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召喚獣が還るまで3 ビルのスーパー珍奇旅行

作者: ヘル

※今回はヤクザがいません。任侠もいませんからごめんなさい。ただし、テンションはいつも以上に高いです。

 -ギガデカスクジラの内部-

 賢者ビルは今日も元気に珍奇な生物の観察に勤しんでいた。

「なるほど、この魔物はこんな物を食べてるのか。メモしておこう」

 付箋のたくさん付いたビルのメモ帳の表紙には『ヴィスタ』と書かれていた。そろそろ『セブン』に変えないと満タンのようだ。わかる人だけわかっておけばいい話である。

 ビルの容姿は40歳くらいのメガネをかけた身なりのいい魔導士風のおっさんに見えるが、実際のところすでに500年は生きている。賢者の称号は伊達ではなく、習得した魔法の数は3桁に及ぶ。普通の魔法使いは1~せいぜい30個程度の魔法しか習得できないことを考えると、既に立派な化け物の仲間である。好きな食べ物はイモで嫌いな食べ物はアップルらしいが、ビルの回りにいる彼の部下達にとってそれはどうでもいいことだった。

「ちょっと賢者様!そんなとこで遊んでないでこれどうにかしてくださいよ!?」

 目の前にいる水色の液状の魔物を棍棒でぶっとばしながら、バンダナを巻き、上半身半裸の海賊のような水兵が叫ぶ。よく見れば周りでは似たような戦いがそこかしこで行われていた。

 ビルが今いるのは船から10数m離れたピンク色のくぼ地で、見渡す限り同じ色の壁が広がっている。そして彼らの他には様々な色の水溜りのような生き物が点在している。話には有名だが、実際問題どこの文献にも、まして王国周辺の魔物図鑑にも掲載されていない伝説の魔物『スライム系』の魔物達である。こいつらは有名な割には目撃した者がいないというレアモンスターなのだった。

 ビルはチョンマゲを装備し、必殺のスキル『ハラキリ』を習得しているというサムライなる部族の研究をするため、王様配下の精鋭海軍から研究船団を拝領して航海に出たのだが……途中大嵐に巻き込まれて半数の船が沈没し、おまけにビルの乗った船『グランゼペット号』は島ほどもある巨大な海獣に丸呑みにされてしまったのだった。余談だが乗組員達は全員レベル30を超えた猛者ぞろいにも関わらず、この船には嫌な予感がすると、乗船を躊躇う声がたくさんあがっていたのはいうまでもない。

 ここはその海獣の腹の中ということであり、スーパー珍奇生物マニアのビルは内部調査に忙しかったのだが……水兵達は襲い掛かるスライム軍団との戦いに苦戦していた。

「おいアホ賢者、早くこの状況を何とかしろ……」

 適当に弱らせたスライムを弄繰り回していたビルの背中に誰かの蹴りが入る。中腰だったビルは顔面からスライムにダイブすることになったのだった。

「熱っ!?これ熱いよ!?」

 酸性のスライムに鼻の頭を火傷させられたビルはヒールの呪文で治療をし、後ろを振り返る。

 ビルの後ろには背中に刀を差し、黒装束に鎖帷子を着込んだ女忍者が立っていた。口元は黒い布製のマスクで覆われており、細かい表情はわからないが目元を見た感じだと、お怒りのご様子らしい。この女忍者は勇者パーティ選抜会にも参加していたが、その能力の方向性から高いレベルにも関わらず、選ばれることはなかった。今回はビルの調査団が自分の国に行くとのことで、ついでに帰国するために一緒についてきたのだった。

「やあ、霧姫キリヒメ君だっけ?もうちょっとこのスライム達を観察したくてね……だめかな?」

「駄目だな」

 霧姫はそう言うとロングのポニーテールを翻しながらその場で回転をし、四方八方に手裏剣をばらまいて行く。4回転する間に発射された手裏剣は50発を超えていた。そしてそのどれもがスライムの細胞核に突き刺さっていた。直撃したスライムはその場に流れて消えていく。霧姫はその戦果を確認して片刃の直刀……忍者刀と呼ばれる武器をビルに突きつけて言う。

