102話
***
キルスティン=クリスタルの部隊と合流を果たしたラインベルク一行は、話は後と言わんばかりにその足で陣へと連れていかれた。
ラインベルクとプライムはここで別れても良かったものだが、久しく顔を合わせていなかったカザリン=ヴォルフ=ハイネマンの姿があったことで決心が鈍った。
そうして旧交を温めようとした途端に、陣内が急に慌ただしくなる。
「何事か?」
ようやく関係者が天幕に落ち着いたところであり、キルスティンは不機嫌な様子で近侍の騎士に質した。
その答えを待つまでもなく、いつの間にか同席していた白髪白髭の老人・ナザン=イオンが警告を発した。
「来たようだぞ。お主らの天敵、メルビル法王国のニーザ=シンクレイン枢機卿だな」
ラインベルクら全員が一斉に立ち上がった。
「待て待て。そういきり立つな。正面から戦って勝ち目はあるのか?」
ナザンの言に、ラインベルクが回答を用意していたかのように応じる。
「この面子なら勝てる。ニーザはカザ、例の宮廷魔術師が出てきたらプリムラ。ルキウスはおれが殺る。後は咒黄に気を付ければいい。本隊が帝国領内にある以上、聖騎士フェルミもいなければ、戦力もまた過少だ」
大陸の癌を除く千載一遇の機会だとラインベルクは闘志を掻き立てられ、それにあてられたプライムやキルスティンも拳を握って気合いを入れ直す。
「ではレウ=レウルはどうする?」
ナザンの持ち出した名に、ラインベルクははっとさせられた。
彼以外はその名に心当たりがなく、不思議そうにラインベルクとナザンとを見比べる。
「奴が来ているのか?」
「知らん。だがニーザの陣営にいることは確実だ。条件が揃えば転移の魔術でフェルミ一人くらいは呼び戻せるだろうよ」
レウのことは失念しており、ラインベルクの脳細胞がその対策を捻り出そうと必死に回転し、頭の中で火花を散らす。
しかし<始源の魔物>を相手取るには火力が絶対的に不足していると言え、せめてロイドが万全な状態であったならばと無い物ねだりが思考を支配しかけた。
「貴様がやらんでどうする!同類なのだろう?」
凛々しくもキルスティンが一喝すると、ナザンは嫌そうに眉を曲げて「奴は苦手でな…」と呟いた。
それでも一応は承諾の意思を示し、そこはキルスティンが我を通した格好となる。
ラインベルクとカザリンの二人がナザンの正体に関してキルスティンを問い詰め寄ると、あっさりと<始源の魔物>だと認めた。
「なん…だと?」
「今更何を驚く?お主の国にはイリヤが行ったのだろう?<色欲>のイリヤよ。リリス=ウィザードめはラルメティに移動したと聞くし、これから忙しくなるぞ」
***
教導騎士団同士の戦闘はたちまち乱戦と化した。
キルスティンの部隊七百が急造の横陣を完成させたところに、教導騎士団ハ百が鶴翼陣で突っ込んだのである。
結局キルスティンは初見であるラインベルクやロイド、プライムらとろくに挨拶を交わすことも出来ず、一気に戦闘指揮に忙殺された。
横陣の左半分を大黒柱であるファルートに任せ、右半分の部隊を統率して敵左翼とぶつかっている。
交戦する寸前にロイドがその場の判断で戦力を割り振り、ラインベルクやカザリンら勇者たちを分散させて横陣の下支えとした。
その効果があってか、局地戦でキルスティン勢の優勢が明らかになり始める。
騎士たちの士気は同士討ち故にどちらの部隊も高くはなかったのだが、これもキルスティンのカリスマがニーザに勝ったのか、鶴翼陣の綻びが徐々に拡大しているように見えた。
キルスティンの前方では、ラインベルクがルキウス=シェーカーと幾度目かの一騎打ちに臨んでいる。
(あのルキウスと互角に撃ち合っている…!紅煉の、ラインベルク…)
ルキウスが動けぬと見たキルスティンは敵左翼の乱れた箇所へ積極的な攻撃指示を下し、自らも斬り込んで成果を上げる。
ちょうどその頃、ファルートの指揮する左軍は敵右翼と交戦しており、序盤からカザリン=ハイネマンとラティアラ=ベルが魔術で激戦を繰り広げていた。
