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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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ギルド会議の後に捕まった 2

 それから十数分後、リアはゲン達に連れられ、ギルド本部内にある訓練室の一室に居た。

 ユニークスキルを使用していっそ逃げたいとさえ思っている彼女の視界には三人の人物が居る。

 クラスメイトであるティアルク・ルミアネスとリアと同じギルド最高ランク所持者であるゲンとルノである。

 この場はゲンの名で貸し切られている。《姿無き英雄》はこの場には書類上居ないものとされている。それはゲンとルノの配慮である。

 それはいいのだが、二人から頼まれた事を思ってリアはため息をつきたいぐらいだった。

 「いいか。ティアルク、これからお前には《姿無き英雄》とやりあってもらう」

 「え、《姿無き英雄》と僕が?」

 「ああ。一回あれと対峙した方がお前のためになると思って頼んだ」

 そんな会話を聞きながらも潜んでいるリアはめんどくさいというその思いで一杯になっていた。

 ゲンとルノからの頼まれ事。

 それは今年ギルドランクAになったティアルク・ルミアネスと戦ってほしいという事だった。そして完膚無きまでにボコボコにしてほしいというのだ。

 (というかあの主人公君がゲンさんとルノさんの弟子とか私超びっくりだよ)

 そうである。

 なんとあのリアが主人公君と呼ぶティアルク・ルミアネスはゲンとルノの弟子であった。

 二人に弟子が居るという噂は割と広まっているらしいが、特に周りに関心を持たないリアには知りようもない事だった。

 第一リアの知るゲンとルノの弟子がティアルク・ルミアネスというのがどうもしっくりこない。

 (主人公君って何か後先考えなさすぎなんだよなぁ。ゲンさんとルノさんって結構慎重派だしさ。まぁ、戦い方は確かによく考えればゲンさんよりな気がするけど。そもそも何で二人であんな主人公君の師匠やってんの?)

 無言で動きもせず突っ立ったままリアはそんな思考に陥っている。

 正直な話、ゲンとルノが二人がかりで師匠をやるほどの価値がティアルク・ルミアネスにあるとはリアは思わなかった。おそらくティアルク・ルミアネスが一人であの人達の弟子なんだなどと言っていればリアは信じなかっただろう。

 「そうなんですか! 《姿無き英雄》様と会えるなんて嬉しいです」

 ティアルクはそういってそれはもう嬉しそうに笑っていた。

 「戦ってはくれるけど貴方に会ってはくれないと思うわよ?」

 くすくすと微笑ましそうにルノは笑い、そんな事を言う。

 (当たり前! 何で私が主人公君なんかに会わなきゃなんないの。口軽そうだし、そんな真似絶対にしない! というかなんかやらかしそうな主人公君とはかかわりたくもないっ! あー、もう逃げたい。逃避行してルーンと一緒に遊びたい!)

 面倒だという思いを前面に出した心の声であった。

 会話を交わしている三人を横目に、壁に背を預ける。その間にも一切音を立てないようにもちろん注意して動く。

 現状、学園で生徒会に接触され、注目を浴びているティアルクと関わりたくなかった。

 「会ってくれない?」

 「ええ。あの子はあまり人前に出る事を望まない子だから。今回貴方と戦ってもらうのも私とゲンから頼みこんでの事なのよ」

 にこやかに笑ってそんな事を言っているが、実際は頼みこみなんていう可愛らしいものではなく脅しであった。

 (……やらなきゃバラすって楽しそうな笑顔で言ってた癖に。二人がかりでこられたら逃げられないし、バラされちゃうだろうからなぁ……。主人公君と戦わせたいって本気で思ってたみたいだし、ま、やるしかないか)

 諦めたようにそう思いながら学園では見ないような顔――、二人を慕っていると前面に出しているティアルクを見る。

 (学園では女の子に囲まれ青春をして、良い師に恵まれて、切磋琢磨……んー、本当なんていうか、勝ち組ってか、こいつリア充だよね。あれだ。昔の私ならきっとリア充爆発しろ! って言ってるわ)

