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見た瞬間に恋をして

作者: びわ

 とある大陸には4つの国があった。

 頭脳と魔法のダイヤ国、美貌のハート国

 強運のクローバー国、戦術のスペード国の4つである。

 4国内の平和を誓い、その証として国々の国境に一つの塔に年に1度集まるのが通例である。


 そんな大陸のクローバー・エモニのお話。


「エモニ?何処だい?私の可愛いエモニ?」

 クローバー国王は6歳になった娘を探し、塔中を歩き回り、廊下の途中で止まる。

「なあにお父様!」

 パッと柱の影からエモニは現れる。美しい金髪が少し出ていたのは内緒である。

 クローバー国王はエモニを抱き上げ頭を優しくなでる。

「あぁ、私の可愛いエモニ、何処にいたんだい?」

「カロシが今日はいなかったの。だから塔の中を探索してたわ!」

 そう楽しそうに父親に報告する。しかしエモニ父親の腕から抜け出した。

「?どうかしたのかい?」

「……」

 エモニは無言で窓から人を指差した。

「……お父様、あの人、だぁれ?」

 父親はエモニの見ている方向に顔を向ける。そこには長く美しい黒髪をなびかせる青年が1人。黒髪でここに来れる男性は1人しかいない。

「あぁ、あの人はダイヤ・ノヴォロス殿だよ。ダイヤ王国の第1王子だね。今年で16歳だったか?」

「へぇ~じゃっじゃああの人は?」

「ん?あの人は……」

 いつもお転婆なエモニはその時は不思議と大人しくずっと窓の奥にいる人の事を聞く。


「……卿、ごきげんよう。」

 エモニの16歳誕生祭。王族主催なだけあってきらびやかな舞踏会。エモニはかく貴族、他国の王族への挨拶回りをする。

「さすがですわね、完璧姫は。」

「誕生祭も気合いが入っておられますわ」

 エモニは数年前から作法、魔法、勉学、自分磨きを励むようになった。

 ハート王国の王族には負けるもののそれに次ぐ美しい姿、誰より気品を感じさる作法、それにダイヤの王族がいても「才女」と言われるほどの頭脳。

 それによりエモニは『完璧姫』と言う二つ名が付くほどだ。

「あら、ドロマ様。来ていただいて嬉しいです。」

「婚約者の誕生祭だ。来ないほうがおかしいだろう。」

 完璧姫の婚約者は2歳上のハート・ドロマ。ハート国の王太子である。美貌のハート国の王族と、完璧姫は絵になる。

 2人は政略ではあるものの仲の良い為皆に羨まれている。

「エモニ誕生日おめでとう。」

「カロシ!」

 ドロマの妹、ハート・カロシはエモニの親友である。ピンクの髪と青い目に周りの貴族は息を呑む。エモニじゃなければ霞んでしまう程の美貌である。

「二人ともちょっといいかい?」

 ドロマはそう言ってベランダに出る。そこには数人いたけれどすぐ居なくなった。

 (主人公が抜け出していいのかしら?)

 エモニはこの3人だったら何を話すかなんとなく分かってはいた。

「……お兄様?何のようですか?」

 少し機嫌悪くカロシは聞く。カロシも何を話すか分かっているんだろう。

「その……ませんでした。」

「は?なに?」

 カロシの声はいつもの可愛い声とは裏腹にドスが効いてらしくない。ここにはかの貴族が来たらどうするんだ。

「…メノズ嬢に、言えませんでした。」

「はぁ〜、どうする?この人。」

 メノズ嬢はハート国の侯爵令嬢でドロマの想い人。他の人に想いがあったまま婚約できないと今いる2人にだけに告白してきたのである。

「まあまあ。分かっていたでしょ?こうなることなんて。」

「まあね。でもこの人エモニの婚約者だよ?エモニを捨てるならそれなりの事はしてもらわないと!お兄様!」

「はい……」

 ドロマは妹に弱い。ドロマはカロシに責められるたびに縮こまっていく。

 (まあ婚約者に恋愛相談している時点ででどうかしてるけど。)

「まあいいわ。お兄様は元々ヘタレだしね。分かっていたもの。でもね!早くしなきゃエモニに新しい縁談が来なくなるかもなの、忘れないでくださいね!さっ戻ろ?エモニ。」

「ええ。」

 カロシに腕を引っ張られその場を離れる。ドロマをその場に置いて。と言うか再起不能になっている。

 (ハート国の王太子があれで大丈夫かしら?)