「次が来るからその前にどうにかしろ」

 結局ビルは水兵たちを船に戻すと、特大レーザーを発射する魔法で怪獣の胃に穴を開けて脱出したのだった。


-海上-


「賢者様!そんなとこで遊んでないでこれどうにかしてくださいよ!?」

 またしてもそんな台詞を吐く水兵は巨大なイカの蝕腕にとらわれていた。普通のイカなら触腕2本と足8本のはずだが、この魔物イカは触腕10本に足10本、さらにそれぞれの先端には鉤爪まで備えていた。船底に取り付いた巨大イカは甲板の水兵を巻き取り締め上げていく。

「ちょっ、マジで死ぬんですけどこれ!?」

 深刻に苦しみだした水兵達に気づかないまま、ビルはもぎ取ったイカの足の一本をしげしげと観察していた。

「アホ賢者、働け」

 やはりいつかのように霧姫が後ろから放った蹴りはビルに直撃し、イカの鉤爪がおでこに突き刺さったビルは流血する頭にヒールをかけて治療していた。

「痛ぁ!?ヒール!!ヤバ、穴開いちゃったよ!?」

「忍法火遁!!」

 マスクを外した霧姫が深呼吸し、頬を膨らませると、次の瞬間特大の火炎がイカの触腕と足を焼く。

 ビルもその間に準備していた感電魔法で水兵もろともイカを電気で攻撃していた。ちなみに水兵達はもちろんのこと、捕まってないけどもびしょびしょの甲板にいた者は全員漏れなく感電した。

「賢者様ひでえよ!?」

 そんな台詞があちこちで聞こえるが、とりあえず全員生きて航海を続けることはできたのだった。


-夜の海上-

「おい賢者」

 昼間より軽装の霧姫がビルに声をかける。ビルはさっき甲板に襲い掛かってきたジャイアントクラブの観察で忙しそうだった。モンスターの襲撃の多かったこの航海も明日には目的地に着くといった距離まできていた。

「やあ、戦闘中以外に君から話かけてくるのは珍しいね」

 普段の霧姫はほとんど誰とも話しをしていない。出航寸前に荒くれ者の水兵が、クノイチに伝わるエロい忍法を見せてくれと甲板でからかったところ即座に忍法水遁をお見舞いされ、そのまま王国の港に置き去りにされたのだった。半数くらいの水兵がそれを目撃して以来、霧姫をからかう奴はいなかった。実際、レベル53の霧姫はこの船においてレベル99のビルに次いで高いレベルを誇る。

「変な勘違いがあるようだから忠告をしておくが、倭国のサムライはプライドが高い者が多いぞ。ハラキリを見せてくれとか冗談で言ったら間違いなくお前が斬られかねんから注意しておけ。それと真剣に頼むと大惨事になるからやめてくれ」

「そうなんだ。わかった、しっかり信頼を得てからお願いしてみるよ」

「いや、そう言うモノじゃないから」

 ハラキリをまるで知らないビルの勘違いが解消されることはないまま夜は更けていく。

「霧姫はなんで倭国に戻るんだい?」

 ジャイアントクラブをしっかり解剖したあと、二人は甲板で焚き火をしながら焼きガニを満喫していた。

「うむ、実は私の父は倭国の半分を治める殿様をやっていてな。近々もう半分を収める帝との間に大乱があるというので戦力を欲しているそうなのだ。王国には武者修行に来ていたのだが、大きな目標も消えてしまったことだし一度戻って戦に出るつもりだ」

 そう言ってやる気満々の霧姫の眼は普段の冷めた視線ではなく、子供のように輝いていた。

「霧姫は戦に出たことがあるのかい?」

「いや、これが初陣だ。だが安心しろ。魔物との戦いで私はここまで実力をつけてきたのだからな。人間を相手にするのなど容易いことだ」

 そう強がる霧姫の言葉に危ういモノを感じ取ったビルはさりげなくそれを指摘した。

「僕はかなりやりこんでいた時期があったんだけどね、なんだかんだ今更だけど、あれはやらない方がいいよ。何でもいいから街の人と良く話をしてごらん。その人達を殺すのは辛いからね。それが平気でできたら人じゃないかな」