 女の子に囲まれ、《ハーレム属性》の称号を持ち、鈍感とか本当に何処の主人公なんだというのがリアの気分であった。

 そんな事を考えている間にティアルクとゲンとルノの会話は終わったらしい。ゲンとルノがティアルクから離れる。

 それにティアルクは不思議そうな顔をしている。

 「どうしたんですか?」

 「……あー。《姿無き英雄》はもうこの場に居る」

 「はい?」

 言いにくそうに告げられた言葉に、ティアルクは目を瞬かせる。

 「だから、まぁ、潔く負けなさい。ってわけで《姿無き英雄》、やっちゃっていいわよ」

 笑顔でそんな事をルノは言ってのけた。

 そしてその言葉を合図にリアは動き始めた。

 そこに音は一切ない。

 ただリアがした事は移動し、ティアルクに向かって手刀を入れた。ただそれだけであった。

 でも、

 「…………なっ」

 ただそれだけでもレベル差が四十もあるティアルクにとってはたまったものではない。

 呻き声がその場に響く。

 そんなティアルクにリアは再度攻撃を繰り出す。

 それだけの攻撃。ただそれだけでレベル差のあるティアルクは意識を失う。

 そして意識を失ったのを確認するとリアはゲンとルノの方へと向く。そしてにっこりと笑って、言うのだ。

 「ゲンさん、ルノさん終わりましたよ。というわけで、帰っていいですよね?」

 帰りたい、という心の声が響いてきそうな声であった。それでいて気絶させたティアルクに一切感心がないといった様子はいっそ清々しい。

 「……お前、瞬殺ってな。いや、やるとは思ったけどもう少し躊躇えよ。相手が居るって意識ぐらいさせろよ」

 「あらあら、流石リアちゃんね。ティアルクを瞬殺出来るだなんて」

 呆れたような声を上げるゲンと楽しそうにほほ笑むリア。

 「いいじゃないですか。だって徹底的にぶちのめすようにいったのはゲンさんとルノさんでしょう? 私はその通りにしました。だから文句を言われる筋合いはありません」

 ふんっと怒ったようにそういってリアはそっぽを向く。そして続ける。

 「じゃ、私帰ります。課題しなきゃだし、魔物狩りもしたいし、ルーンにあげるお菓子も作りたいんで」

 リアはそういったかと思うと次の瞬間消えた。

 ユニークスキルを使い、さっさと何処かに行ったらしい。何処までも素早い逃げ足であった。

 リアが去っていった後、そこには気絶したティアルクと呆れたように楽しそうにそこにいるゲンとルノのみが残されたのであった。






 *


 「……あれ、僕」

 しばらくしてティアルクは目を覚ました。

 此処は何処だろうと意識がはっきりしないままに視線を巡らす。あたりを見渡してティアルクはそこがギルド本部内にある医務室だと気づく。

 (どうして僕は此処に……)

 それを疑問に思って、思考を巡らす。

 そうして思い出す。《姿無き英雄》と戦ってもらうと師である二人に言われ、その後すぐに意識を失った事を。

 (状況的に《姿無き英雄》にやられたのか……? でも気配も一切しなかったのに、そんな事あり得るのか?)

 その事実に気づいてティアルクは唖然とした。

 そんな事人に出来るのだろうかと。《姿無き英雄》の噂話ぐらいギルドに所属しているのもあってティアルクだって知っている。

 それでも、

 (姿を見せない所か、気配さえ消してしまう?)

