リア、王女の護衛を頼まれる。
その日、リア・アルナスは普通に学園に向かって、平凡な日を過ごす予定だった。しかし……、学園に向かう前に突然、義理の父親であるギルドマスターに捕まった。
「……私、学園。邪魔」
「まぁまぁ、そう言うな」
「というか、一緒目立つから今すぐ消えて」
人目がない場所である。しかし、ギルドマスターと一緒にいる所を見られたら面倒だと思ったリアだった。学園の制服を身に着けている状態で、ギルドマスターと対峙なんてリアはすぐさま逃げたかった。
「ユニークスキル使っていいから、聞け」
そう言われたので、すぐに《何人もその存在を知りえない》を行使する。声を発すれば、ユニークスキルが解けるため、そのままリアは黙って聞く事にした。傍目にはギルドマスターが独り言を言っているようにしか聞こえないだろう。
「実はな、王女がお忍びで学園を見学するとやってきている」
何を言っているんだとリアは思った。
王族の住まう王都は、この街からすぐの所にある。来ようと思えばすぐに来れる距離であるが、通常王族が訪れる場合は念入りに準備がされる。それは当然である。
しかも、これから来るではなく、やってきていると言っている。
という事は、すでに来ている……という事だ。
「来年から学園に入学したいんだそうだ。それで見に来ている。学園で、制服姿で混ざるそうだ。今日だけの見学だという事で。そこで休み時間だけでもいいから護衛してもらえるか?」
リアはふーんという顔をしている。
「何分、急の来訪で他に手が空いている奴はいない。それに……どうせ、お前は学園にいるんだから丁度いいだろう」
リアはその言葉を聞いて、「わかった」とだけ答える。その一瞬だけ、ユニークスキルが解けたが、瞬時にまたユニークスキルを展開する。それからギルドマスターから離れて、誰もいないトイレの中にひっそりと入る。そしてユニークスキルを解除して、学園へと向かった。
(……急に来る、王女様ねぇ。なんて迷惑な。周りの護衛の気持ちとか考えていないのか。それとも自分なら大丈夫だという確信があるのか。どちらにしても、狙われる立場だっていうのに何て不用心な)
リアはそう思いながら学園へと向かう。
リアは、暇だった時に王城を見に行った事がある。流石に用もないのに中には忍び込みはしなかったが、綺麗なお城だった。
(大切に育てられたお姫様かぁ。うーん、あんまり関わりたくはない。まぁ、学園に通っているし、休み時間に覗くぐらいなら別にいいけどさ。何も面倒な事、起こらなきゃいいな)
お忍びで来ている王女様、それを狙う存在が居なければいいとそんな事を考えているリアは、学園の門をくぐって、自分のクラスに向かった。
教室の扉を開けたリアは挨拶をしない。また、クラスメイト達もリアの事は興味がないといった様子で、視線を向けただけだった。
リアはそれが心地よかった。誰にも話しかけられずにのんびりと過ごせる今のクラスが好きだった。
(やっぱりこのクラス、いいよね。のんびり過ごせる。来年もこういう誰も私に話しかけてこない感じのクラスが良い)
誰も自分に話しかけてこない状況というのは、人によっては辛い状況だろう。しかし、リア・アルナスにとっては幸福でしかなかった。
(そういえば、王女様って、どのクラスを見るんだろうか? 色々なクラスを見るのかな。来年から入学するからって一年前に見に来るって、結構学園に興味持っているのかな? 一年生のクラスを見るならあの転移者の子とかいるけど、何か起こしたりするかなぁ。それだと面倒。まぁ、王女だしお城からの護衛はいるだろうけどさ)
リアは席について本を開く。パラパラとめくりながら、王女様について思考していた。
(それよりあれかぁ、ハーレム主人公の方が関わりそうな気もする。王女様と関わって、王女様もハーレムに加えそう……。いや、でも、王女様相手だと流石に一夫多妻はよっぽどの人間じゃないと出来ないよね。ハーレム主人公はレベルは高いけれど……、王族をめとれるほど結果を残しているわけでもないし。それかハーレムに関わらない可能性もあるだろうけど。どちらにせよ、何だか、自分から首突っ込んでいきそうな気がする。まぁ、王女様が殺されかけるとかそういうのがなければそれでいいけど。滅多な事では、そういう事ない……と思うけど)
リアはティアルクが王女様に絡みそうな予感しかしなかった。大貴族の娘であるミレイ・アーガンクルもティアルクのハーレムの一員である。彼女は王女様と会った事ももちろんあるだろう。もしかしたらミレイからティアルクの話を聞いている可能性もある。
一限目の授業の教師が教室に入ってきた。リアは思考を止め、本を閉じた。
そして授業を真面目に受けるのであった。
王女の様子を見に行くのは、一限目が終わってからになる。




