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紅煉のラインベルク  作者: 椋鳥
第24章 愚神礼賛
144/179

144話

***



ラインベルクの行動は素早かった。


自身の対メルビル早期決戦論を翻して、ジリアンとブリジット=フリージンガー、カタリナ=ケンタウリにロザリア進軍を願い出るや、全てを段取りしてアビスワールドを出発したのである。


イリヤは北方はミレディに駐屯している第1軍と、西のシューティングスター城に配された第4軍をラインベルクへと与え、後者の指揮は自身がとるとして一足先に出立を済ませていた。


ラインベルクの鍛えた紅煉騎士団第2軍はオードリー=アキハ指揮の下、引き続きラルメティの占領政策に従事し、シルバリエの第5軍やムーンシェイドに戻ったアラガンの第3軍と連携して、対メルビル法王国の防衛を担うことになる。


第1軍の陣地入りを果たしたラインベルクを、主将であるワイバーンが恭しくも出迎えた。


「お待ちしておりました。ラインベルク中将閣下」


「大佐。フリージンガー中将の軍をしばし借り受ける。宜しく頼む」


そう礼を返して、ラインベルクは随伴員をワイバーンへと紹介する。


ミレディに伴ってきたのはキルスティン=クリスタルとリーゼロッテ=ブラウンの二人で、フュハ=シュリンフェアとカノッサの二人をシューティングスター城のイリヤの下へと送っていた。


ジリアンの警護はブリジットやジュード=ケンタウリ、シバリス=ラウらに託して、ラインベルクは充分と思われる精鋭をロザリア方面に集結させている。


出陣前に宰相・カタリナから念を押された内容を、ラインベルクはワイバーンに語って聞かせた。


彼女はこう言っていた。


「一応、剣皇国の騎士団残存勢力とはコンタクトが取れています。こちらの進軍に合わせて援護することを承知させてもいる。けれど、戦力的には過度な期待は出来ません。トリスタン代理王の行方も知れないですし。後は樹林王国。対魔騎士団も瓦解し、固有の武力は剣皇国よりも微々たるものです。でも、プライム=ラ=アルシェイド伯には助力を請うてあります。彼女と<暗黒騎士>が戦線に突入すれば、勢いもつきましょう。…予測し得る外交的支援はこれだけです。作戦立案の際にお忘れなきよう」


ワイバーンは納得し、剣皇国の部隊や樹林王国の増援はあくまで計算の外に置くべきだと主張した。


カタリナからは他に、「頑張ってくださいね、ライン」と頬に軽くキスをされたものだが、ラインベルクはこれだけは誰にも言っていない。


「閣下の直下には、慣例の通り第1中隊を置かせていただこうかと思うのですが…」


「それでいい。それから、全軍の指揮は大佐がそのままとってくれ」


「は?」


「敵は魔物だ。全軍防御陣形を敷いて守りを主体とすると良い。先に東部要塞を堅持した大佐なら、何も心配ない」


「敵の撃破はどうなさるおつもりですか?告知天使とかいう化物まで参戦していると、命令書上では拝見しましたが…」


「それをおれがやる。第1中隊で戦場を遊撃するから、大佐には何とか敵の攻勢を凌いで貰いたい。第4軍を待ちたいところではあるが、正直時間が惜しい」


「そうですね。メルビルの出方が気になります。万事了解しました」


「すまん。フリージンガー中将の直属である大佐を酷使するのは気が引けるが、今回はグラ=マリだけの問題ではない。この一戦に大陸の未来が掛かっていると思って、事に当たってくれ」