 そう思いつつ挨拶回りに戻る。ダンスまでには戻ってもらわないと……

 

「エモニお疲れ様。」

 そう言って私に飲み物を渡す。周りを見回したが特に何もないようで安心した。

「ありがとう、頂くわ。」

 グラスを少し傾け飲む。チェリーとブドウのジュースだ。

 (お酒じゃないのね。良かった。)

 今日でこの大陸では成人だからお酒が飲める年。でもカロシがお酒を渡さない配慮はありがたい。

「……こう見ると勢揃いね。貴族も王族も。」

 カロシの見る方向には高位貴族に王族が集まっている。

 (△△侯爵に○○公爵。あとスペード陛下にお父様に……)

「まあ王族の誕生祭だもの。カロシの誕生祭もすごかったでしょ?」

 「まあね。」

 ハート国の王女なのに婚約の話を全く聞かないカロシは求婚の嵐だった。思い出したのか嫌だと顔に書いてある。

「ん?あの人って誰でしたっけ?」

 カロシはスペード陛下の後ろにいる人を指さす。

「人を指さすものではありませんよ?あの人は……」

 カロシから視線を動かすとカロシの言っていた人と目が合った。彼はすぐに目を逸らす。

「エモニ……?」

「あっごめん、目が合った気がして……あの人はダイヤ・ノヴォロス殿下よ。」

「ああ、ダイヤ国の王太子様!一ヶ月後に26歳になるのに未婚って言う?」

「ええ。でも大口で話すことじゃないわよ?」

 あの長い黒髪、それに目が合った時の赤い目はダイヤ国の王族特徴だ。

 王族が24歳未婚は珍しい。認識自体は間違っていないものの人前で言うのには適していない。

「魔力の問題、だっけ?」

 先程よりは幾分声を抑えて話す。

「ええ。魔力が高いのも考えものね。」

 ダイヤ国は元々魔力が高く、彼は特に高い。魔力が高い分、魔力暴走が起きたら手が付けられない。

 それを抑えるには『キス』が必要なのだけれど……ファーストキスの相手以外は通用しない。

 だからキスは結婚するまでしないのが普通だ。

 だけれど魔力が高い人と結婚するということは、その相手が魔力暴走を起こした時に命がけでキスしないといけない、ということである。

「はっ!お兄様とメノズ嬢をキスさせれ……」

「やめないさい!」

 本当に聞かれちゃ駄目な事を言っている。私はカロシの口を手で塞ぐ。

「ごめんごめん。そろそろお兄様迎えに行かなきゃね。」

 ベランダから戻ってくる気配のないドロマを連れてくるとベランダへ向かった。


「……」

 ノヴォロスはベランダへ向かったエモニをじっと眺めた。


 エモニの誕生祭は過ぎ、一ヶ月。今はダイヤ国の誕生祭の為、馬車の中。現国王の唯一の子であり王太子の誕生祭なのだから前回エモニの誕生祭よりも豪華に違いない。

「エモニ?大丈夫かい?上の空じゃないか。」

「……いえ、ちょっと考えものを。」

「そうかい?」

 揺れる馬車から見える景色はもうダイヤ国の王都に入っている。

 ダイヤ国どの国よりも魔法が流通していからか人々は当たり前のように魔法を使っている。

 この活気はクローバー国にも取り入れたいものだ。

「もう着く頃だろう。ほら、王宮が見えてきたぞ。」

「あらそうですね。」

 空はもう暗くなっている。舞踏会まであと2時間。それ用のドレスに着替えるにはギリギリだ。

 4国はそれぞれの王族が来た時の為に部屋が用意されてある。

 王族ともなれば馬車の中のドレスのままでいられないのが面倒でならない。

「じゃあまた後で。お父様。」


 今回のドレスは紫。金色と言われる自分の目の色とも相性がいいし問題ないだろう。

 カロシは水色のドレスと聞いているし被ることはないだろう。

 しかしドロマの服装は聞いていないのが気がかりである。

 (合う色だったらいいけど……)

 王宮の廊下を1人歩く。カロシの用意されている部屋で会う約束だ。

「……」

 

 コンコン

 カロシの部屋の扉をノックする。するとすぐに扉が開く。

 (王女が誰かもわからずにすぐに開けるのはどうなの?)