対戦カードの関係上、プライムが自由になるかと思われたのだが、そこにレウ=レウルが無造作に現れた。
「アルシェイドの末。貴女が自由に動いてしまうとハンデが大きい。少しの間、じっとしていて貰えるかな?」
レウは無邪気な笑顔を作り、大きな瞳でプライムを見詰めた。
華美に宝石のあしらわれた焦げ茶色の長衣は常と変わらずシワの一つも見当たらない。
切り揃えられたおかっぱ頭はあらゆる光を吸い込みそうなくらいに純粋な漆黒をしている。
「しゃらくさいわね。退きなさい、化け物!」
プライムが右手を振るうと周辺に気流が発生して、空気が幾百の猛る刃と化すやレウに殺到した。
並の抗魔術では防御しきれずに切り刻まれるところであろうが、レウのそれは一つ一つの刃を着実に弾き飛ばしていく。
プライムは左手を掲げて雷撃をも見舞うが、これすらも一瞬の内に無効化されてしまう。
「無理矢理、と言うのは好きではないのですがね」
レウが片方の目を瞑ってみせると、プライムの全身は硬直して身動きが出来なくなる。
(これは…!魔術の発動がノータイムなの?予測してなきゃ抵抗することも出来ないってわけ?)
プライムは力をこめるが、指の一本とて微塵も動かせなかった。
「終わるまでの辛抱だよ。僕は手を出したりしないから。ああ、その辺の騎士たちがどうするかまでは知らないけれどね」
ころころと笑い、レウはプライムから視線を外すと踵で地面を削って魔方陣を描き出す。
(…いけない!ここで<七翊守護>や強力な魔物を召喚されては…)
「えげつないぞ…<強欲>のレウ=レウルよ」
二人の攻防に割って入ったのはナザン=イオンで、彼が細腕で樫の木の枝を振るうや、乾いた破裂音と共にプライムを束縛していた魔術が霧散した。
プライムは身体が自由になったことを確認すると、地面に手をついて土に干渉する魔術を組み上げる。
周囲の地中から鋭く尖った土の円錐が幾本も飛び出して、一斉にレウを襲撃した。
その攻撃は余すことなくレウの抗魔術に防がれるが、既にプライムの目的は達せられている。
「僕の魔方陣を崩したわけか。…それにしても。<傲慢>のナザン=イオン、貴方が出てくるとはね」
レウが見据えると、ナザンは飄々とした態度で応じた。
「百数十年ぶりよな。レウ=レウル。一時代にこうも我等が集結するとは、神の御導きやもしれんな」
「かつて僕らを見捨てた神が、まだ貶め足りないとでも言うのですか?」
「原罪が消えていないのがその証拠よ。幾千の贄に贖罪を託そうと、一向に軽くもならん。違うか?」
「否定も肯定も出来ませんね。ひとつ、神が僕らをどうこうされるおつもりで現世に集わせたのだととしたら、成果は出たことになります」
「マハノンのことなら聞いている。ラインベルクに敗れて贄は果て、奴はまた長い眠りについた」
「違います。ガフとシドが死にました。ガフはラインベルクが手を下したようです。シドはニーザ=シンクレインの圧倒的な暴力によって、僕の目の前で死んでいった」
ナザンは顔をしかめた。
「…そうか。ガフとシドが逝ったのか。奴らは未来永劫、原罪に苦しみ続けるというわけだ。それで、そなたはニーザに手を貸したのだな?」
ナザンの身体から、魔力の発露と思われる煙が立ち昇る。
レウは興味深げにそれを眺め、笑みを絶やさずに会話を続けた。
「居場所を教えただけですがね。それも僕の原罪を償うための手段です。ニーザという贄の<強欲>を満たすための、ね」
「そなたはたった一つの禁を破った。ただの七人、古より神に生かされ続けている私たち兄弟の誓いを。相互不干渉を、だ」
「僕は誓った記憶はありませんよ?それはあなた方六人が勝手に決めたことです。僕は贄に従うのみ。それ以外にルールを設けてはいません」
「そうであったな。そなたは闇よ。自己の欲求や感情などもはや一片たりとも残っておるまい。忠実に贖罪を為す神の操り人形と成り果てた」
「人間社会の政にまでちょっかいを出す貴方やイリヤの考えに賛同する気は毛頭ありません。かといって、ガフやシド、マハノンのように人であることを捨てて刹那的な生を貪るつもりもない。僕は僕のやり方で贖罪を行います」