「ふん、知ったようなことを……私は絶対に武勲を立てて見せる。きっとだ」

 自分の底の浅さを見透かされたようで、その言葉を素直に聞けない霧姫は、賢者の次の言葉を待ち、眼が離せなかった。

 少し悲しげな眼差しで焼きガニを見るビルは、賢者の名に恥じない理知的な表情でモリモリむしゃむしゃとカニを食いまくる。

「貴様、ずるいぞ!?人に考え込ませてカニを食いまくる作戦だな!?」

「く、ばれてしまったか……さすがは倭の忍者、鋭い洞察力だ……お、これは思ったより旨いな……」

 はさみの肉をモリモリ食いながらビルはメモを書く。負けじと霧姫も反対のはさみを食べていた。


-翌朝-

「賢者様、ようやく到着しやすぜ!!」

 甲板でさっき襲いかかってきたお化けサメを調べていたビルと霧姫はその声で望遠鏡を取り出して倭国を確認する。

 ぱっと見は島。ただしいたるところから火と煙が上がっていたり、火山が噴火していたり、城が見えたりとなかなかに愉快なところらしい。サイズははっきり言って王国と同程度。すごい狭そうだ。

「まずどこに行けばいいのかな?」

「ふむ、このままなら私の父上の領地にある港に着くな。一度顔を出しておくと色々便利だと思うぞ」

「じゃあそうしようか」

 霧姫は現地での便宜を図ることを条件に他の労役無しでの乗船が許されていた。ここからが彼女の仕事となるわけだ。


-城下町-

「姫様よくぞお戻りになられましたな……客人の方もよくぞいられました」

 街に入るとしわしわの小さい老人が霧姫の迎えに来ていた。ビルの身長は180センチ程度で体格も大柄だが、老人の身長は160センチあるかないかの霧姫と並ぶ程度だった。倭国ではこれくらいが普通なのだ。老人は茶色の着物を着てビルが見たがっていたチョンマゲを乗せている。

「これがチョンマゲ!?」

 ビルはしばしその老人の頭から生えたチョンマゲに見とれていたが、図と共にメモを取る。さっきのお化けザメで紙面が尽きたためメモの背表紙には『セブン』と書かれていた。

「まあ、疲れただろうから城まで行ったら飯にしようか」

 領主の娘にも関わらず、家老の老人よりも圧倒的に乱暴な言葉遣いの霧姫は家老の老人に旅の土産話を伝えながら歩いていった。水兵達と調査チームはそのまま港町で待機となった。みなその活気に大いに興奮をしていた。大陸と違う風景は水兵達にも楽しいものだった。ただし、倭国は大陸の者からすると、とてもせまかったのだが。


-天守閣-

「よく来たな、大陸の賢者よ」

 一通り霧姫から事情を聞いていたこの地方の領主にして城の主、信秀康ノブヒデヤスはビルを歓迎した。和服を着て武将らしい髭を生やした大柄なサムライで、頭にはチョンマゲがしっかり載っている。そしてその横には何故か大陸の武具やら防具やらが大量に並んでいた。

「父上は大陸の物ならなんでも好きなのだ。良ければ賢者からも土産話をしてもらえぬだろうか?」

 先ほどまでとは打って変わって大人しい言葉遣いになった霧姫はいつもの黒装束から華美な布を何重にも纏ったこの地方における姫の格好に着替えていた。普段まとめて縛っていた髪はかなり下のほうで結ばれている。大陸にはあまりいないヤマトナデシコというタイプの美人だった。ビルは軽くショックを受けていた。

「失礼だが……君は霧姫だよね?むむむ……馬子にも衣装というやつか!?」

 わざわざ確認し、とても失礼に観察を始めたビルに霧姫から蹴りが飛んだ。

「ぐはあ!?そうだなあ……ではこんな話が……」

 礼儀はともかくビルの話と、船から積んできた大陸の物品は信秀康に喜ばれた。

 かなり話が弾んだところで突然真顔になった信秀康がいきなり爆弾発言をした。

「そうそう、今この国はワシのところと帝のところで内戦状態なんだが、明日から本格的に戦になるっぽいぞ。あの妖怪白塗りクソジジイ……アホで不細工で側室30人もいやがるくせにワシの霧姫を嫁に寄越せとかほざいてやがったからな。要求を呑まないと城下町に火をつけるとか為政者としてどうなんじゃい……まあ安心せい、ワシの眼の黒いうちは返り討ちじゃ」

 そう言って笑う父親を前に霧姫は複雑な表情を見せていた。


-ビルと霧姫-

 船員達に明日以後の動向を伝えるためにビルは城を出た。入り口まで見送りに来た霧姫がその背中に声をかける。

「なあ賢者……さっき父上の言っていた話、どう思う?」

 ビルは振り返らないまま応える。

「複雑だよね。そうだな、さしずめ大乱で手柄を立てて父親に褒めてもらおうとか考えていた孝行娘が、実はこれからたくさん人が死ぬ原因は自分にあったことを知って内心ショック!……で、どうしたらいいかわからないから聞いてみたってとこかな?」