「エモニ!待ってたわ。あッ…そのドレス……」

「どうしたの……っあ」

 カロシは気まずそうな顔になる。どうしたのかと部屋の中をのぞききるとドロマがソファーに座っていたのだけれど……

「黄緑色の服……」

 色には色々ちがはあるでしょうけどこの色合いは私のドレスと相性が悪すぎる。

「「「……どうする?」」」

 思わず3人被る。ここまで相性の悪い服を着たことがない。かといって他に舞踏会に出ても問題ないドレスもない。

 (このまま行くしかないかしら?)

「……一旦しょうがない。時間も押してるし会場に入らないと……」

「そうね……。」

 妥協したとしても今から着替えるには時間がない。入場時間まであと10分足らず。もうしょうがない。

「はぁ~これなら前もって言うべきだったかもね。」

 カロシは大きなため息をつく。そう言えば1いつ聞いていなかったある。

「そう言えば、カロシは誰とはいるの?」

 軽く首を傾げるとカロシはまたもやため息をついて「お父様」と答えた。

 カロシには婚約者もいないし兄も私と出し確かにそれしかない。早く婚約したらいいのに。

「婚約したらいいのに。」

「はぁ~前々から言ってるでしょ?お兄様みたいなのに捕まりたくないし、それに……」

 カロシはもじもじと頬を赤らめる。その姿はさすがとしか言いようがない美貌だ。

「……好きな人がいるって。」

 カロシは「キャー」と顔を隠す。それを知らなかったドロマはガーンと頭を叩かれたように固まっている。

「ははは、まあいいわ。早く入りましょ。カロシのお父様もいるわ。」

「あッほんとだ。」

 カロシは父を見つけた途端、父へ駆け寄り会場へ入る。私たちもそろそろはいる時間だ。しかしその前に混乱した横の男をどうにかしなくては……

「ドロマ様!ドロマ様!」

 ドロマの背中をバシバシと叩くとゾンビの様に復活した。

 (早く入らないと……)

「入りますよ!」

 その場は何とかなったが服装の方は全く解決していない。


「ごきげんよう。エモニ殿下」

「ごきげんよう。☆☆嬢」

 王女は他国であろうとも大忙しだ。ドロマは紳士の微笑みを貼り付けているものの疲れが隠せていない。

 (もうすぐノヴォロス殿下がいらっしゃるけど…大丈夫かしら?)

 ノヴォロスは社交界に滅多に顔を出さな言うのは本当らしい。舞踏会が始まって数十分。まだ来てすらいない。

 舞踏会なのにダンスが始まっていないのも主役がいないからだ。

「遅いわね。ノヴォロス殿下。」

 気づいていない間にカロシが横にいた。少しびっくりしつつ同調する。

「ええ。社交界が苦手とは聞いたことがありますが……」

 そろそろ来ないと予定も押しているだろうし面倒だ。ダイヤ国は他の国と違って"魔法披露"というものがある。

 その名の通り、主役の王族が魔法を披露するというものなのだけど……最後の大取が短かったら問題でしかない。私たちの服装くらい。

 そんな話をしているところで妙に騒がしくなる。やっと主役が来たようだ。

「ダイヤ・ノヴォロス王太子殿下、入場です!」

「……」

 入って来たノヴォロスは無表情で階段を降りる。

 束ねた長い黒髪をなびかせ、赤いルビーの様な目が合う。

「!」

(確実に目が合いましたわね!勘違いでもなく!)

