Cover note.6
午後7時。
その日、家へと帰りついた私はご飯も食べずに
昔のダンボール箱を漁っていた。
結局約束は思い出せなかったが、
ひとつだけ思い出したことがある。
それは遼くんだけではなく私も本を所有しているということ。
きっと私はそれを持っている。
見つけられれば何か思い出せるかもしれない。
ダンボール箱の中には古く痛んだ子供服や中学のときの制服、
さらには体操服やらがでてくる。
ここは衣服とか入れてるのか、と思って次のダンボール箱を開けようとしたそのとき、
「あ・・・った・・」
ひとつの箱を見つけた。
何の箱かは知らないが、表に
『たからばこ』
といもむしが這ったような字で書かれている。
幼いころに書いたのだろう、今見ると少し恥ずかしい。
そしてその埃かぶった箱を開けようとしたが、
なぜか少し不安になった。
この中にきっと・・・
おそるおそる箱をそっと開けてみる。
するとそこには一冊の本があった。
『Cover note』
と書かれている。
しかし私が譲り受けたものとは逆で
右からめくる仕様になっている。
「Cover note・・・"ふたつでひとつのほん"」
私は言葉を復唱しながら両方の本を掛け合わせる。
そして中をぱらぱらと。
昨日、遼くんがしてみせてくれたように。
そっか。
そういうことだったんだね。
遼くん。
また、遊びたいな。
ふたつでひとつのほん。
Cover note。
それは片方は真っ白に、片方は真っ黒に塗られた
ページを掛け合わせることによって
メッセージを書くことのできる本である。
黒く塗られた方のページを切り抜いて
白いページに合わせれば、字が浮かび上がるということだ。
そして幼い私たちはこう書いた。
『こ ん ど あ っ て も と も だ ち』
本にそっと涙がこぼれた。
慌てて拭いた。
しかし涙は頬を伝うことをやめない。
本を閉じて私は天井を仰ぎながら泣いた。
遼くんはもういない。
あのときの約束は、果たせない。
だけど、だけど。
涙はとまらない。
時もとまってはくれない。
まして戻ることなどあってはならない。
だけど、一度だけ願うことが許されるなら、
私はもう一度あなたに会いたい。
それくらい許してくれてもいいじゃないですか、神様。
涙はいつしか雨に変わっていた。
あの日のような強い豪雨と成り果てた。