 気配まで《姿無き英雄》が消してしまえる事など知らなかった。

 寧ろそんな事実を、ユニークスキルの効果を知っている者なんて少数であるから当たり前だ。

 医務室の、いかにも病院のベッドといったその白いベッドから体を起こす。

 痛みは既にない。《神聖魔法》を寝ている間にかけられたのだろうとティアルクは冷静に思考する。

 「あら。《竜雷》様と《風音姫》様のお弟子様、目を覚ましたのですね」

 ティアルクが目を覚ました事に気づいた看護師がいった。

 「《竜雷》様と《風音姫》様を呼んできますわ」

 そういって彼女はその場から去っていく。

 バタバタとその場を去っていく看護師の彼女に視線を向ける事なく、ティアルクはただ負けたという事実を痛感していた。

 自分の事をそこそこ強くなったと自覚していたからこそ、ある程度の敵に負けないという自負があったからこそ、余計に一瞬で勝負がついた事実が胸に響いていた。

 (僕はゲンさんやルノさんにも、《姿無き英雄》にも、全く歯がたたない。これが、レベル百越えとそれ以外の違いか……)

 限界を突破したものと、まだその種族の枠を生きているもの。

 その違いをティアルクは身を持って知らされた気がした。

 レベル百を超えたものと、超えてないものでは大きく差がある。超えないギリギリのレベルまでたどり着けても、そこを超えられないものは多い。

 ティアルクは超えられていないものだ。そして、現状レベルが伸び悩んでいる者でもある。

 (ゲンさんとルノさんは僕に刺激を与えたかったのかな。最近伸び悩んで、レベル上げをしてなかった僕のために、機会を与えたかったのかな)

 ティアルクはベッドに座りこんだまま、それを思う。

 そんな風に考えている中で、ゲンとルノが扉から入ってきて、その場に姿を現した。

 「よう、気分はどうだ?」

 「目が覚めたのね」

 入ってきた二人はにこやかに笑っている。

 彼らを呼んで来た看護師はそんな彼らに憧れでも抱いているのだろう。目をぽーっとさせて彼らを見ている。

 「……はい。僕、《姿無き英雄》にやられたんですよね?」

 二人の言葉に頷いて、ティアルクは確認するかのように問いかける。それに答えたのはルノだった。

 「ええ、そうよ。やっちゃっていいわよって言った瞬間、瞬殺したわ。本当流石《姿無き英雄》と言った所よね」

 心底楽しそうにふふっとほほ笑んで《姿無き英雄》について話す姿からは、彼女が《姿無き英雄》を好いている事が窺えた。

 「やっぱりですか…。でもおかしいですよ。気配すら感じず姿も見えないなんて。あれは何かのスキルですか?」

 「ああ。それがあいつが《姿無き英雄》と言われる所以だ。あいつは姿も気配も、その存在さえも相手に認識させなくするスキルを持っている。あいつよりレベルが低いお前が気付かないのは当たり前だ」

 「そうねぇ。あの子よりレベルが高い人でも気付かない人が多いんだもん。ティアルクじゃ気づけるわけないわ」

 ティアルクの言葉に、ゲンとルノはそうして苦笑する。

 「レベルが高くても気づかない……?」

 「ええ。気付かない人は全然気づかないわ。私とゲンはどうにか違和感を感じて気づけたけど、本当に些細な違和感だもの」

 ルノはそう告げながら、一番最初に《姿無き英雄》と呼ばれる少女―――リアと出会った時の事を思い出して思わず笑みを浮かべる。

 (内紛の解決なんて場で次々に開戦派を問答無用で片っ端から気絶させてたのよね)

 今から数年前にこの本部のあるルキアス王国の南部に位置するある国で内紛が起こっていた。

 ギルドは中立、どの国の味方もしない。ただしどちらにも味方をしないという形で戦争を終結へと導く場合がある。

 そのギルドが介入した内紛はその国を支えていた貴族の対立から起こった。王はその内紛のさなかに死去し、互いの派閥が王族を立てて戦っていた。本人達の意思も関係なしにだ。

 二つに分かれた派閥とは他に、平和を望む平民達の集団も多く居た。

 そんな彼らがギルドに接触し、ギルドはそれに答えた。

 その内紛にゲンやルノ、そしてまだ十二歳という子供であったリアも参加していた。

 リアのユニークスキルは隠密行動に持ってこいだ。それはその能力を正確に理解していたギルドマスターには承知の事実だった。

 内紛の起こっているさなか、リアは開戦を掲げている権力者達を片っ端から気絶させていった。もちろん、護衛も居たがその頃ギルドランクSだったとはいえ、十分に強かったリアには居ても居なくても変わらないものだった。