「……エモニ、色……」

「え?……!」

 カロシが最初に反応したのはノヴォロスの服装の色味。

 私の服と同じ紫。しかもここまで同じような色合いはなかなかないだろう。

 (なっなんで……)

 合わせていなかったドロマなどよりずっとペアのようだ。

「これは良くないわよ……」

 カロシは呟く。正にその通りである。丁度頭が回転しだした時、ダンスの曲が流れ出す。

「……行きましょう。」

 私とドロマに次ぐき、皆はダンスを始めたがノヴォロスは参加しなかった。

 ずっと踊るわけじゃいけずに、数回踊ると飲み物を取りにその場を離れる。

 端っこで壁の花になりたいものだが王女の地位がそうさせない。

 しかしノヴォロスは全く持って人が来ない。彼の誕生祭のはずなのに……

 そこまで皆が集まらないのはなぜだろう。

 ジッと今回の主役を見ていると彼とまた目が合う。彼は視線をずらさずエモニの方へやって来た。

「エモニ王女。この度は来ていただき感謝する」

 ノヴォロスに話かけられ焦りつついつも通り頬笑む。

「いえいえ、ノヴォロス王太子殿下、26歳の誕生日、おめでとうございます。宜しければこちらを。」

 先ほど持っていたカクテルを渡すと「ありがとう。頂く」と、ひと息で飲む。

「良ければ一曲どうか?」

「!」

 これはダンスのお誘い。数秒間固まっていると周りから視線を感じる。

「……ではぜひお願いしますわ。」

 そっと差し出された手を取る。踊り出すと驚く程踊りやすい。こんな完璧なダンスはやったことがない。

「お上手ですね。」

「いえ、エモニ王女がお上手だからですよ。」

 その後は無言なまま踊った。彼のエスコートは完璧でとても楽しくて……

 同じような色を身につけダンスをする王女と王子。周りからはどう見えるだろうか?

