家族旅行っぽいもの 3
リアは、ギルドマスターを見つける。
(お義父さん、一人でいる。どういう名目でここにきているんだろうか。ギルドマスターって忙しいだろうに。それにしても全然家族旅行ではないけど、これでも家族旅行と言えるんだろうか)
うーんと、リアは考えながら、ギルドマスターの後をついていく。
ギルドマスターは最高級の宿に泊まっていた。ギルドマスターだということを向こうも把握しているのか、最高級のもてなしをされていた。最高級のもてなしを当然のように受けて、それでいて当たり前のように注目を浴びている。
《超越者》というのは、基本的にそういうものだ。
注目されるのは当たり前で、目立ち、誰よりも知られている。
(あんな風に宿の従業員全員に迎えられるとか、無理無理。あんな目立つとか無理無理)
尤もリア・アルナスは《超越者》であろうともそんな感じである。目立つ事を誰よりも嫌だと思っている。目立つぐらいならこんな場所にはこないとそんな風にさえも考えている。リア・アルナスはそういう人間なのである。
ギルドマスターは、案内された部屋の中で一息をつくと、
「リア、出てこい」
と声をかけた。
リアは、声をかけられて嫌そうな顔をしながらも、このまま姿を出さなきゃ面倒なことになりそうなので渋々姿を出す。
「……やっぱ、ばれるのか」
「当然だろ。俺はお前よりレベルが高い。それにこういう時にお前が俺を覗いていないなんてことは想像できねぇしな」
リア、仮面の下で不機嫌そうな表情を浮かべる。
「リア、明日は甲雷山に集合な」
「あそこ、そこそこ魔物強い」
「ああ。だからこそ他の連中はそうはいねぇだろうから、ルカとネアラにもいっとけよ」
「お義父さん、ソラトは?」
「あいつは家族じゃないから来ても来なくてもいい。どうせリアがくるなら来るだろうが」
ギルドマスター、ソラトのことは昔から知っているのでそんなことを言う。ソラトの行動原理は基本的にリアに関わることなので、ギルドマスターの言うようにそこにリアがいるならとついてくることは間違いない。
「つーかよ」
ギルドマスターはそういいながらニヤニヤしながらリアを見る。
「お前は、ソラトとくっつくのが一番無難だとお父さんは思うんだがなぁ?」
面白そうに笑ってギルドマスターはリアを見下ろす。
「興味ない」
「ソラトもかわいそうに。リアなんかに夢中で……。あいつ女も知らないままだろう。一生童貞かもな」
ギルドマスター、そんなことを言う。
ソラト、リア以外興味がなく、女性とそういう関係になったことが一度もなかった。多分、キスもしたことがないだろう。
まぁ、そんなことをいったらリアも前世を含めて一度もそういう経験はないわけだが。
「どうでもいい」
「本当にリアは面白いな」
そういってギルドマスターはリアのフードを取って、頭を撫でまわした。髪をぐちゃぐちゃにされる。
「ぐちゃぐちゃ、やめてほしいんだけど! あと甲雷山に何時集合とかある?」
「ない! 自由時間に集合だ。会えたら会おう」
「……ああ、そう」
リア、呆れた気持ちになりながらそう答えて髪をぼさぼさになった髪を少し整えてから明日の集合場所を伝えるためにその場を後にした。
(……集合時間自由。会えたら会おう、で同じ場所にいく。本当に家族旅行とは呼べない。まぁ、私ら家族らしいとは、家族らしいけど……)
集合時間は自由。好きな時に甲雷山にやってきましょう。それでいて、会えたら会いましょうとは、本当になんなんだと思う日程である。しかしリアとしてみればそういう家族旅行の方が助かっている。そもそも、下手に干渉をされる旅行ならばリアは何が何でもいかない。ギルドマスターはリアの義理の父親をやっているだけあって、リアのことをよく把握している。リアがどのあたりなら我慢して旅行についてきてくれるかというのをわかっているからこそこういう条件で提案したのだ。
リアが許容できる範囲を理解している。理解せずにリアの嫌がることをし続ければこの義理の娘が問答無用で殺しにかかってくるだろうことをちゃんと理解している。
そういう線引きがちゃんとできているからこそ、十代にして《超越者》に至っている少女の義理の父親をやれるのである。
それからリアは、ルカとネアラの元へ向かった。
甲雷山集合という話をしたら、それぞれ反応を示してくれた。まずルカは「生産職に甲雷山にいかせるとかお父さんは全く……」と怒っていた。ルカはレベルは60もあるが、生産職なのでそこまで戦闘スキルを持っていない。甲雷山はそれなりに危険な山である。ルカは一人ではそこまで奥深くには行けないだろう。
そしてネアラに関しては「あんなに危険な場所に? ソラ兄!! ついてきて」とソラトに頼み込んでいた。ソラトは「頼まれなくてもいく」などと答えていた。
そんなわけで翌日、甲雷山に集合になった。ただし、会えるかは不明な集合である。




