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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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エルフの国に向かう途中に少女に出会う。

 (うん。ちょっときついけど結構楽しいかも)

 その十数分後にはリアは《空中歩行》、《瞬速》、《何人もその存在を知り得ない》の三つのスキルを使って海の上空を歩いていた。

 流石に三つのスキルを同時に使っているためMPの減りは早いものの、レベル高位者のリアからすればまだ許容範囲であった。

 (綺麗だなぁ…)

 空には二つの太陽が浮かんでる。

 それらが海を照らし、光り輝いていた。

 MPの減りが多いのはきついものの、こういう光景が見れる事をリアは楽しんでいた。

 リアは途中でクラーケンに襲われている船を発見した。

 クラーケンは巨大で真っ白なイカである。足が沢山あって、船つぶしと呼ばれるギルドランクA相当の危険な魔物である。

 遭遇した船はまず沈まされ、乗っていた人々はクラーケンに食事として食べられるか、海に落ちてそのまま溺死するかの二択の運命をたどる事になる。まぁ、どちらにせよ死ぬという事だ。その船に乗っていた人々も死を覚悟していただろう。

 が、運が良い事にその場には《姿無き英雄》がいた。

 リアは《アイテムボックス》から黒色の《黒雛》と純白色の《白雪》――愛用の双剣を取り出す。

 そして《マルガダ流双剣術》を使い、一気にクラーケンの命を奪っていった。

 ちなみにこの世界は武器に魂が宿ると言われていて、名前をつけた方が性能が事実上がるのだ。《黒雛》と《白雪》の名はリアの義姉のルカが名付けたものである。

 見ている方からすれば驚く他ないだろう。

 死を覚悟していたら、いきなり人が現れクラーケンを簡単に殺したのだ。

 クラーケンを解体し、その部位を《アイテムボックス》の中へとリアはどんどん放りこんでいった。

 それが終われば何も言わずにリアは去っていくのだった。

 残された人々は唖然としていたが、すぐにあれが《姿無き英雄》だと気づき、感謝の言葉を告げるのだった。

 あとは特に目立った活躍はしなかった。移動しながらやった事と言えば、時たま空を飛んでいる魔物を殺したぐらいである。

 大体船で七時間ほどがかかる距離を一気にスキルで時間を短縮して進んでいた。

 ユニークスキルを使ってなければ、目撃者がさぞ騒ぐ光景だろう。空を高速で移動する謎生物として。

 (クラーケンっておいしいんだよなぁ。ルカ姉は《調理》のスキルのレベルも高いし、調理してもらおうと。そしたらルーンにも持っていこうかな。ルーンは海の生物あんま食べないから喜ぶかも)

 そんな能天気な事を考えながら、三つのスキルを同時に行使しているリアは随分器用である。




 *


 空中を歩く事、約二時間。

 (ついたー!)

 リアは隣の大陸、アスランの大地に降り立っていた。

 大陸が違うため気温も違う。ギルド本部のある街では春だが、此処はそれよりも少しあったかい。

 (この大陸来るのも久しぶりだな。はじめて此処にきた時のお義父さんってば本当難題押しつけてきたなぁ……)

 はじめてこの大陸に来た時の事を思い出して、リアは思わず遠い目になる。

 アスラン大陸にリアがはじめて訪れたのは十歳の頃――ギルドマスターに養子として引き取られて二年目の夏の事だ。

 いきなり出かけるぞの一言で船に乗せられ、アスラン大陸の『アントンス森』と呼ばれるギルドランクB以上ではなければ危険な森に放りだされた。当時のリアのランクが丁度ギルドランクBになりたてだったのにも関わらずだ。

 (お前なら死なないだろうから一週間がんばれ。一週間後に迎えにくるからって十歳児を放りだすかねぇ、普通……)

 笑顔でそんな無茶ぶりを言ってのけたギルドマスターを思い出し、本当に良い性格をしているとリアは思う。

 はじめての場所で、それも魔物の溢れる場所で一週間のサバイバル生活。

 普通に考えれば死んでいてもおかしくない、いや、寧ろ死んでいてこそ当たり前である。そこで平然と生き残ったリアもリアである。

 ギルドマスターが今のリアの思考を知れば、「迎えに来た時飛びかかってこれるほどに元気だったからいいだろ」とでもいうだろう。

 ちなみにほぼ無傷だった所も異常な事であった。

 (エルフの国は此処から南西だよねぇ。二つ国を越えなきゃなぁ)