 しかも王女は婚約者がいる。良い噂の的だ。貴婦人は今もヒソヒソと噂話をしている。

 曲が終わり、私はカロシの元へ向かう。固まっているカロシの元へ。

「カっカロシ?大丈夫?」

 カロシはハッとして私の肩を掴みグラグラと揺らす。

「えっえ?エモニ?何してるの?そんな格好して、ありもしない噂流れるよ?」

「ごめっちょっと、待って、待って」

「あっごめん」

 カロシは私の肩か手を離す。私は1度呼吸を整える。

「フゥーごめんなさい。ノヴォロス殿下にダンスに誘われて、断れなくて……」

「なんで?いつもはいい感じに断っているじゃないの。」

「今回の主役に誘われて断れるわけには行けないでしょ。」

 カロシの中で私はどうなっているんだ。カロシは数秒考えて「そっか」とい返す。

「まあノヴォロス王太子とは10歳は年は離れているから大丈夫だと思うとけど。」

「……そうね。」


 時間は過ぎ遂に大取、魔法披露だ。王族の魔法を実際に見る機会は滅多に現れないからいつもだと皆帰る時間なのに誰も帰っていない。

「もうすぐ始まりますね」

「ノヴォロス王太子殿下の魔法は初めて見ます。」

 ダイヤ国の成人した王族は代々誕生祭の時にするはずだがノヴォロスのは見たことがない。そもそもノヴォロス誕生祭が行われていなかった。

「…大丈夫かな……」

「どうしました?」

 横にいたドロマがつぶやく。その顔は少し不安気だ。その点エモニの表情は浮き足立っている様子だった。

「ノヴォロス兄さんの魔力が今日見たときに不安定だった気がして……」

 私には他人の魔力なんてわからない。これは魔力が高いとかの話じゃない。だから「確かに」とは言えない。でも今気になったのは……

「兄さん?」

「?ノヴォロス兄さんだけ年は離れていたが面倒見は良かったからな。」

 私は見かけた事はあったけど実際に話したのは今日が初めてだ。

「……そうですか。まあ魔法の件は問題ないですよ。」

「まあそうだな。」

 そう話していてすぐに、ノヴォロスは私達の前に顔を出た。

「この度、ノヴォロスの為に集まって頂き誠にありがとうございます。どうぞ最後まで楽しんでくれ。」

 ダイヤ国の王の挨拶を皮切りに音楽が流れ、踊り子が舞をする。その真ん中にいるノヴォロスはうつむいている。

「……そろそろ始まるかし……!」

 ノヴォロスは浮き天に手をあげる。

「……」

 集まっている人々を結界?の中に入れる。そしていきなり眩しくなったと思うと光の粒と一緒に馬の様な何かが現れた。

「……精霊の具現化だ!」

 精霊は魔法の源。人が魔力を精霊に渡すことと引き換えに魔法が起きる。

 でもその精霊は姿が見えないはずなのに!並大抵の芸当じゃない。

「あれ?」

「大丈夫か?」

 先ほどまで精霊が具現化していたのに段々薄れたり揺れたりする。すると後ろから少しずつ不安の声が増える。

「ハァ……ハァ……フゥッフー」

 ノヴォロスの息が絶え絶えになる声がこちらに聞こえるほど大きくなっていく。

「これは……」

「まずいぞ……これは」

 結界の中にいるからそこから出られないはずなのに、皆が結界から出て逃げていく。

「……魔力暴走。」

 (ヤバい…ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!)

 結界が完全に消え、いつもは見えない魔力が見えるほど魔力が荒れ出している。

 気づいたら私と本人(ノヴォロス)だけ取り残されていた。

 最前列にいた私が逃げれなかった。今ノヴォロスは宙から落ち、息を整えだした。

「ハァハァ、」

「……ノヴォロス……殿下?」

 大丈夫かと少し近寄る。先程見えていた魔力が見えなくなって、少し落ち着いたように見えた。

 だから近づいた。彼の顔を覗き込むと赤い目と目が合った。

 ルビーのような、引き込まれる赤い目に一瞬見惚れた。

「ノヴォ…ムンッ…!?」

 その瞬間、私の腕をノヴォロスに引っ張られ、彼の顔の上に覆いかぶる。

「……!?」

 それと共に彼の魔力が整いだし、魔力暴走が収まる。そして、


 唇がほのかに温かい。



 その後私は気を失った。きっとノヴォロスの魔力に当てられたのだろう。

 気がついたのは5日後で、寝ていたから何があったかは分からないけれど、

 婚約者がドロマからノヴォロスに変わっていたから、大体のことは想像がつく。


 あの時、私とノヴォロスが『キス』してしまったからだから婚約がすり替わった。


「エモニ!?大丈夫?」

 私の見舞いにと何人もの人が部屋を出入りした。

 その中でもよく来てくれたのは、カロシとドロマ、そしてノヴォロスだった。

「大丈夫よ。お見舞いに来てくれてありがとう。」

 カロシとドロマは私の侍女にお見舞いの花を渡す。

「本当?無理はしないでよ。」

「ええ。分かっているわ。それで、話って?」

「それは……」

 チラリと侍女を見ると侍女は礼をして部屋から出ていった。

(察しが良くって)

「……エモニは寝ていたからよく知らないと思うけどね、エモニは……婚約者がノヴォロス殿下になったことに関してどう思う?」

 私の顔色を伺うような仕草はとてもカロシらしくない。

「どう思うって言っても決まった事だしね。私はそれに従うわ。ドロマ様との婚約は無くなるはずだったし、ちょっと早まっただけよ。」

 私は完璧に頬笑んだ。歪んだ顔を整えて。


 コンコン

 先程カロシ達は出ていった。ならば来る人は推測できた。

「どうぞ。ノヴォロス殿下。」

「ああ。」

 ノヴォロスは無愛想に入って来る。話す内容は先ほどと変わらないだろう。

「その……済まなかった。」

「いえいえ。大丈夫です。殿下のせいではありませんもの。」

 魔力暴走が()()()()起こってしまい、()()()()私が近くにいただけの事故。

「……君はいいのか?10歳も年上の俺とで……」

「いいのかと言われても……そうするしかないですし、別に嫌ではありません。」


♢♧♢


 今年で26歳になる俺が、見た瞬間に恋に落ちた。遅い初恋

 その相手はクローバー・エモニ王女。社交界に全く行かない俺ですら知っているような『完璧姫』

 彼女と会ったのは彼女の16歳の誕生祭。10歳も年上の俺は恋するなんて愚かだ。そんなの、分かっている。

 でも、彼女の誕生祭の時、彼女を見た瞬間に

 絶対に()()()()()

