闘技大会 1
『皆、盛り上がってるか―――!!』
目の前でとても盛り上がった声をあげている司会者をリアは遠い目で見つめている。周りのテンションが高すぎて、リアには場違いな場にいる気分になる。マイクを片手にノリノリで声をあげているのは、学園の放送部の部長である。そして周りでは生徒達が騒いでいる。
今日は、闘技大会だ。
この場には、全校生徒がいることだろう。四日間も続く闘技大会。これで結果を出せればそれ相応の地位が約束される。そんな大会だから皆、やる気に満ちている。
(皆やる気だな。……私はさっさと負けて見学)
尤も、既にギルド最高ランクという地位を保持し、《超越者》に至っているリアにとって、闘技大会は正直どうでもいいものであった。本気で戦える相手がこの場にいないのは当然であるし、そもそもリアは目立つことを極端に嫌っている。目立つのが嫌だからこそ、平凡に擬態しているのだから。
個人戦と団体戦があるけれど、団体戦は自由参加だからリアは個人戦だけの参加である。親しい友人がルーンとラウルしかいないリアでは、チームなど当然組めるはずがない。尤も、リアが誘えばソラトは喜んでチームを組んでくれるだろうけれども。
さっさと負けることを第一に考えていた不真面目なリアは、その考え通りにさっさと負けた。不自然ではないように計算して、相手に負ける。そういう負け方が出来るのも、リア・アルナスが強者である証と言えるだろう。強くなければ、そのような真似できないのだから。
(ソラトもやっぱり一回戦負けか。きょろきょろして私を探している? ユニークスキル使っているからばれないだろうけど)
ソラト・マネリもリアの真似をして当然一回戦であっさり負けていた。こちらも不自然とは分からないような負け方をしていた。リアは自分が負けた段階で、ユニークスキルを行使してのんびり観戦していたのでリアを探すソラトに場所がばれることはなかった。
一日目では、ティアルク・ルミアネスや、カトラス・イルバネス、またハーレムに在籍している女子生徒たちは普通に勝ち上がっていた。
(ハーレム主人公、レベル隠してる意味がない。ばればれ。凄く違和感あり。というか、自分のレベルちゃんと理解しているのかな? 学園の設備強力だから、《神聖術》とかもかかっているし、相手死にはしないだろうけど。でも手加減が下手すぎる)
リア、ティアルク・ルミアネスには相変わらずそんなことを思っていた。
そして、翌日になった。
二日目もリアは、ただ、のんびりと観戦するつもりだった。……のだが、リアは、義姉であるルカ・アルナスを見てなんとなく気になっておいかけた。追いかけたら、何故か学園長室にいった。リアはルカが何を話すのかと興味本位でついていった。
そうしたら、
「決勝戦後の件ですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんだとも、そちらの方が大会も大いに盛り上がる」
正直何の話をしているのか分からなかったリア。しかし、次の学園長の言葉にリアは驚いた。
「しかし、本当に《姿無き英雄》と《炎槍》様の戦いなどできるのかね?」
「ええ、おそらくは……。大丈夫でしょう」
「おそらくとは……」
「《姿無き英雄》次第ですね」
ルカと学園長は、《姿無き英雄》と《炎槍》が決勝戦後に戦うといった話をしていた。しかし、本人であるリア、その情報を知らなかった。
(はい? ど、どういうこと? 私が《炎槍》と戦う? 無理無理無理)
そんな風に思っているリア。決勝戦後戦うということは、生徒達の前でということだろうと結論付けたからこその全力拒否である。リア、ルカが《姿無き英雄》次第などといっているので、頑張れば逃げ切れるだろうと思考する。
(……それにしても、こんなこと、企んだの絶対お義父さんだよね。ルカ姉の提案ではないだろうし。お義父さんに文句を言わなきゃ)
などと考えていたリア、学園長室を後にするルカをつける。ただし、自分から声をかける予定はリアにはなかった。しかし、ルカ、リアがいることを感じ取れないはずなのに確信していたのか、人気のないところまでたどり着くと、リアにいった。
「リア、いるでしょう」
「……」
リア、それでは馬鹿正直には出ない。
「リア、出てこないと貴方の素性、大声でばらすわよ。お父さんがそうするっていってたわ」
「……」
リア、えっと思いながらも無言。
「リア、お父さんが有言実行なの知っているでしょう? 仮面をつけて顔をさらさずに《炎槍》様をさっさと倒しちゃって消えて大丈夫らしいから」
「……」
リア、少し考えながらも無言。
ルカは返事もないのに、気配も感じられないのにリアに話しかけている。
「リア、《炎槍》様は貴方に会いたがっている。一度ぐらい対峙しないとややこしくなるわ。始まる前の両者紹介の時以外はユニークスキル使ってて大丈夫だから」
「……本当にばらす気?」
「やっぱり、いたわね」
流石に、リア、聞いていてルカに話しかけた。
「ええ、当然よ」
「……すぐに倒していいんだよね?」
「ええ」
「……わかった」
リア、結局そういって、自分のプロフィールばらされたくないのもあってその提案を受け入れるのだった。