「存じております。私も紅煉騎士団の騎士。微力ながら全力を尽くしましょう」


ブリジットの右腕たるワイバーンは軽く口角を上げて笑みを浮かべ、腕を差し出した。


ラインベルクはその手を固く握った。


派閥として見れば好敵手に当たる二人であったが、政治的姿勢を脇に置いて共同で作戦に臨む体制がここに完成を見る。



ミレディから西に行軍すること三日、ロザリア湖がまだ見えぬ内に第1軍は魔物の大群と遭遇を果たす。


目の前にはなだらかな丘陵地帯が広がっており、丘の陰にも魔物が潜んでいることは鳥眼の魔術で把握済みであった。


「魔物は有翼種から四足歩行種、二足歩行種、不定形種まで、統一性がまるでありません!…来ます!」


「事前情報の通りか…。弓騎隊と魔術師たちに中距離からの迎撃を命じろ!交替のタイミングはこちらで指示する」


「はッ!」


ワイバーンは現れた魔物に対してオーソドックスな戦術を選択した。


紅煉騎士団に対魔物の戦歴は乏しく、騎士たちに敵の種毎の攻略法をマスターさせる時間的余裕もない。


要らぬ混乱を誘わぬよう敢えて通常時と同じ対処を試みる。


矢と魔術による間接攻撃が開戦の合図となった。


氷狼や雪烏、小鬼といった比較的脅威度が低い魔物に対しては、初撃で相当に数を減らした。


ロザリアの魔物がその破壊力を見せつけるのは、二波以降のことであった。


まず突進してきたのが大蛇の群である。


これの盾にとリーゼロッテが召喚したのは、砂中を根城として蠕動する巨大な芋虫状の魔物 <砂の王>で、大きく円形に開いた口から密集した鋭い牙を覗かせて大蛇を牽制した。


負けじとワイバーンも、ノームより上位にあたる大地の精霊獣ベヒーモスを召喚して魔物の群へと放る。


ベヒーモスは角と鬣を怒らせた筋肉質の四足獣で、土色の巨体を軽々と操って戦場を縦横無尽に駆け巡った。


すると、精霊獣の行く先々で激しい地割れが起こり、地面が裂けて出来た奈落へと次々に魔物が落下していく。


第1軍に動揺が走ったのは、竜と吸血鬼という大物の登場によってであった。


一匹の火竜が<砂の王>やベヒーモスの妨害などものともせずに、正面から第1軍へと体当たりを敢行する。


吸血鬼たちがそれに続いて動き始めるのも窺え、ワイバーンと言えど肝を冷やした。


「続け!竜と吸血鬼、まとめておれが面倒を見るぞ!」


ラインベルクは絶妙なタイミングで部隊を動かし、猛進する竜の横っ面に総攻撃を命令する。


自身が先頭に立って聖剣ロストセラフィを手に斬り掛かり、馬から飛び下りるや岩山のような火竜の背を機敏に駆け登った。


火竜の後頭部辺りにまで達すると、力任せに剣を突き刺した挙げ句、魔術で氷冷の一撃を叩き込む。


あまりのダメージに、火竜は炎のブレスを噴き散らしながら悶絶し、ラインベルクの止めの剣閃を浴びて沈黙した。


その世にも鮮やかな竜退治を目の当たりにした紅煉騎士団第1軍は沸き立ち、恐怖の象徴とも言える吸血鬼を相手にしてさえ戦闘意欲を失うことはなかった。


「闇へと還れ!」


キルスティンの斬撃は守る吸血鬼の腕を裂き、態勢を崩したそこへ第1中隊の騎士たちが集中砲火を浴びせかける。


見事な連携攻撃は吸血鬼を一匹ずつ着実に葬っていき、ラインベルクの大暴れもあって遂には吸血鬼までも撃退することに成功した。


「…まだまだ来るぞ!第1中隊、南へ走れ!」


損害などどこ吹く風とばかりに寄せてくる魔物を目の当たりにし、ラインベルクは旗下の一個中隊を動かすことで戦場を南へと移した。


魔物は呆気なくもラインベルクの隊に誘導され、ワイバーンの第1軍主力に対して横面を晒すことになる。


(ラインベルク将軍は魔物の動きを読んでいる。…これが群青騎士団で培ったという戦い方なのか)