ナザンが樫の枝を前に出した。
「囀ずるな。神をも唸らせた私の大魔術、そなたに受けきれるか?」
「…いいのですか?教導騎士団というのは貴方の育てた赤子も同然。貴方が開祖メルビルに授けた理知を継ぐここな騎士たちは僕らの衝突の余波には耐えられないでしょう。生き残るのはせいぜい数人です。僕は構いませんがね」
ナザンは動きを止め、自軍敵軍を問わず殺し合いを続けている騎士たちに目を向ける。
レウの発言に偽りはなく、失われた古代の秘術同士がぶつかれば戦場全体が吹き飛ぶ可能性もあろうとナザンも認めた。
(メルビルの子ら、か…)
「それと、もう遅いから種明かししますが。この戦場には誰かが足りないと思いませんか?だからこそそちらの軍勢が優勢を保てているという理由にもなるのですがね」
プライムが厳しい表情で戦場を見回した。
「…ニーザ=シンクレインはどこにいるの?」
ラインベルクの当初の見立てでは、ニーザのカウンターパートはカザリンの予定である。
彼女がラティアラと戦闘状態に突入したがため、プライムはフリーになっていた。
「つまり、そういうことさ。プライム=ラ=アルシェイドがここで好き勝手しているように、ニーザ=シンクレインもまた好きにやっているんだよ」
***
ロイド=アトモスフィ、戦場に斃れる。
その報がもたらした影響は非常に大きく、聖アカシャ帝国軍対教導騎士団・ラルメティ公国連合軍の決戦にも影を落とした。
中でもレーン=オルブライト中将とフュハ=シュリンフェア中佐の怒りは尋常でなく、教導騎士団許すまじの気迫でもって指揮にあたった。
帝都シルバリエにおける攻防は一戦して決着がつかず、両陣営が別れて睨み合うこと一週間、膠着状態に陥っている。
ラインベルクはカザリン、プライムらと連れ立って、何故かキルスティンに付いてファナランドを訪れていた。
彼やカザリンの表情は暗く、キルスティン以下の騎士にしても心に重しがのしかかったような具合である。
教導騎士団を圧倒して押し返しはしたが、乱戦下で一騎士に扮して参戦していたニーザにロイドを討ち取られたのだ。
ハリーとジュデッカを軽く捻ったニーザは、何事か囁いた後にロイドの胸を剣で刺し貫いたと言う。
対ニーザ共同戦線の核となり得たロイドが失われ、キルスティンも精彩を欠いた。
部隊や政に関してはファルートが良く代理をこなしたものだが、解放軍の精神的支柱はやはりキルスティンなのである。
「彼の力はニーザやフェルミと戦争をするのに必要不可欠だったわ。軍統率、戦術立案、魔術。何れも高い次元の実力を備えた軍人で、そして何より帝国の要人でもある。理屈の分かる強騎士が他に見当たらない以上、奴等に正面きって挑むことはもう期待出来ない」
ベッドで上半身を起こしたカザリンは淡々と述べた。
露になった裸体は三十代半ばという年齢に相応しい熟した豊満さを湛えている。
その蠱惑的な曲線美を目にするもラインベルクの意識は酩酊気味で、手中のグラスに満たされたアルコールをこれまた一気にあおった。
バスローブ一枚というあられもない姿で安楽椅子に体重を預け、酒気満載の溜め息をつく。
そんなラインベルクを、非難めいたことを口にしながらもカザリンは優しい瞳で見詰めていた。
「カリスマも十分。下級貴族の出だから身分闘争にも巻き込まれにくい。帝国の発展に寄与することは間違いなかったでしょうに」
「…カザ。もう説教は聞き飽きた。全部おれのミスだ…。ルキウスに掛かり切りになった、おれの…」
確かにあの時はラインベルクも不思議に思ったものだ。
ルキウスは軽口を叩くでもなく、黙々と剣を放ってきた。
一撃一撃は強烈で決して手抜かれていたわけではなかったが、ルキウスらしい注文がなかった。
賭けにも近い危険な技を繰り出しておいて、相手の反応に応じて変化を付けるのがルキウスのやり口であったのだが、それが見られなかった。
(…全力で来ていたのは間違いない。あわよくばおれを倒そうとは思っていたのだろうが、勝負を急ぐ気はさらさらなかったということか…)