 内容ではなく自分の心を読まれていた霧姫は絶句した。

「帝ってのがどんなだか僕は知らないけど、さっきのお父上の感じだと余程のクズってことはわかったよ。でも行かないといっぱい人死んじゃうんだよね?さっきの港や城下町の人が死ぬのは嫌だよね」

 霧姫は普段の強気で冷静な表情ではなく、既に泣きそうになっていた。腕は立てどもまだ20年程度しか生きていない彼女に今の状況は重すぎた。

「勝手に人の考えを話すな……もう今日はいいから帰れ」

 ビルは後ろ手に手を振るとそのまま船に戻った。


-翌日-

 いつもの格好に戻った霧姫と家老のゴロウベエに連れられてビルと調査団の面々は倭国見聞録用の資料を収集していた。

 食べ歩き、聞き込み、剣術道場の視察、武家屋敷、歌舞伎、寺社などを片っ端から調査していった調査団だったが、ハラキリだけはどこでもやっていなかった。夕方には粗方の調査は終わっていた。

 ビルはあちこちを見て回るうちにゴロウベエと仲良くなっており、茶屋で休憩中に聞いてみた。

「ゴロウベエはハラキリってできるのかい?」

 団子を食べていたゴロウベエは 

「秋晴れの、空に飛び立つクソジジイ、友のために、意地を見せるか」と、辞世の句を残していきなり腹に脇差をさしたのだった。

「うわあああああああ!?何!?何で死ぬの!?ヒール、って間に合わねえし……リザレクショーン!!」

 いきなり腹を切ったゴロウベエに特大の回復呪文をお見舞いしたビルは疲れ果てていた。

「ゴロウベエは昔から何かあると腹を切って責任を取りたがるんだ……今後ハラキリの話は禁句だな」

 霧姫がそう言うと

「そういうことは先に言っておいてほしいよ……というかハラキリって攻撃スキルじゃなくて自分のハラをキルのね」

 現物を見てげんなりしたビルはサムライへの憧れが間違ったものだったと理解したのだった。

 そんな騒動の最中に馬に乗った鎧武者が駆け寄ってきた。

「姫様、帝の攻撃です!!街に火の手が上がっていますので退避ください」

「何!?バカなことを言うな。ここで引き下がってなんのための武者修行だったのか……賢者よ手伝ってくれ。蹴散らすぞ!」

「そうだね、協力するよ。あ、君この人を頼むよ」

 気絶したゴロウベエを引き止める鎧武者に、無理やり預けた二人はその場を後にしたのだった。

 

「うわー、けっこう殺されちゃってるね」

 ビルがつぶやくが霧姫には聞こえていなかった。

「忍法、火遁、水遁、雷遁!!」

家事には水遁で消化を、敵には他の二つをぶつけて次々に敵を蹴散らしていく。

「しかし……帝っててっきり人間だと思ってたけどこいつら思いっきり……」

 ビルは襲い掛かる怪物にファイヤーボールやサンダーストームといった大技を当てながら観察を続ける。今街を襲っているのはレベル30前後の一般市民じゃまず勝てないレベルの魔族達だった。二人がある程度蹴散らしたところで敵は撤退していった。

 大陸の戦闘では見ることのなかった、たくさんの子供や老人が死体になり、町を焼け出された避難民の苦痛の様を見て霧姫は静かに涙を流していた。

-天守閣-

「父上、私は帝に嫁ぎます。これ以上市民を殺されるのは耐えられません」

「そうか……お前が決めたのなら仕方あるまい」

 城に戻ると信秀康は重傷を負って伏せっていた。さりげなく魔族の襲撃時、市民の非難と戦闘指揮をしていたらしいのだが、運悪く敵の魔法が直撃してしまったのだった。ビルの回復魔法で一命は取り留めたが、まだしばらくは安静にしていなければならない。

「ということだ……明日以後調査に協力できなくなるが許してほしい」

 疲れた顔の霧姫はそうビルに告げた。

「そうだねえ、でもこっちの調査も人数いっぱいいたからだいたい済んだし、本命のハラキリもゴロウザエモンが見せてくれたからね。もう帰っても問題ないから心配はいらないよ」

