冬休みに突入しました。
学園に入学して初めての冬休みがやってきた。《姿無き英雄》と呼ばれるリア・アルナスは自ら好き好んで学園に通っている。それは将来的に《姿無き英雄》であることを隠しながら生活するためである。
リアは、学園に入るまではひたすらに自分がやりたいように生きていた。
学園に入学してからは、授業にきっちりと出て学園に入学する前よりは自由に自分を磨ける時間が少ない。基本的に学園に居る間もステータスの隠蔽や《空中歩行》、《何人もその存在を知りえない》を行使したりと、スキルを常に使い続けているが、それでもリアは足りないと思っている。
でも学園に通う事は自分が決めた事である。学園に通っている間に出来ない自分磨きを、リアは思いっきり行う予定である。冬休みという名の期間だが、休む気なんて全くないリアである。
(ルーンの元へ行くとして、お義父さんが言っていた家族旅行も冬休みに行くならいつかは確認しなければ。あと冬休みの間はエルフの国には寄らないように心掛けるとして……ハーレム主人公たちもいる可能性があるし。あとは、ラウルの様子を見るのと、ネアラを強くしたりぐらい?)
リアはそんなことを考えている。
ちなみに今、何をしているのかといえば、魔物狩りである。とりあえず時間があれば、魔物狩りをしに出かけるリアであった。
(というか、ネアラの母親といい、ラウルといい、あと私もか。《ホワイトガーデン》の世界からやってきてしまった人って結構いるんだよね。私が知らないだけでもっともしかしたらいるのかもしれない。もし見つけたらどうしようかな。ラウルは、知り合いだったから話しかけたけど、全然知らない人ならいつも通り、死にそうなら適当に助ける程度でいいか)
武器を、振るう。
それで命が失われていく。魔物たちは、自分が何にやられたかも理解しないうちに、その命を散らしていく。
相手は強敵ではない。リアにとっては格下だ。でも幾ら格下でも大量に葬れば少なからずの経験値の糧になる。
《姿無き英雄》と呼ばれるギルド最高ランク所持者は、時間さえあれば魔物を狩ったりする。
リアはこうして強くなるために行動する事がどうしようもなく好きだった。弱ければ死んでしまう世界で、強くなれたと実感する瞬間が好きだった。一人で黙々と、自分を磨く時間。それはリアにとって心地よい瞬間なのだが。
(あ)
リアは、こちらに近づいてくる存在に気付いた。
知っている魔力だ。それにユニークスキルを使っていても、自分の存在には気づいてしまう人だった。
(……んー、私の方に来てる。私に用事? これ逃げたら怒られそう)
リアはそう考えて、小さく溜息を吐いてその場にとどまる。
「お、やっぱりいたか」
「……ゲンさん、こんにちは」
リアの方にやってきていたのは、《竜雷》という二つ名を持つ竜族の男——ゲンである。
「……なに、用ですか」
リアは嫌々そうに口を開く。仮面をしたままでも、その面倒そうな表情を浮かべているのがすぐにわかる。そんな様子にゲンは面白そうに笑っている。
「リア、今冬休みだろ?」
「ん。そうです」
「イルイッセッチ大陸の方に行く予定があるが、一緒にいかないか? 依頼なんだが、リアが居た方が色々楽そうなんだ」
「……イルイッセッチ大陸、いった事ないです」
イルイッセッチ大陸は、獣人の国が存在する大陸だ。一度行ってみたいと思っていた大陸なので、リアが反応を示す。
「何の、依頼ですか」
「討伐依頼だ。獣人の国、ガオウストロの東にあるリソヒ樹林で探索していた連中が行方不明になったり、死体で見つかったりしている。何かしら、強大な魔物が住みついているだろうっていう話でな」
「《兎姫》……は? そこ、いますよね?」
獣人であるギルド最高ランク所持者《兎姫》は基本的に獣人の国のあるイルイセッチ大陸に滞在している。
「別件で今大陸にいないらしい」
「そう、ですか。獣人の国、いったことないから興味はあります」
「なら、行くか?」
「いつですか。行けそうなら、行きます。鍛錬なるし」
「なら———」
そうしていつになるか日程を聞いたら、すぐ数日後だった。しかし獣人の国に対する興味はあったので、リアはその誘いを了承するのであった。
(もふもふ、いっぱいか。ちょっと楽しみ。隙あらばもふもふ触れたりしないかな。ちょっと触りたい)
リア、獣人の国のある大陸ということでそんな思考に陥っていた。
その後、ゲンと別れたあとにギルドマスターから「家族旅行に行くぞ」といわれ、短い冬休みの日程がどんどん決まるリアであった。
ちなみに、どこからかその話を聞いたソラトが「俺もリアちゃんと旅行行きたい!!」と騒いで煩かったが、リアは短い冬休みの時間をソラトのためにさく気もなく、「無理」とソラトはばっさり言われるのであった。




