ハーレム主人公の周りは騒がしいらしい。
リアは、この学園の中で一際目立っているティアルク・ルミアネス——リアが『ハーレム主人公』などと呼んでいる存在に興味は抱いているが、常に監視しているわけでもない。というよりリアは様々なことに興味があるので、一人だけに関心を持ったりはしないのであった。あと流石に、リアがそこまで関心を持つ相手が出てきたらソラトは黙ってないだろう。最悪の場合その対象を抹殺しかねない。そのくらいソラトがリアに執着していることをリアは知っているし、そういうことをしたところでどうも思わないわけだが。
さて、ティアルク・ルミアネスだが、冬休みや春休みにレクリア・ミントスアの実家———エルフの国に行ったり、エマリス・カルトが獣王の娘だと発覚したり、色々起こっていたそうだ。
そのことは、新学期が始まってから、ティアルク・ルミアネスを観察した所、分かったことである。
あとティアルク・ルミアネスの秘密もばれかけているらしい。そのことを思うとリアとしてみればたった一年しか経過していないのに何をやっているのだろうと思ってならない。
アキラ・サラガンについてはまだティアルク・ルミアネスは知らないが、それ以外の秘密は全部把握しているので、正直言ってたった一年でどれだけ話が動いているんだろうとリアは考える。
「ティアルクさん、伯母様が———」
「ああ、エルフ——」
「ティアルクさん、不用心に口にしないでくださいね」
レクリア・ミントスアとの会話にはリアは内心突込みを入れた。誰が聞いているか分からない場所で、エルフの女王様のことを口にしようなんて不用心すぎる。
(口が軽いっていうか、色々軽い。相変わらずレベルも全然上がってないし、強くなろうっていう気あんまないよね、ハーレム主人公って。ゲンさんとルミさんもそれをよしとしているのならば、あの二人ももうレベルが上がらないかもしれない)
リアは、ハーレム主人公を観察してきた結果、《竜雷》ゲンと《風音姫》ルミについてもそんな風に思うようになっていた。
リアにとっての強くなるための努力は、リアがいつもやっているようにいつでも全力でスキルを使い続けることである。本当に強くなりたいのならば、無駄を全て省けばいいというのがリアの信念である。学園生活を送ってみたいからという理由だけで学園生活を送っているハーレム主人公に対して面白いとは思っても好ましい感情はわいていない。
「ティアルク、私の父が今度一緒に夕食をしたいとおしゃってましたわ」
「ぜひ、いくよ」
ミレイ・アーガンクルの父親はおそらく、ティアルク・ルミアネスがギルドランク高位者だとあたりをつけてミレイ・アーガンクルの婚約者にと考えているだろう。しかし、鈍感故にそんな動きにハーレム主人公は気づかない。
「私もご一緒しますわ」
「私も」
「はは、俺も行こうかな」
そしてそんな思惑に気づいていないのはティアルク・ルミアネスだけなので結局皆ついていくことになるのである。
他にもティアルク・ルミアネスのハーレム要員の女子生徒は増えてきているのでリアとしてみれば、うわあと引きたいレベルである。
コミュ障のリアからしてみれば本当にそんな風に次から次へと人と交流を持っていける存在のことが全く理解出来ない。なんて恐ろしい事をやっているのだろうと思ってしまう。
リアはそんなことを思いながら、観察を続けていた。
(それにしてもアキラ・サガランは何時動くんだか。近いうちに動くとは思うんだけど。こうしてみてみると全て演技って感じはしないし、アキラ・サガランは少なからずハーレム主人公を大切には思ってそう。しかし、あれから洗脳されてる系のキャラっぽいから、何かきっかけがないとどうしようもない感じかな)
そんなことを考えながらリア・アルナスはじーっとアキラ・サガランを見つめていたが、当然のように彼はリアの存在に気づく事は皆無だった。
リアは放課後にあるというアーガンクル公爵家の当主との夕食も覗き見することにした。
アーガンクル公爵家の屋敷で、アーガンクル公爵と、ハーレム主人公たち一味での食事は和気藹々としていた。アーガンクル公爵はティアルク・ルミアネスのことを気に入っているようで終始にこにこしていて、ミレイ、レクリア、エマリスがティアルクを狙っているのも承知した上で、「若いっていいのぉ」などと口にしていた。
貴族としては珍しく恋愛結婚をしており、子供達にも恋愛結婚を推奨しているらしいアーガンクル公爵なのでほほえましい気持ちなのかもしれない。
(いやしかしこの公爵、本人が納得していたらハーレムでも問題なしとか考えてそうだな。公爵家の娘に、エルフの女王様の血縁に、獣王の娘、そして他にもハーレム候補ありって、やっぱりなんだこれって感じだよね。というか、それだけ凄い娘たちと仲良くしているんだったらもっと強くなる努力すべきだと思うんだけど。周りの学生たちと同じようにしか努力しないでレベル上がるわけないんだけど)
ティアルク・ルミアネスは強くなるために周りの学生たちと同じような努力はしている。しかしだ。レベル70越えた人間がもっと強くなるために、レベルが低いものと同じような努力をしてもレベルが上がるわけがない。その事実を実感している身としてみれば、やっぱりティアルク・ルミアネスはやる気ないなとリアは思ってならないのであった。




