Cover note.3
翌日。
そういえば時間帯を決めていなかったことに気づき
私は昼過ぎに電車に揺られていた。
時刻は15時。
いくらなんでも遅過ぎるだろ、
と自分にツッコミを入れてあげたい。
そんな衝動に駆られていると電車は私の体を
昨日の駅へと運んでくれた。
そしてそこには彼が立っていた。
「あ、こんにちわ。いや、昨日はごめんね。時間教えずに帰っちゃって」
「どうも、こんにちわ・・・」
え、まさか朝からずっと待ってたのだろうか。
いや、さすがにそれはないか・・・・
「ん、じゃあまた昨日のところに行こうか」
そう言って彼は歩き出した。
昨日と変わらない素振りで。
私もまた彼に付いて行く。
昨日と変わらない素振りで。
思っていたよりも随分早くこの広場に着いてしまった。
一度ここへ来たからだろうか。
もうすでに懐かしい感じがする。
「えっと、今日はね、これを君にあげようと思って」
そう言って彼は一冊の本を取り出した。
昨日とまったく同じ本、
表紙にはCover noteと書かれてあった。
「これって、昨日と同じものですか?」
「そうそう、一緒。というか、昨日のやつだよ」
「え、これって探すくらい大事なものなんじゃ・・・」
「いいのいいの。それはもう、僕には必要ないから」
必要ない?
どういう意味だろう。
「どう?今日は中身、見える?」
そう言われて私は紐を解き明かす。
そして表紙を開き、中身をぱらぱらとめくる。
今日も真っ白だ。
一体何が見えるというのだ。
私は首を横に振った。
「そっか。うん、そうだよね。でもたぶんこれから見えるようになるよ、きっと」
「これから・・・ですか」
「うん、これから」
彼は大木に触れながら笑った。
なんとも無邪気な笑顔だった。
私もあんな風に笑える日が来るのだろうか。
いつか、迎えられてたらいいな。
うん、夢だけど。
「そうだね、ひとつ、物語を語ろうか」
彼は天を仰ぎながら誰かに向けて言った。
私だったかもしれない。
それは彼にもわからないだろう。
「昔、一人の男の子がいたんだ」
その子はひどく病弱で、外で遊ぶことが許されない体だった。
だから友達も少なくて、一人孤独だった。
そんな姿を見兼ねた母親は父親の転勤を機に引越しを決意したんだ。
我が子に友達ができますように、ってね。
でも引っ越した先でも友達はできなかった。
それどころか環境が変わったせいでますます体は悪くなっていったんだ。
そんなとき、母親の手に連れられて家路を辿っていたんだ。
『ママ、今日の晩御飯、なーに?』
『んーとね、今日はからあげよ』
『わーい!からあげ大好き!』
そんな会話をしていると前から女の子が来たんだ。
その子も両親に手を引かれて、帰っている様子だった。
そこが初めて男の子がその子に会った日。
たぶん女の子は覚えていないだろうけどね。
数週間経ったある日、
男の子は体調が優れていたから大好きな本を母親と一緒に買いに行ったんだ。
するとそこにはあのときの女の子がいてさ、
親はなにやら本屋の前で世間話に花を咲かせてるんだ。
だから、男の子は女の子と一緒に本を見て回ってた。
そこで見つけたんだよ、その本を。
二人は少ない小遣いを持ち合わせて本を一冊購入した。
その思い出は男の子にとってとても大切なものなんだろうね。
それから何回か遊んだんだ。
ここにも来たことだってある。
そしてそこでの約束もまた、男の子にとって大事な大事な思い出に・・・
ズキッ、と頭が痛みを帯びた。
なんだろう、この痛み。
そして彼の話・・・
どうも他人事には思えない。
「あの、その男の子は一体どうなったんですか?」
「ああ、今はもう元気だよ。ちゃんとした生活も送れてる」
そうなんだ。
と心でつぶやいてみたが、なんだか腑に落ちない。
なぜ彼は私にこんな話を・・・?
「えっと、じゃあこの本がその子たちの買った」
?
あれ、待って。
この本、見たことが、ある。
どこかで、見覚えが・・・
「・・・思い出した?ミナトちゃん」
「!!」
頭の記憶を司っている部分が衝撃を受けた。
ズキッ、というよりも、パリン、と何かが割れる感じ。
しかし、そこから湧き水のように昔の記憶が流れ込んでくる。
また、脳内に物語を語りかけられているような。
そんな錯覚。