 (気絶させた後、全員集合させてギルドの立会の元講和を結ばせた。リアちゃんが、あれだけ人に悟られずに生きられる子がいたからこそ、あんなに早くあの内紛を終わらせる事が出来た)

 リアは秘密裏に内紛のさなかにギルドマスターに頼まれやった事はそれだ。突入して護衛を全員排除し、内乱の首謀者達を気絶させる。そしてそれをギルドのメンバー達が一か所へと運ぶ。

 それを即急に可能に出来たからこそあれだけはやくその内乱が終わった。

 今は十五歳で、その当時はもっと若かった。それなのにそれをやってのけるだけの実力と度胸を持ち合わせていた。年相応ではない、それらを持っていた。

 そうやって隠れて動いていたリアに、共にその内紛を抑えるために動いていたゲンとルノは気づいたのだ。違和感を感じて、ひっ捕まえたというのが正しいかもしれない。

 ギルド最高ランクを所持する二人がその場にいたのはただの偶然だ。内乱の終結はギルド最高ランクを二人も要するほどの問題ではない。ただ近くにいたからと二人はやってきただけだ。

 そしてその偶然がリアを捕まえる事につながった。

 (違和感を感じたのが私だけだったなら、私はきっと気のせいだと思った)

 リアのユニークスキルが、彼女よりレベルの高いものに与える違和感は些細なものだ。それだけ『存在を消す事』に特化しているユニークスキルなのだ。

 だから、もしゲンも違和感を感じているという言葉を聞かなければ、捕まえる事はなかったのだ。

 「……ゲンさんとルノさんでもきついんですか?」

 「ええ。今はそういうものってわかってるから気づけるけど、私達が《姿無き英雄》と出会えたのは偶然なのよ」

 「だから、お前があいつに気づけなかったのは当たり前だ。普通は気づけないんだからな」

 疑問を口にするティアルクに二人はそういって答える。

 「あいつ、強かっただろ?」

 そうしてそういって問いかけたのはゲンであった。

 「はい……。正直僕じゃ手も足も出ません…」

 一度対峙してそれを身に思い知らされた。だから自分の弱さに悔しくなりながらも、ティアルクは素直に頷いた。

 「当たり前ね。あの子が本気でかかってきたら私も怪しいわよ」

 「え? でも《姿無き英雄》ってルノさんよりレベル低いんですよね……?」

 ふっと笑って告げたルノにティアルクは驚いたように目を瞬かせた。

 「一応ね。ゲンはレベル百七十もあるからあの子相手でも大丈夫かもしれないけど、私とあの子とのレベル差なんて十もないのよ」

 ルノのレベルは現状、百二十九。リアとは九レベル差しかない。それは確かにレベルの高い方が有利だろう。

 でも、レベルが全てではない。レベルに幾ら差があっても運や状況、そして戦略でレベルの低い方が勝つ事だってある。

 たった九レベル差なら、リアにユニークスキルを行使して本気でかかってこられたらルノは正直勝てるか怪しい。

 《何人もその存在を知り得ない》。

 そのユニークスキルは効果を知っていても対処できない可能性の方が高い。何十もレベル差があいていれば相手が何処にいるかわかるかもしれない。でもたった九レベル差しかないルノが本気でユニークスキルを使ったリアの場所を特定するのは難しい。

 「レベル差があろうとも勝つ時は勝つし、負ける時は負けるのよ。ティアルクだって子供の頃に運で《キマイラロード》を倒せたからこそ、今レベル七十一になれたのでしょう?」

 ティアルク・ルミアネスという少年が、年齢にしてはレベルが七十を超えている理由、それは子供時代運と状況を味方につけて、《キマイラロード》を討ったからだ。

 普通なら真っ先に食い殺される存在に、たまたま勝った。そして一気にレベルが上がったのだ。

 「それに……、あの子のレベルの上がり具合は異常の一言に尽きるわ。今は私よりも、そしてゲンよりもレベルは低い。でもあの子はもっと強くなる。あの子は何れ、誰にも届かないぐらいの強さを手に入れる。私はそう思ってるわ」

