ギルド会議にこっそり出席する。
《姿無き英雄》――リア・アルナスは、その日、ギルド会議に参加するためにギルドの本部へとやってきていた。もちろん、《何人もその存在を知りえない》を行使して、姿を見えないようにしてからである。
(ギルド会議、どんなこと話されるんだろ)
リアはそんなことを考えながら、自分の席に腰かけている。何人か既に会議室に顔を出しているが、今の所そのうちのだれもリア・アルナスという存在には気づいていない。その場にいるのは《炎槍のロス》、《兎姫》、《絶対防御》の姿がそこにはある。
「今日も《姿無き英雄》は来ていないのか。是非お会いしたかったものなのだが」
「ロスさんは《姿無き英雄》に対する態度変わったね。いいなぁ、私も《姿無い英雄》と戦ってみたい」
「私も是非戦ってみたいものですね。私の《絶対防御》を破れるのかしら……」
リアはその会話を聞いている。
(私は会いたくない。戦いたくない。そして多分《絶対防御》の防御はやぶれると思う。きちんとためしたことないけれど、出来ると思う。ちょっと試してみたい気もするけど目の前出たくない)
リアはそんなことを考えながら、ただそこにいる。
「《姿無き英雄》は俺達と何故会ってはくれないのだろうか。俺達がもっと彼に認められれば目の前に現れてくれるのではないか」
「……そもそも、思うんだけど、《姿無き英雄》って男なの?」
《兎姫》がくりくりとした目を《炎槍のロス》に向けて不思議そうにいう。
「……あれだけの逸話のあるものだ。男だと思うが」
「思い込みかもしれませんね。皆、《姿無き英雄》のことを男だと思い込んでますけれど、もしかしたら女性の可能性もありますね」
《炎槍のロス》の言葉に、《絶対防御》がそう告げる。
案外的を得たことをいっている。
《姿無き英雄》は男だと思われている事が多いが、実際を知っているものはそんなにいない。
ただしリアからしてみれば、男だと思ってもらった方が嬉しいと思っていた。
(あー、というか、私の話やめてくれないかな。私の話ではなくて他の話しようよ)
リアはそんな気分になりながら、じーっと見ていた。
それからしばらく経って他の者達も現れる。
相変わらずギルドマスターと、《竜雷》ゲンと《風音姫》ルノはリアの存在に気づいてリアの方に視線を向けていた。リアはその事実に、もっと誰にも悟られないぐらいにしたいとリアはこういう場に来るたびに何度も何度も思う。
(自分より強い存在にあうからこそ、もっともっと強くなりたいっていう渇望が沸いてくる。うん、私がただ一人強かったら、私はこのまま強くなろうと思わなかったかもしれない。そう考えると、私より強い存在にはやいうちに出会えて、私は決して強くないと分かったから。ああ、いずれお義父さんよりも、ゲンさんよりも、ルノさんよりも、もっと———もっと強くなりたい)
強くなりたいという渇望。それをずっとずっと感じている。その渇望はとどまることがない。とどまることがないからこそ、リア・アルナスは強くなるために必死に行動を起こしている。
「では、今日のギルド会議では———」
そしてギルド会議が始まる。
そこで一番の話題になっていたのは、竜族の大陸で起こっている出来事だった。
竜族の大陸の方で殺害事件がいくつか起こっているという話だ。それもそれなりにレベルの高いものたちばかりが狙われているという話だった。
(……ソラトより少しレベルが低いぐらいの連中が何人かやられているってことか。物騒。犯人を捜しているらしいけど見つからないっていうのもなぁ。あそこは竜王の治める国でもそういうことが起こっているってことは……本当物騒。それもあって、ゲンさんが難しい顔をしているのか)
《竜雷》ゲンは竜王の収める国の出身者である。ゲンからしてみれば他人事では決してない事であり、その出来事に頭を悩ませているのだろう。
(ゲンさんほどの実力者で、竜王の治める国の出身者ってことは竜王とも知り合いなのかな? 竜王って結構強い存在のはずだけど私は現状見たことないからなぁ)
リアはそんなことを思いながらゲンがリアの方に視線を向けていたので少しだけ嫌な予感がしていた。そしてその嫌な予感はあたっていた。
ギルド会議が終わった後に、
「一緒に竜族の大陸にいってくれないか」
と誘われたのだ。
しかし、リアは
「学園がある、無理」
と答えたのであった。
リアは学生である。休み期間中ならともかく、それ以外の期間で長期間休むなどという真似を真面目に学生をしているリアはしたくなかった。
「そんなもの休めばいいだろうが……」
「や、です。私、学生。勉強、大事」
リア、ばっさりと答える。
そんな理由で断られてゲンはショックを受けているし、そんな会話を聞いていたギルドマスターは爆笑していた。爆笑した後、「別の奴連れてっていいからリアのことは諦めろ。こいつは学生だからな」とギルドマスターがいったので、リアはどうにかゲンの頼みに付き合わずにすみそうでほっとしたのだった。
 