 それを考えながら《アイテムボックス》から事前に用意していた水と携帯食を取り出す。

 世界中を動き回るギルド員には携帯食は必須のものだ。

 とはいっても携帯食はあまり味がしない物が多い。現にリアもあまりおいしくないのか食べながら顔をしかめていた。

 その場で軽く食事を取って、リアは《瞬速》と《何人もその存在を知り得ない》を行使し動き始めた。

 一つ目にリアが通った国はアストラスと呼ばれる巨大な大国である。

 リアの使っているような《アイテムボックス》などの魔法具を生産している国でもあり、職人の国とも呼ばれ親しまれている。

 アストラスにはレベル高位者は少ないが、職人の国として周辺国家との結びつきが高く、四つの同盟国を持つ国だ。

 関所を飛び越えて、大地を駆け抜け、途中で魔物に襲われていた人を助けて、そうして国を一つ抜ける。

 ちなみに不法入国ではない。

 リアはギルド最高ランクなので、様々な国に入国出来る許可証を持っているのだ。

 「くっ、追いつかれるか…」

 それはアストラスを越えた先の、リルア皇国を移動中に聞こえてきた。

 相変わらず二つのスキルを使いながら、一気にエルフの国まで移動していたリアはその声に思わず足をとめた。

 そしてそちらに視線を向ける。

 (わー、めんどくさい。どうしようかなぁ)

 それを見てリアの反応は非常に冷たいものである。

 リアの視線の先には十歳ほどの年齢の小さな少女が居た。

 少女はこの世界では珍しい色を持っていた。それは夜を現す黒色である。片方だけならいない事はない。だけど彼女は目も髪も黒色だった。

 そして、少女は動きにくそうな白いドレスを着ていた。

 そんな少女の後ろを追っている人影が何人も居た。

 もう今にも追いつきそうである。

 そもそもの話、何故リアが助けるか助けないか迷っているかと言えば此処が地元ではないのも一つの理由であるが、最大の理由は少女が高貴な身分のように見えたからだ。

 幾らギルド最高ランクに国への介入権あろうとも王族貴族のいざこざなんて面倒なものにリアは関わりたくなかった。

 (んー、何で本当こんな面倒な事が目の前で起こるかなぁ。いやー、本当にさ、《トラブルホイホイ》の称号とかいらない……)

 思わずそんな思考に陥るのは、リアの獲得称号に《トラブルホイホイ》などという厄介なものがあるからだ。

 《姿無き英雄》が有名なのは数々の危機的場面を救ってきたからである。

 今回のギルドマスターの依頼でも普通は出会わないクラーケンに遭遇したのもおそらくこの称号故であるし、《姿無き英雄》が人を救ってきたのはたまたまその場に出くわしたからにすぎないのだ。

 (でも、懐かしいなぁ……)

 嘆いた後にリアはそんな事を思う。

 その茶色の目は真っすぐに少女の持つ鮮やかな黒髪と黒目を見据えていた。リアにとって”黒髪黒目”とは懐かしいものであるらしかった。

 (どうしようかなぁ…もうさっさとエルフの女王様の所、無視していこうか)

 リアがそんな冷酷な判断をしようとしている中で、追われていた少女は捕まる寸前である。

 正直他人の死は怖いが、自分の事が一番なのだ。自分の事情が他人の命より優先されれば普通に見捨てる。

 幸いユニークスキルを使っていればその場に存在している事も気づかれず、助けなかった事に何か言われる事もない。

 リアはその点、非常に自分勝手な少女である。

 リアはただ少女と追手を見ていた。

 「……妾はっ」

 男達に囲まれ、絶望に瀕している状態でありながら黒髪の少女の目は強さを持っている。

 「まだ、死にたくない!」

 続けられたその純粋たる願いにリアは思わず少女を見た。



 「燃やしつくせ。(Ogni scottatura)

 その身を、その魂を。(Sul corpo, è l'anima)

 それは業火の炎。(È una fiamma di hellfire)

 全てを灰に変えるだろう。(Tutti saranno cambiati in ceneri)

 地獄をかの者に見せよ。(Mostri che inferno di persona)

 骨まで燃やしつくす、その炎を。(La fiamma che tutto ha bruciato ad un osso)

 出現せよ!!(Appaia!!)


 《地獄の炎》(《Una fiamma infernale》)」



 少女の口から放たれたのは《地獄の炎》と呼ばれる《火属性》の魔法を行使するための詠唱であった。

 突如、それは出現する。

 追手達を燃やしつくさんばかりに一気に赤く燃え上がる。現れた炎にリアはその瞳に感嘆の感情を浮かべていた。

 (おー)

