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fu◯k you

どうも、HALです。

この物語は、一応「魔女の学級日記」の前日譚みたいな位置づけで書かれています。魔女の学級日記の世界が、どのように形作られたのか。そういうのを皆さんに知ってもらいたいと思い、この物語を書くことにしました。エピソード数は15、更新は一週間に一回、日曜日の朝に更新しようと思っています。短い付き合いにはなりますが、よろしくお願いします。

『世界は魔法に溢れている ―byディーン・ローチャー (黎明期より抜粋)』


                        ◆

1955年、アメリカ・サンフランシスコ


 暗いスラム街の夜。音はないが、どこか不気味さが漂っている。今にも崩れそうな粗末な建物たち。その間から感じるのは、不気味な視線だ。ここは世界の掃き溜め、社会から見捨てられた場所。法すら存在しない魔境は、夜の闇さえも飲み込もうとしてい――。


「ごらぁ、クソガキ!その林檎返しやがれ!」

「はぁ?誰が返すかよ、このハゲ頭!今日もいい具合にテカってるぞ!」


 ……先ほどの雰囲気を一瞬でぶっ壊しながら現れたのは、一人の労働者風の服を着たはげ頭の男と、10歳ほどの色褪せたシャツと半ズボンを履いた少年。男が少年を追いかける形で走ってくる。


「ほらほら、こんなガキ一人になにムキになってんのさ。寛大な心を持ちなよ」

「お前……舐めた口聞きやがって!!」


 煽るような少年の言葉に、男の怒りのボルテージはどんどん上がっていく。

 二人の追いかけっこは路地裏へと入った。狭く、ドラム缶などの障害物が転がる雑然とした道を、少年はひょいひょいと身軽に進んでいく。


「くそっ、ちょこまかと動きやがって!」

「ほらほら僕はここにいるよ?待ってあげるから、早くきなよ!」

「このクソガキ……!」


 ドラム缶の上に飛び乗り、挑発するように手招きする少年。男はもう怒りを抑えられないようだった。


「殺してやる……死ね!」


 男はそう叫ぶと、ポケットからナイフを取り出し、少年に向かって振りかぶった。ナイフの切っ先は、まっすぐと少年の喉元へと向かっていく。このままでは少年の喉が割かれる...はずだった。しかし、


「物騒なもの、もってるねぇ。じゃあ、僕も」


 少年は余裕の表情でそう言う。そして、彼は右手を男に向けた。その瞬間、手のひらに小さな光の玉が生まれる。


「fu◯k you!」


 少年がそう言った途端、光の玉が弾け――


ズドーンッ!


 爆音とともに男が吹き飛んだ。衝撃波だろうか。隠れていた猫やネズミ、カラスまでもが驚いて逃げていく。吹き飛ばされた男は壁に体を強く打ち付けられた。


「おま……まさかデビル(魔法持ち)……」


 頭を打ったのだろうか。男は薄れる意識の中で呻くように言った。


「デビルなんてひどいこと言うなぁ。エンジェルって呼んでくれよ」


 少年は倒れた男を見下ろしながら言う。しかし、その言葉は男の耳には届いていない。


「じゃあリンゴ、ありがとね!」


 そう言うと、少年は走って夜の闇へと消えていった。


                ◆


「今回もチョロかったなぁ。大人って頭悪いし」


 先ほどの少年だ。ここはスラム街の一角の壁に囲まれた小さな広場。彼は、そこに置かれたタイヤの上に腰を掛け、リンゴをかじっている。あたりは暗く、月灯りだけが唯一の明かりだ。


