた。

 元々、VRMMOにはまっていたのはファンタジーの世界に憧れていたからというのがあった。現実世界では家族が居なかった。友達はいたが、物語の世界であるような深い絆で結ばれた友情などもなかった。

 ただなんとなく幼いころに亡くなった親の遺産で暮らしていたのだ。ありふれた日常を過ごす中で、気づいたらこの世界に来ていた。

(VRMMOの世界に転移なんてものが本当にあるなんてっ)

 言ってしまえば、アユミという少女は浮かれていた。

 非現実的な事が起こって、トリップした。そしてここが自らが知っている異世界だった。だからこそ、自分が物語の主人公のように活躍できるようなそんな気分になってしまっていたのだ。

 それも無理もないことだろう。アユミはまだ十五歳。そんな時期に異世界に転移し、運よく危険な目に遭わずに保護され、有力者に庇護され、学園に通う事になった。

 彼女は浮かれている。

(かっこいい人もいるし。恋人になりたい。あんなに強くてかっこいい人がいるなんて……)

 そして一目惚れしてしまったアユミは《分析》スキルを持ち合わせていたので、ティアルク・ルミアネスが自分よりレベルが高いことを把握していた。隠しているけれども自分よりも強くてかっこよくて、なんてヒーローみたいな人なのだろうと胸をときめかせていた。

 学園に転入してそうそうに、王女様と仲良くなったり、ハーレム主人公たちと交流を持ったのも悪かったのかもしれない。アユミは浮かれ切っていて、自分に悪いことが起こるなどというのは一切考えていないのだ。

 まだ現実として正しく認識できていないのかもしれない。

(ティアルク先輩と恋人になって……それで私とティアルク先輩で強い敵とかを撃退して――……)

 表にはこんな浮かれた思考は流石に出していないが、リアがこの思考を読めていたらなんてお花畑なのだろうと思えるような思考を彼女は持ち合わせていた。

 今、アユミはクラスメイトと共に廊下を移動している。

 その途中で、「アユミさん、向こうの道に行きましょう」と言われる。どうしてだろうとアユミがそちらを見ればボサボサの灰色の髪を持つ、何とも言い難い青年——ソラトが歩いていた。

「あの先輩、評判が悪いのよ。ティアルク様に迷惑をかけているし」

 ソラトの評判は悪い。本人が意図してやっているとはいえ、すこぶる評判が低下していっていた。

 アユミはなんとなく魔が差して、ソラトを《分析》してみた。そのレベルといい、スキルと言い、弱っと思わず口に出してしまいそうなものだった。流石に口には出さなかったが、ソラトに対して引いていた。

(あんなに弱いのにティアルク先輩に迷惑をかけるなんて。弱くて、あんなに気持ち悪くて、評判が悪いなんて……、この学園ってとても優秀な学園だって聞いていたのに)

 と、アユミはソラトの実力を把握することももちろん出来ずにそんなことを思っていた。

 レベル差があるのと、アユミの分析スキルはそこまでレベルが高くもないのでそれも当然のことである。

 この学園はどちらかというと、顔面偏差値の高い者が多い。そして強くなるための学園であるため、強くなろうと努力しているものばかりだ。

 例外は少数派だ。その中でソラト・マネリという存在はアユミの目からしてみても異質にしか思えなかった。正直、近づきたくないとさえ思っていた。

「驚いたわ。あんな方も生徒にいるのね」

「私も入学しておどろいたわ。ああいう学園の品位を下げる方は困るというのに……。この学園に入学するだけの成績は持っているんですもの……。テストも落としていないようですし。ああいう方だったらどんどん落として退学にでもなるかと思いましたのに。《姿無き英雄》様の弟子だなんて嘘までつきますし」

「《姿無き英雄》ってあの?」

 転移して間もないアユミでも話を聞いたことのある英雄だ。

 誰も姿を見たことがないが、気づけば人を助けている。性別や年齢さえも分からず、気づけば助けてくれる不思議な存在。ギルド最高ランクを所持している、まぎれもない最強。

(そんな最強の一角の弟子とうそをつくなんて……。あんなに弱いのに)

 《分析》のスキルが《隠蔽》スキルが使われれば効果が意味をなさないことを知っているにもかかわらず、アユミはそう考えていた。文字通りのステータスを信じ切っていた。

 本当に《姿無き英雄》の弟子ともいえる存在だとは知りもしないアユミはそんなことを考え、ソラトへの嫌悪感を募らせるのであった。



 そしてそんな様子をじーっと見ていた《姿無き英雄》は、

(相変わらずソラトって嫌われものだなぁ。トリップ少女とか嫌悪の目を向けてるよ)

 などと考えていたのだった。

 アユミはもちろんのこと、誰一人そこに《姿無き英雄》がいることには気づかなかった。




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