ワイバーンは感心しつつも内心ではうすら寒く思っていた。


ラインベルクの戦闘勘や闘法は、たとえ味方であっても危険を覚えずにはいられない程に完成されている。


竜を独りで殺し魔物の群を手玉に取ることなど、余人には決して真似の出来ない妙技と言えた。


(…デイビッド=コールマン様では勝てない道理だ。これではフリージンガー中将や私とて同じこと。彼を正面きって敵に回したら、待つのは敗北の二文字のみであろう)


それでもワイバーンはラインベルクの作り出した隙を見落とさず、全騎を前に出して攻勢を強めた。


第1軍は散々に魔物勢を叩き、一旦は視界から敵の姿を駆逐するに至る。


ラインベルクとワイバーンはこれ幸いにと軍を進め、目的地であるロザリア湖へと急いだ。


金色に光るとされる湖面の煌めきが目視出来ようかという地点にまで到達すると、足下に群生する緑は水草のそれへと代わり、湿地帯特有の据えた匂いが鼻をついた。


「骸骨騎士だ!」


誰かがそう叫ぶと、他方からは「蜥蜴騎士もいるぞ!」という悲鳴に近い警告の声が上がった。


その言葉の通りに、溢れ出でし大量の魔物が第1軍の周囲を席巻した。


ラインベルクは油断なく魔物の列を眺め回し、告知天使の姿がないかを捜索する。


(ただの魔物だけなら、ワイバーンはそうは遅れを取るまい。…問題は告知天使だ。おれとキルスティン、ロッテの三人では戦力的に余裕がない。イリヤの第4軍との合流を待ってから遭遇したいものだが…)


ワイバーンの指導で第1軍は錐形に隊列を組み直し、敵の包囲網から逃れるべく攻撃を一点に集中させた。


それはセオリーでラインベルクも合格点を与えたものだが、第1軍の勢いは道半ばで息切れを起こすことになる。


「何だこいつは?…うあッ!」


「助けてくれええええ!うおおおおお!」


部隊の先頭から異変を感じたワイバーンは、一時全軍を横陣へと敷き直して様子を窺った。


ワイバーンの遠視の魔術で確認出来たのは、黒曜石のような漆黒の甲冑に全身を包んだ騎士然とした魔物で、そこにラインベルクらが突撃していく様子が映し出される。


告知天使の出現を嗅ぎ取ったラインベルクは、指揮下の中隊をワイバーンの本隊に組み入れるや、キルスティンとリーゼロッテの二人だけを伴って錐形陣の先端部へと急行した。


そして聖剣ロストセラフィで告知天使にぶつかっていく。


「失せろ!」


ラインベルクの上段からの剣撃は告知天使の持つ黒い円形盾に阻まれ、もう一方の腕に握られた黒の長剣が唸りを上げて反撃に出る。


それを軽いステップでかわしたラインベルクであったが、振られた剣により生み出されし風圧を前に態勢を大きく崩された。


(まずい!ここまでの剛剣か…!)


ラインベルクの危機を前に、リーゼロッテが電撃の魔術で支援を目論む。


しかしそれは甲冑の表面で完璧に弾かれ、告知天使の動作を妨害するには至らなかった。


黒い魔物の二振り目を聖剣で受けたラインベルクは吹き飛ばされて、中空を綺麗に舞った。


まさに純粋なパワーに起因するもので、遠くに落下したラインベルクの安否を気遣いながらも、続いてキルスティンが告知天使へと挑んだ。


学習した分斬り合いを避けたものだが、告知天使の剣速はキルスティンの予測をも超えており、直ぐにも刃が喉元へと迫る。


「やらせない!」


掛け声と共にリーゼロッテが放った風の魔術は空気を螺旋状に回転させて抉り込む、彼女オリジナルの高性能な超術であった。


螺旋を描く気流に取り込まれた告知天使の円形盾が、その力に抗えずに弾き飛ばされる。


それでも黒の剣を繰り出す手は止まず、否応なしに撃ち合わせたキルスティンの剣が一撃で叩き折られた。


(…なんという暴力!)