 それは一種の確信であった。そしてそれが後の現実になるのだとルノもゲンも心から思っていた。

 「……そんなにですか?」

 「ええ。あの子はもっと強くなる。私達の中でも《姿無き英雄》はそれだけ異色なのよ」

 ティアルクの疑問にルノがそういって答える。

 (私だって天才と呼ばれて育った。でもリアちゃんはそういう次元じゃない)

 同じギルド最高ランク所持者であるルノの目から見てもリアは異色だ。

 ルノだって幼少の頃より天才と呼ばれて育った人だ。それでもリアはそういう『天才』の一言で片づけていい次元ではない。

 幾ら『天才』と呼ばれた者であろうともレベル百を超える事は苦難だ。

そして種族としての限界を突破できるのは『天才』の中でもよっぽど才能に恵まれているか、力を追求したものだけである。

 それなのに、リアは違う。

 レベル百を超えておきながらレベル上げを苦難に思っていない。自分に限界を感じていない。

 その事実そのものがまず異常なのだ。

 「ティアルク、《姿無き英雄》はお前と同年代だぞ」

 「はい……?」

 さらっとゲンが暴露した事実に見事なまでにティアルクは固まった。

 「同年代? って事はまだ十代? それでルノさん達にそこまで言わせるんですか……!?」

 しばらく固まった後、ようやくそれを理解したのかティアルクは思わず叫んだ。

 「ああ。あれとお前の年が近いからこそ戦わせたんだ。レベルに伸び悩んでたお前には良い刺激になるだろう?」

 敗北は人を成長させるものだ。特に同年代の人がそれだけの域に達していると知れば刺激になるだろう。最もその刺激が自分はああはなれないという諦めにつながるか、あれに追い付きたいと思うかは負けた当人次第だが。

 ゲンの言うとおり、ティアルクは二年ほどレベルが上がっていない。レベル上位者はほぼ誰でもぶつかる壁にぶつかっていた。弟子であるティアルクのその壁を取っ払ってやりたくて、二人はリアに頼んだのだ。

 「ただしあの子の年齢についてはバラしちゃダメよ? あの子は性格もちょっと変わってて自分の事が周りに露見するのを酷く嫌がるの」

 その後に続けられたルノの言葉に、驚いたのはティアルクである。

 強い事を誇りに思うこの世界の住人達にとってそれは理解しがたい思いである。

 「というか露見したら俺らが闇討ちされる。多分ティアルクなんか殺されるぞ」

 「……そ、そんなに物騒な人なんですか?」

 ゲンの黄色い瞳が真剣に揺れていて、思わずといったようにティアルクからそんな声がもれる。

 「物騒というよりあの子、殺すと決めたら容赦ない子だから…。まぁ、機嫌を害さなきゃ問題はないわよ。ただ自分の事を周りに知られるのを本気で嫌がってるから、暴露したらヤバイわね」

 「つか俺らも年齢ばらす許可もらってねぇから、バレたらヤバイな。闇討ちとかになればギルドマスターも絶対面白がって乗ってくる…」

 「ええ。だから私とゲンのためにも、そして貴方のためにも暴露したら危ないからやめなさいね? 広まってたら発信源が貴方と確定するから。そうなったら私とゲンからは地獄の特訓をさせてもらうから」

 そういう二人の目は本気である。

 実際、リアは人の死におびえている癖に殺す時は躊躇いもせずに殺すような人である。

 直に接した事のあるゲンとルノはそのことを少なからず理解していた。

 「は、はい…」

 その何処までも本気の目に若干、ティアルクはおびえながらも頷くのであった。

 そして思うのだ。

 (《姿無き英雄》ってそれだけ怖い男なのか……。でもいつかは僕だって…っ)

 容赦なく、そして恐れられ、異常なまでに強い《姿無き英雄》が男だという勘違いを。

 それは勘違いであったが、その心を知る術もないゲン達はそれを訂正する事も出来なかった。



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