キルスティンより貸し与えられたカザリンの寝室はファナランドの主城奥にある貴賓用の客室だ。
カザリンはキルスティンが出陣したと聞き付け、ニーザと戦闘に入るのではないかと単身イチイバルから駆け付けていたのである。
ラインベルクとプライムがロイドを連れてきたタイミングは偶然であり、だからこそ彼女はこの時間を無駄にしたくはなかった。
「ライン、この後どうするの?」
「どうするもない。帰国するさ。帝国が負ければ、次はグラ=マリだ」
「ジリアン女王と紅煉石の盾を続けるのね?」
「…ロイド=アトモスフィからも散々に責められたよ」
「でも止めないのよね?」
「おれに他の選択肢は選びようもない。カザには分かっているだろう?」
「知らないわ。…ニーザへ拘るのは分かる。でもグラ=マリ王国に操を立てる理由は知らない。そうしている内に、誰もニーザを止められなくなる」
ラインベルクの黒瞳に光が点りかけたが、その兆候は直ぐに消えた。
呂律が回りきらないままで、カザリンに対して反論を試みる。
「カザはイチイバルにいるんだろう?シルドレを焚き付けてニーザに当たらせればいい。あいつこそロイド=アトモスフィに劣らない勇者だ」
カザリンはゆっくりと首を横に振った。
それに合わせて長い黒髪が微かに揺れる。
「イチイバルは共和制国家よ。専制で鳴らした聖アカシャ帝国と違って、個人の感情で軍は動かせない。ここファナランドへの支援一つとっても<騎聖>シルドレが汗をかいてようやく実現したこと。彼は政治家ではないから尚更、諸国で共同歩調をとるにも難儀するでしょうね」
「…それはどこの国も同じさ。多かれ少なかれ事情はあるにせよ、だ。現におれは一応筆頭騎士で将軍らしいが、部下の一人も連れては来られなかった。ロイド=アトモスフィが帝国軍の最高司令官であった頃が唯一の機会だったのかもしれない…」
その時期のグラ=マリは分裂状態にあり、対ニーザに注力することなど主張出来はしなかった。
思えば東部要塞攻防戦下で教導騎士団と刃を交えたあの時こそが、ニーザやルキウスを打倒するのに最高の場面であったのかもしれないと、ラインベルクは後悔に後悔を重ねる。
カザリンは真っ白い手でラインベルクを手招きした。
グラスを取り落としたラインベルクがふらふらとした足取りでベッドに歩み寄ると、カザリンは彼の頭を胸元に抱き抱える。
(相変わらずでかい…)
双丘に包まれて心地好い気分でいたラインベルクの脳を、部屋の扉を叩く轟音がいたく刺激した。
「ライン!ここにいるんでしょう?このド助平野郎が!絶対ぶっ殺してやるんだから!カザ姉様、ここを開けて下さい!私がこの手で間男を引き裂いてやります!」
***
剣皇国の皇都ミレディは西門が破られるや多数の蜥蜴騎士の侵入を許した。
オーベンの不安は的中し、義勇兵は大蛇への対処で手一杯となり、それすらも御し得ず一部の部隊を除いて散り散りとなっている。
トリスタンら騎士団主力がイチイバル戦から帰還した頃には、市街戦やむ無しといった絶望的な戦況が現れていた。
ミレディ街路には蜥蜴騎士のみならず大蛇までもが入り込んでいて、建物や植樹を片端から薙ぎ倒していく。
非戦闘員たる市民にも多くの被害が出ており、道端には老若男女を問わず無惨な死体が積み重ねられていた。
都市全体から煙が立ち上っており、王宮の一角からも火の手が上がって見える。
「おのれ、<邪蛇>!これなる非道、到底赦せん!」
カイゼルは猛り、旗下の部隊を率いて市街の魔物の掃討にかかった。
ブラックソードを力任せに叩き付け、蜥蜴騎士の頭部を一撃で破壊する。
家屋を倒壊させている大蛇を目に留めると、カイゼルは馬から降りてそちらを目指した。
「待って。君が<暗黒騎士>だね?」
頭上より声が掛かり、カイゼルは家屋の屋根に居座るその人物を認める。
深緑色の長衣を着込んだ溌剌とした女性で、紫の総髪と大きな紫紺の瞳が人目を惹いた。
「私はエレクトラ。エレクトラ=アウロボロスだよ。ちょっと遊んでいかない?」
(…<邪蛇の三姉妹>か!)