 

-その日の晩-

「さて、出航できるかい?」

「ええ、もうバッチリですぜ!!」

 土産を大量に積み、ホクホク顔の調査員や水兵達の中に霧姫だけがいなかった。

「調査の方、しといてくれた?」

「ええ、この倭国の西半分は魔族しかいないようですね……というか数百年かけて魔族に人間が滅ぼされちゃってるようです」

 調査員のひょろ長い青年がそう応えると、ビルは結構いい笑顔で「よし、やっちゃおう」といったのだった。あまり知られていないがビルはアップル並みに魔族が嫌いなのだった。そしてその後に見送りにきていたゴロウザエモンに別れを告げる。

「こんなことを言うのは何ですが……姫様だけでも連れて行っていただけませんかな?あの帝に姫様をくれてやるくらいなら国の者と共に最後まで戦うほうがマシですわい……」

ゴロウザエモンの懇願をビルは受け入れなかった。

「君とは友達になれたと思うけども、霧姫とも友達のつもりなんだ。あの子の意思を踏みにじれないよ」

 それだけ言うと残念そうなゴロウザエモンに手紙を渡す。

「霧姫はまだ出発していないよね?その手紙を渡しておいてくれよ。絶対だぞ?」

 ゴロウザエモンが見送る中ビル達は王国へと帰っていった。寄り道をして。


-天守閣-

 とぼとぼと、ビルの言葉を反芻しながらも運命を嘆くゴロウザエモンが手紙を持って帰ってきたのはそれから数時間が経ってからのことだった。霧姫の今後の運命を思うと心が痛んでしかたなかった。

 しかし霧姫はその手紙の内容を見て大いに困惑した。

 その内容とは次回来るときまでに植物の植生と動物の分布をまとめた図鑑を作っておいてほしいこと、味噌汁はしょっぱいのでイモのスープが飲みたいことなど、霧姫がいなくなってからではどうにもできないことばかりが書かれていた。そして追伸には……。

「島の形が変わるけど汚物消毒のためだから許せ……なんだこれは?」

しばらく困惑していた霧姫を無視して鎧武者が信秀康に報告に来る。

「親方様!帝の城とその周辺の山が光っております!!」

「何!?」

 霧姫が天守閣の窓を開け、帝の住む西の山を見ると特大の光の柱が立っていた。心なしか空気が振動している。

 数分して光が収まったあと、元帝のいた山はただのクレーターになっていた。

 倭国の大乱は賢者が撃った超特大国家破壊禁呪文『インフレーション』によって一瞬にして蒸発したのだった。ちなみにインフレーションとは効果範囲の魔力が異常なほどに上昇して破裂させる魔法であるため、魔力を多く持つ魔族ほど大爆発するのであった。山ごと消し飛んだ帝がいかに脅威だったかがわかるが、一方的に海の上から撃たれたのでは防ぐことはできなかった。


-海上-

「賢者様、マジ死ぬ、マジで死ぬからいい加減に魔物倒して!?」

 行き同様水兵達がレベル60もある超特大ヒトデに襲われていたが、ビルは一回り大きいヒトデを観察するのに勤しんでいた。ヒトデは触手で船員達を胃の中にねじ込もうとしていた。

「霧姫~っ帰ってきてくれ!!賢者様と一緒だと命がいくつあっても命が足りねえんだよおおおおおおおおおおおおお!!」

 結局ビルが船員達を助けようと動いたのは3分経ってからだった。

「あ、ごめん気づかなかった」

「ふざけんなあああああ!!」その後も似たようなことが繰り返された。


-倭国天守閣-

「賢者殿のおかげで魔族のいない島になってよかったわい……今度きたらお前嫁に行け」

 焼け落ちた城下町の再建を見守りながら信秀康は霧姫にそう言う。霧姫も満更ではない様子だが

「あのアホ賢者のことだから帰りの船で海の藻屑になってなきゃいいけれど」

 その言葉は厳しいものだった。そしてビルは実際に、王国に帰還する直前で船が沈んで珍奇生物の島に流されるのだがそれはまた別の御話。


 なんだかんだで召喚獣が還るまでの1がpvで800を超えていました。およそ200人以上の人が読んでくれているんだなあと、ちょっと感動です。ありがとうございます。しかしどの辺がいいのかあんまりわからないのでご意見いただけたら幸いです。

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