 《地獄の炎》はたかが十歳程度の人が使えるような魔法ではないのだ。

 実際にその魔法は少女にとって最大の魔法なのだろう。それを放った後の少女は苦しそうに吐息を洩らし、今にも倒れそうなまでにふらついていた。

 それでもその年で《地獄の炎》が使えるという事実は誇ってよい事だった。

 だが、流石高貴な身分の方々が少女を殺すために雇った者達と言うべきか、その魔法にすぐに対処していく。

 普通十歳程度の少女が《地獄の炎》を扱えれば驚くものだ。一瞬、そこで隙を作る者も多いだろう。

 でもリアが見るに追いかけている人々の中には隙を作った者は一人もいなかった。

 (ってことはあの子の実力を知ってる身近な人が雇ったって事かな。うわー、きな臭い。関わりたくないなー、どうしようかなぁ)

 この時点でリアが少女を助けるかどうか五分五分である。

 めんどくさいという気持ちと助けようかなという思いが同じ位心を占めている。

 それに関わるとすれば最後まで面倒をみるべきであるし、時間がかかれば学園が始まるまでに帰る事が出来なくなってしまう。

 (てか何で王族貴族って陰謀渦巻いてんだろうねー。金と権力とか必要以上にあってもちょっと邪魔だよね。私の貯金もたまりすぎて使い道なくて困ってるのに)

 《姿無き英雄》としての稼いだ多額のお金とギルド最高ランクとしての権力。

 それはリアが自らの力でつかみ取った者である。

 溜まっていくお金の使い道はあまりない。大きすぎる権力は面倒な事を呼び寄せる。

 だからリアは必要以上にあっても邪魔だと思う。そんな者のために争いあう高貴な人々の心情はリアにはわからない。

 ギルド員はランクを上げて、お金と権力を手に入れようとしている者が多い。

 そんな中で最高ランクでありながら必要以上にあっても邪魔などと言っているリアを知ればさぞ彼らは驚く事だろう。

 「くっ……」

 悔しそうな声を上げる少女をリアはただ見ているだけだ。

 (もう無視して行こうかなぁ……。んー、でも見捨てて死なれても気分悪いし。あーもう、王族貴族ぽくなきゃすぐ助けてエルフの女王様の所行くんだけどなー)

 考えるような仕草をして、リアは相変わらず迷っている。

 目の前で少女の命が奪われかけているというのにそんな感じである。あの見るからに正義感の強いティアルク・ルミアネスが知ったらリアに向かって何故助けないときっと怒る事だろう。

 視線の先で男たちが少女を囲っている。

 それでも少女の目にまだ諦めはない。

 「……絶対に、死んでやらない!」

 叫ぶように言い放たれた言葉は少女の決意だった。

 死んでやるもんかとその目は強い力を持っている。手には短剣を手にしている。

 絶体絶命ともいえる場面で少女は生きる事を諦めてはいなかった。

 (ほー、度胸あるねぇ、あの子。別にそういう子は嫌いじゃないんだけど、どうしよっか?)

 少女が短剣をふるい、魔法を放つ姿をリアはまだ黙って見ている。

 彼らに接触する事も心配いらないほどの距離から、少女の事を助けるかどうかいまだに迷っている。

 助けろよというツッコミをするものはその場には誰もいない。少女の命運はリア次第である。

 「妾は死にたくない!」

 少女の叫び声がただ響く。

 追手達に向かって叫んで、必死に少女は生き延びようとしている。

 男達の手が少女に伸びた。それでも少女は諦めない。がぶりっと噛みつき、相手を怯ませ、傷を負おうともその目には力が宿ってる。

 そんな一生懸命に生きようとしている姿にようやくリアは動いた。

 (何か似てるんだよねぇ。昔の私に……。うん、助けようか)

 そんな風にのんびりした思考を脳内に浮かべた。

 「……え?」

 そしてリアがそんな決意をした次の瞬間には男達の命は失われた。

 腰にかけていた長剣で次々にその命をリアが散らしたためだ。生かしていても面倒なので助けるならこの場で殺そうと思って実行したらしかった。

 それに少女は信じられないものを見るような表情を浮かべている。それも当たり前と言えば当たり前である。

 自分の命を奪うはずの追手達がいきなり何が起こったかわからない内に殺されたのだから。

 (え、何? 何なの、これ…。一瞬だけ姿が見えるけど……まさか…)

 少女はその黒目を大きく見開いている。思考を続けた先に一つの結論が出た。

 「……《姿無き英雄》?」

 その結論を口にし、驚いた表情のままの少女。

 (んー、助けたはいいけどどうしよう?)

 追手達をさっさと殺して、ユニークスキルを使い少女の前に立ったリアは困っていた。

 どうせ助けたなら最後まで面倒をみたいものだが、姿を晒すのは嫌だった。

 助けた後にどうして自分は助けてしまったんだろうという気持ちに陥っていたリアである。

 (とりあえずこの場から去った方がいいよね)

 そうすぐさま考えてリアが取った行動は、

 「え?」

 少女を気絶させて、抱えてその場を去る事だった。




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