少女のような透明感ある声色であったが、カイゼルの見たところエレクトラは可憐ではあれど二十代も半ばを過ぎている。
長衣の袖はぶかぶかで勾玉のイヤリングも無駄に大きく、立ち居振舞いからして妙齢の女性らしからぬ未熟さが表れていた。
「…わざわざ私の前に姿を現すとはな。自信があるのか、それとも単なる阿呆か」
言って、カイゼルは背後から襲ってきた幽鬼を振り返りざまの一太刀で蒸発させる。
「おお!背中にも目があるのかな?実体の少ない幽鬼を一撃死させる…それが噂のブラックソードか。古代は暗黒都市の黒太子が愛用して、結局は己の首を落とすことにもなった曰く付きの名剣だね。付与されている強力な魔術の力が見えるよ」
「物知りだな。だが歴史の講義がしたければ、せいぜいあの世で励むがいい!」
カイゼルは屋根までひとっ飛びし、ブラックソードの切っ先をエレクトラへと向ける。
エレクトラは澄ました顔で「怖いね」と口にしたかと思うと、両手の指を絡めて不思議な印を結んだ。
中空に赤光の魔方陣が浮かび上がり、そこから白い翼を生やした大人の背丈ほどの蛇が生まれ出でる。
(召喚?馬鹿な…速すぎる!)
カイゼルは出現したての蛇に斬りかかるが、全身をくるんだ翼に弾かれてしまう。
怯まず二撃目を命中させるも、やはり翼に当たるや剣の威力は止められてしまった。
(硬い…!)
「あ、そいつは鎧蛇って言ってね。翼の外殼がとんでも合金で出来てる優れものなんだ。ちなみに普段はこいつとペアで扱ったりする」
今度は足下の屋根に踵を軽く打ちつけると、先程と同じように赤い光を放ちながら魔方陣が展開し、黒い翼を羽ばたかせる蛇が登場した。
黒翼の蛇は真っ直ぐにカイゼルを狙って飛翔する。
近付いた蛇の頭部をブラックソードで斬りつけると、いつの間に代わったのか鎧蛇の白翼がそれを防ぎ、カイゼルの足下から黒翼の蛇が勢いよく飛び上がった。
カイゼルは体を捩って蛇の牙をかわしたが、かすっただけで肩甲と頬を削られた。
頬から血が滴り落ちる。
「あは!鎧蛇と剣蛇は任意で位置を交換出来る仕様なんだ。そして剣蛇の牙はこの通り鋭くて強力だよ。どう?<暗黒騎士>のお気に召したかな?」
エレクトラは瞳に歓喜の色を浮かべ、試すような口ぶりでカイゼルを挑発する。
鎧蛇と剣蛇は異なる色の翼を操って空を滑り、主たるエレクトラの下に戻るやその左右に控えた。
「さて、もう一ゲームいってみる?」
エレクトラがカイゼルを指差すと翼を生やした蛇たちはゆっくりと旋回を始め、酷薄な目を妖しく光らせた。