人は、思ってるより分かりやすい
# 努力しないと叶わない恋
## 第一話 人は、思ってるより分かりやすい。
「三十秒後、山本先生キレる。」
朝のホームルーム前。
俺がそう言うと、隣のレオンが吹き出した。
「なんで?」
「今日、チョーク三本折ってる。」
「は?」
「あとネクタイ曲がってる。」
「だから?」
「家で何かあった。」
「……意味分からん。」
「今から分かる。」
教室はいつも通り騒がしい。
サッカーボールを蹴る音。
女子の笑い声。
机を動かす音。
その全部をかき消すように、ガラッと扉が開いた。
山本先生が入ってくる。
無言。
出席簿を机へ置く。
ドン。
いつもより少し強い。
「お前ら。」
低い声。
「チャイム鳴ってるぞ。」
教室が一瞬で静まる。
レオンが俺を見る。
「……怖。」
俺は肩をすくめた。
「だから言ったやん。」
「お前、気持ち悪。」
「ありがとう。」
「褒めてない。」
昔からこうだった。
人の表情。
目線。
歩き方。
癖。
全部勝手に頭へ入ってくる。
別に特別なことじゃない。
見たら分かる。
みんなそうだと思っていた。
「なぁ。」
レオンが机に肘をつく。
「今度は俺当ててみ。」
「今日二回告白される。」
「お、正解。」
「一人は断る。」
「え?」
「もう一人と付き合う。」
レオンが笑う。
「適当やろ。」
「違う。」
「なんで?」
「昨日からスマホばっか見てる。」
「……。」
「気になる人できた。」
レオンは何も言わない。
珍しく黙った。
「図星?」
「……やっぱ気持ち悪いわ。」
チャイムが鳴る。
授業が始まる。
俺は黒板を見る。
レオンはまだ俺を見ていた。
「なぁ。」
「ん?」
「お前さ。」
「恋愛したことないやろ。」
「ない。」
「なんで?」
「努力する意味が分からん。」
「は?」
「好きになるかどうかなんて運やん。」
レオンは笑った。
「違うで。」
「恋は努力や。」
「努力?」
「そう。」
「努力できる奴だけ、好きな人の隣に立てる。」
俺は鼻で笑う。
「面倒くさ。」
「その考え、いつか変わるわ。」
「変わらん。」
その時だった。
教室の後ろで、鈍い音がした。
ガタン。
みんなが振り返る。
一人の女子生徒が教科書を床へ落としていた。
「あっ、ごめん!」
笑っている。
周りも笑う。
でも。
俺だけは違うものを見ていた。
右手。
ほんの一瞬だけ袖がずれた。
薄く残る痣。
すぐに隠した。
誰にも気づかれない速さで。
いや。
気づかれないように隠した。
「……。」
その瞬間。
彼女と目が合う。
笑っている。
でもその目だけは、
**「お願いだから見ないで。」**
そう言っていた。
その日初めて。
俺は誰かの表情を読めなかった。
いや。
読めたくなかった。
レオンが小さく笑う。
「見つけたな。」
「何を。」
「お前が努力したくなる相手。」
俺は即座に否定した。
「ありえん。」
でも。
その言葉だけは、人生で初めて自信がなかった。