 少年は幸せそうにリンゴを頬張っている。すると――


「あ、ディーン。いいもの食ってるじゃん」


 突然、声がした。振り向くと、細い路地から二人の男の子が歩いてくる。


「あ、ディランにウィル。これ、俺のだからな。絶対に分けねえぞ」


 少年――ディーンはそう言ってリンゴを服の中に隠した。


「いらないよ。だって俺等、今日は肉を見つけたからな。そうだろ、ウィル?」

「うん。なんかひょろっとした間抜けそうな男がいたから、後ろから魔法を打って奪ってやった」


 そう言うと、ウィルは美味しそうなターキーレッグをポケットから取り出した。


「マジかよ!いいなぁ、俺もそっちに行きゃよかった」


 ディーンは金髪を掻きむしり、羨ましそうに言う。


「あげねえからな?ディーン」

「ふん、誰が欲しいものか、そんなもん」


 ディランもターキーレッグを取り出して見せびらかした。強がるディーンだったが、残念ながらそれ見る目は「欲しい」と全力で主張している。


「まあ、どうしてもって言うなら、一口ぐらいあげてもいいぜ」

「マジ!?お願いします!一口ください!」


 さっきの強がりはどこへやら。ディーンの目は肉を食べれる喜びで輝いている。


「言ってることが変わり過ぎだよ、ディーン……」


 ウィルはそう呆れて言うが、その言葉はディーンにはまったく届いていない。


「うんま!めっちゃうまい!」


 久しぶりの肉の味に歓喜の声を上げるディーン。


「うわ、お前食いすぎだろ!」

「いいじゃん、別に」


 ディランはディーンからターキーレッグを取り返そうとする。 


「そう言って、この間僕のプラム全部食べちゃったじゃん」

「ほら、ウィルもそう言ってるぞ!」


 わちゃわちゃと楽しげにはしゃぐ少年たち。服はボロボロ、場所はスラム街――けれど彼らは笑っている。


「ところで、ジャスティンとリアムとジョンはどこ行ったんだ?」


 ディーンは思い出したように言った。頬にはつねられた跡がしっかり残っている。


「ジャスティンたちならメインストリートの方に行ったよ。あっちのほうがいい狩り場だし」


 ウィルはターキーレッグに噛みつきながら答える。


「でもさ、あそこ危なくない?最近ウィッチハンターも増えてきてるし、あんまりあっち行きたくないんだよな」


 ウィッチハンター。それを語るには、数年遡る必要がある。


 今は1955年。しかし魔法は、第二次世界大戦直後の1945年に生まれたとされている。起源は不明だが、一つだけ確かなのは「世界中で一斉に起こった」こと。そして「発症したのは1945年以降に生まれた子どもだけ」だったことだ。


「あいつら、俺等を見かけると血眼で追ってくるし。俺達が何やったって言うんだよ。なあディーン、ウィル?」


 ウィッチハンターは、魔法を恐れた大人たちが作り出した魔法狩りの組織。魔法を発症して捨てられた子どもは数えきれない。迫害を象徴する存在であり、政府すら黙認する暗黒時代が続いていた。


「まあ、どうせ捕まらないからいいけどな。後で、ジャスティンたちに会いに行くついでに、ウィッチハンターたちを冷やかしに行こうぜ」

「いいな、それ!」

「楽しそうだし、僕も賛成」


 そう笑いあう少年たち。彼らの笑い声は、ターキーレッグの香りとともに夜の闇に溶けていくのだった。



                        ◆





「それにしても、あいつら帰って来るの遅くないか?」


 ディランは、少し気になったというように、ディーンとウィルにそう聞いた。ターキーレッグのくだりから約30分。いつもなら全員が広場に揃うはずなのに、今日はディランとウィル、そしてディーンしかいない。


「確かに、ジャスティンたち遅いな。またリアムがなにかやらかしたのか?」


 タイヤの上に寝っ転がりながら、そう答えるディーン。


「それを言うならジョンも、この間ヘマやってウィッチハンターに捕まりそうになったって言ってたよ」


 ウィルも思い出したように、そう言った。


「思ったよりも、ウィッチハンターたち増えてるのかもな。俺等も気をつけないとヤバいぜ」


 ディランは少し顔をしかめてそう言った。


「俺、あいつらが何してるか見に行ってくるわ。一緒に来るか?」


 そう言って、ディランはウィルとディーンを見た。


「僕は行こうかな。もしかしたら新しい食べ物もらえるかもだし」


 ウィルはそう言って手を挙げた。


「じゃあ、俺はもう少し待つよ。入れ違いになったら困るし」


 そう言いながら、ディーンは体を起こした。


「センキュ。じゃあ、行ってくる」

「留守番頼んだよ」


 そう言って、ディランとウィルは広場から出ていった。


「頼んだぜー」


 去っていく背中に、ディーンはそう言うと、またタイヤの上に寝っ転がった。



                       ◆



「......遅い、遅すぎる!」


 あれから約1時間後。一向に帰ってこないディラン、ウィルそしてジャスティン、リアム、ジョンのさん人組に、ディーンはイライラしながら地団駄を踏んでいた。


「いくらなんでも遅すぎるだろ!」


 今まで、彼らの帰りがこんなに遅くなったことはない。さっきまでこの状況を楽観視していたディーンも、流石に不安になってきた。そして、それを隠すかのように頭をかきむしる。

 ディーンはそうやってしばらくイライラしていたが、こうしていても仕方がないと思い、自分も彼らを探しに行くことにした。


「あいつら、街のメインストリートって言ってたな...となるとピザ屋のあたりか?あそこいい狩り場だし」


 そう言いながら立ち上がり、タイヤの上から飛び降りる。そして、広場を出ていこうと路地に入ったところで、ディーンはふといいことを思いついて立ち止まった。


「そうだ、せっかくだから新しく見つけた魔法を使っていくか」


 そう言うと、ディーンはクラウチングスタートのような構えをとった。そして、足に力を込めると、先程男に衝撃波を放ったときのように、両足が光り始める。


「位置について〜、よーいどん!」


ズドーンッ!

