《爆炎の騎士》と転移者の話をする。
「ラウル」
「うぉおおお」
リア・アルナスは前世の友人である《爆炎の騎士》ラウルのもとへとやってきていた。突然、声をかけられてラウルは驚愕の声を上げる。
ラウルの方がリアよりもレベルは高いものの、ラウルはリアがユニークスキルを使っている場合に気づく事が出来ない。本来、これだけのレベル差があるのならばラウルは気づけなければならないのだが……、この世界でずっと生きてきたわけではないラウルではまだレベルと実際の動きが釣り合っていなかった。
「相変わらず、すごい驚愕」
「……普通に考えて突然現れたら驚くからな?」
そう口にしながらラウルの心臓はバクバクしていた。突然現れたリアという存在に、少なからずの恐怖を抱いている。友人であったという信頼があるため、心から恐れているわけではないが……、いきなり現れるのは心臓に悪いと思った。
「そ、それで、何の用だ?」
「ああ、そうそう。転移者、いるみたい」
「え?」
「ラウルと一緒。何が原因かは分からない。でも、来てるみたい」
リアはそういって、ラウルの横に立つ。
身長が止まっているリアは、ラウルよりもずっとずっと背が低い。親子か兄妹にしか見えない身長差である。
「一応、教えとこうかと思って」
「……そうなのか。俺と同じように。それでリアはその子達には何かするつもりはあるのか?」
「ない。ラウルは、友人だったから関わった。でも他は関わらない」
リアはばっさりと言った。
前世で友人だったからと、ラウルの面倒を見た。でも友人でなければ、面倒を見る必要性もないのである。
そのことが実感できて、ラウルは思わずリアを見る。
(本当にリアはぶれない。……この世界でずっと生きてきたからこそだろうけど、関わる人間と関わらない人間をきっちり分けている。俺はリアの友人で、リアが俺を助けてくれたからこそ、今の生活がある。あとはレベルが高かったからもあるだろうけれど。でも他の転移者の連中は、そうではないかもしれない。この世界できちんと生きていけないかもしれない。そうなると、放っておきたくない。自分の事で精一杯な現状で何を言っているんだと言われるかもしれないけれど……。やはり、放ってはおけない)
ラウルのそんな気持ちが分かったのだろう、リアは言う。
「ラウル、手出ししてもいい。でも、私は巻き込まないで。助けたいなら、助ければいい。……でも、私を巻き込む、それするなら、殺す。ラウルも、ナキエルも」
その言葉に、その視線に、ラウルはぞくっと寒気を感じてしまう。
リアは、友人であろうとも殺すと決めたら殺すのだ。どんな相手だろうとも、決めたら躊躇いもしない。それはある意味狂気じみている。
恐ろしさもある。でもリアが嘘を吐かない事を、ラウルは知っている。きちんと約束を守れば、殺される事がない事も理解している。
「……もちろん、リアは巻き込まない。俺は死にたくないから」
「あと……、学園にも一人いる。でもその子は、貴族の養子なってる。その子は問題なさそう。一般的な生活、それよりいい生活してる」
「……そうか」
「うん。あとは、いるか知らない。でも、居そう」
転移者が何でこれだけいるのかは分からない。リアにとっても不思議な事だと思っている。
でも今回、ラウルとアユミという二人もいるのだ。もしかしたら、前世の物語の中でもあったような集団転移でも起こっているのかもしれないとリアは思っている。
(あー、でもあれだね。転移者が私よりレベル高いのばかりだと、ちょっと嫌かも。だって脅威が増えるわけだし。でもレベルが高い存在はトッププレイヤーしかいないだろうし、大丈夫か。それにレベルが高くても下手したらすぐに死ぬだろうし。まぁ、大体放置。人が死ぬのは嫌だから見かけたら助けるけど。それ以外は死んでも知らない。弱い奴が死ぬのはこの世界の摂理だし)
リアは正直、自分より強い存在が増える事は望んでいないので、転移してくるなら自分よりレベルが低い相手だといいなぁなどと考えていた。
「何で転移者がいるんだろうな?」
「さぁ? 私が転生しているのも、摩訶不思議だし」
「これ、帰れたりするんだろうか?」
「さぁ? 帰れるかとか知らない。無理な可能性、高そう」
リアは軽く言ってのける。正直リアにとって、転移者が帰れようが帰れまいがどうでもよかった。
「ラウル、私、もう行く」
「おう、そうか。リア、次はいつ会える?」
「気が向いたら。じゃあ」
リアはそれだけ言うと、その場から消えていった。
ユニークスキル《何人もその存在を知りえない》を行使した瞬間に、ラウルはリアの姿を見失う。リアがどこにいるのだろうかと必死に探るものの、やはりこの世界に来て間もないラウルにはリアの居場所を探ることは出来ない。
(俺よりレベルが低いらしいのに……俺はリアに勝てる気が全くしない。頑張らないと)
リアが去った後、ラウルはそんな決意を改めてするのであった。
 