キルスティンは告知天使の次の一振りを飛び退いてやり過ごし、小声での詠唱を試みる。


リーゼロッテの土の魔術がようやく告知天使の動きへと干渉を果たした。


ぬかるんだ地面は波を打って高低し、告知天使に安定した足場を与えない。


その隙にキルスティンの手には魔術で生成した光剣が握られている。


起き上がったラインベルクも、魔術で告知天使を狙撃しながらに駆け寄って来た。


「抵抗されたか…。奴に生半可な魔術は通用しないようだな。…ん?」


遠方より押し寄せてくるのは地を蹴る馬蹄の響きで、ラインベルクにはそれが確かに感じられた。


イリヤの第4軍の到着に間違いなかった。


ラインベルクは土の魔術を解くようリーゼロッテへと指示し、味方の増援が参戦するまでに目の前の強敵を除くと誓った。


「キルスティン、挟み込む!ロッテは奴の剣の軌道を逸らせてくれ」


リーゼロッテが魔術を解除するや、告知天使は猛然とラインベルクに襲い掛かった。


黒光りする兜には仮面が装着されていて、その表情を窺い知ることは出来ない。


ラインベルクの頭上へと振り下ろされた一撃はしかし、リーゼロッテの全力の風の魔術に押されて狙いを外した。


告知天使の後方よりキルスティンが斬り付け、前方からはラインベルクが絶妙なタイミングで聖剣技を放つ。


聖剣技・十字剣。


聖剣技・千刻。


縦横に走った閃光は、それで終わらずに絶え間ない無限の剣閃へと移行してみせた。


ラインベルクとロストセラフィが生み出した連続の秘技を前に、さしもの告知天使も甲冑を裂かれて前のめりになる。


万全の準備動作をもってリーゼロッテの撃った光線は告知天使の傷だらけの胸部を貫通し、止めとばかりにキルスティンの光剣が兜を叩き割った。


黒の装備の下に血肉は存在せず、空洞が露になるや告知天使の全身は音をたてて崩れ落ちた。


「…勝った」


キルスティンは勝利を宣して光剣の魔術を解くと、聖剣技を発動したことにより消耗の著しいラインベルクへと速やかに駆け寄った。


「大丈夫?直ぐに体力の付与を」


「いや、それよりイリヤとの合流を急ごう。事前に聞いた話では、告知天使はまだ潜んでいる可能性が高い」


「フュハと共闘して残りも狩るのね?」


「…大人しく狩られるとも思えないがな。まずはワイバーン大佐の下へ戻る。ロッテ、行くぞ」


ラインベルクたちがワイバーンの本隊へと帰還を急ぐと、湖の方角から突如眩い発光現象が確認された。


ロザリア湖の周りに、輝く光柱が林立したのである。


天にも届こうかという巨大な柱は十三を数え、放たれる光量と熱量が遠距離ながらに膨大な様は、博識のリーゼロッテをすら狼狽させる。


「こんな現象…聞いたことがありません。魔術でやっているとしたら、それはもう人間の技ではない…」


立てられた柱は一向に光を弱めることなく、その存在を強烈にアピールしている。


魔物たちは何ら感化されないようで、慌てふためく第1・第4両軍に押し込みをかけた。


「…どうするの?」


「先ずはワイバーンの下へ。あれは…今すぐに何かをしてくる類いのものではないようだ」


「あそこに…神が降りられるのではないか?この大陸を統べる全能の、神が…」


「伯母様!それは…」


思わず甲高い声を出して、リーゼロッテはキルスティンの推論を遮った。


ラインベルクも状況からそれを視野に入れており、彼の思考は現れるであろう存在の悪意の有無に集約されている。


神ないしはそれに近い何者かが降り立ったとして、人間に仇為す気であるのなら闘う他にない。


全能の神として知られる何者かは果たして自分達に対して悪意を保持しているのか。


そしてそれを強行してくるのか。


ラインベルクに答えはなく、彼にしては珍しく不安のような感情を覚えていた。


(イリヤなら、少なくともおれたちよりは物事が分かるだろう。ここいらの魔物を駆逐して、早く戦力を糾合しなければ!)