 

 ディーンがそう言った瞬間、凄まじい爆音が夜のスラム街を揺らした。ディーンの足から放たれた衝撃波は、一瞬にしてディーンを前に100メートルほども吹き飛ばした。


「うわっ、これやば!」


 地面に転がりながら軟着陸したディーンは、あまりの威力に思わず驚きの声を上げる。そして、もう一度走り出すと、ディーンはもう一度足から衝撃波を放った。


ドンッ


 少し威力を抑えたからか、今度はうまい具合に加速することができた。ディーンは夜の冷たい空気を、切り裂きながら、ものすごいスピードで駆けていく。


 一分も立たないうちに、ディーンは目的地のピザ屋の前につくことができた。気がつけば霧が出てきている。


「おーい、お前達どこにいるんだー?」

 

 そう呼びながら彼らを探す。しかし、あたりを見回してもディランたちはどこにもいない。


「あいつらどこに行ったんだ...?」


 冷たい夜の風が吹く。どこからかカラスの鳴き声が聞こえた。その時、


「何だ、あれ...?」


 視界の端に、ちらりと赤いものが見えたような気がした。目を凝らしてみてみると、それは赤い液体のようなもので、坂の上の方から流れてきている。

 ディーンは少し胸騒ぎがして、赤い液体の方に走っていった。その液体はなにかに引きづられたように伸びており、先のほうは霧で隠れて見えないものの、かなり長く続いているように見える。

 ディーンは赤い液体のもとにつくと、膝をついてその液体を触ってみた。


「冷たい...それにこの匂いは、血?」


 胸騒ぎが更に大きくなる。ディーンは霧で隠れた先の方を見た。目を凝らしてみると、何かの影が見える。

 ディーンの心臓は、ドクドクと激しく鼓動していた。立ち上がり、影の方へと走る。

 近づくにつれ、それははっきりと見えてきた。それと同時に、ディーンの否定したかった悪い予想は、だんだんと現実になっていく。

 ディーンは赤い液体の出ている「それら」を見下ろした。「それら」は動くことなく、ただ横たわっている。


「まじか」


 それしか出てこなかった。そこにあったのは2個の死体と思われるもの。顔もわからないくらいぐちゃぐちゃになっていたが、服装からこれが「ディランとウィル」だったものだということは理解できた。

 周囲はあれていて、激しい乱闘があったことがわかる。死体の数に対して、明らかに血の量が多いことから、おそらく彼らは必死で抵抗したのだろう。

 ディーンは膝をつき、それを見る。そして、おもむろに手を伸ばすと、2つの死体からそれぞれ一つずつ、ボタンをちぎってポケットに入れた。

 立ち上がって周りを見渡す。すると、道路の反対側にもう一つの死体の山を見つけた。

 ディーンはそれに近づき、またボタンを取る。ポケットに入れる。


「fu◯k you」


 急に黒い感情が湧いてくる。ディーンは右の拳を握りしめた。

 説明されなくとも、何が起きたかわかるほどの凄惨具合。大人数の大人が子どもたちを殴りつけたのだろう。リンチ、一方的な虐殺。しかも、それは理不尽な正義によって正当化された。


「fu◯k you...」


 ディーンの気持ちを代弁するかのように、いつの間にか雨が振り始めていた。血が雨で洗い流されていく。それを見て、ディーンは悟る。


「そうか。誰も俺らのこと、見てくれないのか」


 誰も、ディーンたちにも暮らしがあったことを考えない。理不尽な正義は、弱いものを理不尽に刈り取っていく。


「つよく、なんなきゃな」


 そう言うと、ディーンはゆっくりと歩き出した。



                       ◆



 これが、後に世界の覇者と呼ばれ、魔法の基礎を築き、国際魔法連盟を造った男の誰も知らない過去である。激動の時代に生きたディーン。世界で最も偉大な男と呼ばれた少年の人生を、見ていこう。



                        




第一話を書いていて一番悲しかったこと→せっかく六人もの設定を考えたのに、第一話でその5分の6がパーになったこと。

話の流れ的に殺すことにしたけど、わざわざ彼らの身の上まで考えてたのに......

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