Cover note.5
「ん・・・」
あれ。
私、いつの間に寝てたんだろ。
ベンチに横たわって、変な夢見て・・・
いや、夢なんかじゃない、あれは私の、過去。
記憶。
戻った、ううん、思い出したんだ。
「っ?」
辺りを見回したがそこには彼の姿はなかった。
昨日と同じく忽然と姿を消していたのだ。
まだ、聞きたいことはたくさんあったのに・・・
「Cover note・・・」
あの約束とは一体なんだったんだろう。
本当にまた遊ぼう、ってそんな単純な約束だっただろうか。
私は持っていたノートの紐を再び解いた。
白紙のページをめくって、めくって、
しかし何もない。
ひらり
と一枚の紙が落ちた。
こんなもの入っていなかったような。
拾い上げてみるとそれは新聞紙だった。
とある記事の切れ端で、見出しは
『乗用車二台が雨天スリップ
親子計五人が死亡、一人女の子が意識不明の重体』
と書かれていた。
もう古ぼけていてすこぶる読みにくかったが
その記事の詳細にはこう書いていた。
『―――坂城 大介(34歳)さん、坂城 麻奈(32歳)さん、坂城 遼(8歳)くん、柊 静雄(29歳)さん、柊 美香子(28歳)さんが死亡、柊 実水(8歳)ちゃんが意識不明の重体に陥っており、回復の―――』
思考が停止。
視界が眩む。
思わずベンチから体が浮く。
手から新聞紙の切れ端がするりと落ちる。
地面に落ちた音が耳に聞こえるほど辺りは静かだった。
風さえない。
大木も揺れず、じっと私を見つめている。
『ぼくはさかきりょう!よろしくね!』
"夢"で聞いた台詞がリフレインする。
坂城 遼。
交通事故。
さかきりょう。
こうつうじこ。
あのときの対向車線からぶつかってきた車。
おそらく雨でスリップしたであろう車。
あれは。
遼くんの車だったのか。
脳がしびれている。
何も考えれない。
このまま卒倒してしまっても誰も文句は言えないだろう。
しかし、私はベンチに座りなおして思考した。
思い出せ。
あのときの約束を。
きっとそこに答えがあるはず・・・
辺りはもうすでに夕闇に包まれていた。