ラインベルクの帰りを待つ身のワイバーンは、気をしっかりと保ったままで冷静に防御戦の指揮をこなしていた。


他のギュスト派の士官とは違い、彼は出身国で魔物との交戦を経験済みである。


光柱の出現にこそ度肝を抜かれたが、それで蜥蜴騎士や骸骨騎士に後れを取るほどやわな騎士ではなかった。


「左翼の魔術防御が乱れがちだ。ナイアスの小隊を回して挽回させろ!」


敵が集団戦を挑んできているからには指揮官に徹したワイバーンの用兵がものを言い、多勢の魔物をよくいなしている。


当人は一騎当千の武力と優れた魔術素養を兼ね備えた強騎士であるが、今は自分が突出するべき時ではないとよく承知していた。


帰陣したラインベルクとキルスティンが嵐のように魔物を吹き飛ばし始めると、ワイバーンはこれを機と見て全軍の配置を機動に特化した長蛇陣へと組み替える。


そうして二人が暴れる地点を起点に戦場を高速で移動し、賞賛に値する手際の良さで第4軍との合流を成立させた。


二軍合同での戦いとなり、中級以下の個体戦力が中心の魔物に対して、紅煉騎士団は次第に優位を確立する。


光柱のそびえるロザリア湖の方向からは散発的に魔物の増援が到着した。


それでも紅煉騎士団の側には追っ掛けで剣皇国軍の残党が加勢に入り、時を置いて樹林王国の有志の討伐隊も姿を見せた。


ラインベルクはワイバーンと図り、総勢をロザリア湖へと近付けるべく交戦ポイントを少しずつずらしていく。


大軍故に魔物に力負けすることはなく、程無くして巨大な光柱に囲われた金色の湖面が眼前に展開する。


「これが…湖だと?」


ワイバーンは低く唸り、直視のし難い黄金に輝く水面から視線を外した。


静かに波打つ様子だけが元は普通の湖であったと連想させるが、よくよく確認すると魚や動物の死骸の浮いた言わば死海と化していることが分かる。


近くから見れば、光の柱は魔術による発現というよりも建造物に近く、熱量があるため至近にまでは近寄れぬが、どういう理屈か固体化されているように見えた。


「こんなもの、有り得ません…。光が…固体として一つところに留まっているなんて。見た感じ魔術は何一つ感知出来ませんし、奇怪です…」


「ロッテ。考えても無駄だ。告知天使とやらが実在した以上、ここに神とでも呼ぶべき異能の何かが現れることは確実だ。既存の知識が当てはまるような相手じゃない。湖から意識を逸らすな」


「はい、伯父様…」


第4軍の戦闘指揮を実質的に担うのは将軍代理のグリプス=カレンティナ大佐で、彼はワイバーンに歩調を合わせる形で密集陣形でもって魔物の攻勢を防いでいた。


向かってきた単眼巨人に矢の雨を降らせて撃退し、幽鬼の群には魔術師部隊を当てがって進出を許さない。


それでも途切れることなしに魔物は襲い掛かってきて、金色の湖を前にして戦闘は激化の一途を辿った。


「敵は…湖から現れている?」


「そう。ロザリア湖は既に<門>と化したようね。竜なり大蛇なり、大型の魔物が登場しても不思議はないわ」


グリプスの気付きにイリヤが及第点を与える。


二人は馬上で隣接する格好で第4軍を動かしており、当初からグリプスの方針にイリヤが口を挟むことはなかった。


イリヤは上空に設置した魔術の偏光レンズを通して全域の戦況を把握していて、現時点で第1・第4両軍の作戦を過不足ないものと判断している。


「中将閣下…それで、告知天使とかいう手練れはどこに?カノッサ殿やシュリンフェア嬢が捜索にあたっておりますが…」


「ラインベルクが一体を撃破したようだけれど」


「え?」


「…話しているそばから、御出座しよ」


イリヤの魔眼に、第4軍を標的として高速で向かってくる黒い塊が捉えられた。


(剣皇国はアレに独壇場を許した結果敗北を招いたようなもの。…さて、こちらはどうなるかしら)




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