 そう思った。いい大人が何をとは思うが、初めて手に入れたいと思った。

 でも普通に考えてそんなには不可能だ。俺がおかしいだけで彼女には婚約者がいるから。

 相手はハート・ドロマ王太子。10歳年上の俺よりも年齢も釣り合っているしハート国の王族以上の見た目なんてない。

 完全に勝ち目なんてない。そもそも同じフィールドにすらいない。

 彼女と目が合った時、俺の時間には止まった。永遠とも思える一瞬に意思は固まった。


 彼女にまた会うまではそう時間は掛からなかった。

 俺の誕生祭が一ヶ月後にあったから。その時部屋から彼女の馬車があってどれだけ安心したことか……

 彼女が廊下に出た時、赤みの紫のドレスを着ていた。

 灰色の服を着ることが決まっていたがすぐさま赤みの紫に返させた。そのせいで時間が押してしまったが。


 彼女は予想どおり、よろしくお願いします最初にドロマと踊りだいぶ早めにその場を離れドリンクの所へ留まった。

「エモニ王女。この度は来ていただき感謝する」

 不意に近づき声をかける。不自然じゃないように。そうしたら彼女はカクテルをくれた。

 俺はそれをひと息で飲む。今はダンスに誘いたかったから。

「良ければ一曲どうか?」

 俺の願いに彼女は受けてくれた。嬉しかった。今の立場上断れないのはわかっている。

 それでも嬉しかった。


 ダイヤ国の伝統、魔法披露を行う数分前、グラッときた。魔力が荒れている。今魔法をするわけには行かない。

 でもこれはむしろラッキーだった。

 これが機会になると。王族だとしても既成事実レベルで婚姻を結ばないといけない事態に、落とし込めると。

 そうしてエモニは俺に捕まった。


「……ノヴォロス……殿下?」

 倒れた俺に駆け寄った彼女は美しく、愚かだった。

 あの時、唇を奪ったことは後悔していない

 

♧♢♧


 ノヴォロスに婚約がすり替わり早1年。いよいよ明日は結婚式だ。

 そんな日、私はノヴォロスに呼ばれ、彼の部屋にいた。

「俺なんかに捕まって、後悔していないか?ドロマとの婚約のことも……」

 もう今更でしかない。今「後悔している」と言ったとして決して戻れたりしない。キスした事実は変わらない。

 それをわかっていて今それを聞く彼は、少し後ろめたさを感じているような顔つきで私に聞く。

「いいのです。どうせドロマ様との婚約は無くなるはずでしたし。それに……」

「それに…どうした?」

 不意に首を傾げる仕草は何処か幼く感じる。ノヴォロスは私の顔を覗き込むと私は笑った。

「いえ、なんでもないですわ。」

 どこかスッキリとした、頬笑みで。不思議そうに、申し訳なさそうにするノヴォロスを見ながら。

 そして違う。捕まったのは、私じゃない

 貴方だ。


 私がまだ6歳だった頃、私が初めてあなたを見た瞬間から

『私は貴方に恋に落ちた。』

 10歳も年の離れていた貴方に。

 だからやった。誰よりも努力して、ない才能を補って、決して頭脳がダイヤ国のものに勝てなくても、決して美貌がハート国のものに勝てなくても、どれも2番目な私に『完璧姫』と皮肉を言われったて……

 貴方に見つけてもらうため、その為だけに……!

 

 あの日、たった6歳の小娘に、貴方は見つかった。その時からその時からこの感情は消えることがない。

 (絶対に手に入れる。)

 クローバー国の幸運なエモニの努力は実り、天はエモニに味方した。

 彼が魔力暴走が起きたのは、偶然じゃない。ただそう()()()状況になっただけ。

 貴方(ノヴォロス)が後悔してももう遅いわ。

 そして手に入れた。誰より誰よりも愛ししてやまない貴方を!

 貴方の腕の中、私はただその()()を噛み締める。

アイリスIF8大賞の企画の話です。

わがままでしかありませんが、良ければ評価してやってください。

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