第6話 初夜
婚儀を終えたその日の夜。
私は永和様の部屋へと訪れた。
「失礼致します」
永和様の自室の前へと着き、閉められたドア越しにそう声を掛けれると部屋の中にいる永和様から返事が返される。
「入っていいぞ」
永和様の返事を聴いてから、私は目の前にある茶色いドアのドアノブに手を掛けて、ドアを開けた。
「先程振りだな」
「そうですね」
部屋の中へと入った私は永和様がいる布団まで歩み寄る。
永和様の部屋は物が少なく、必要最低限の物しか置かれていないせいか、妙に広々としているような気がした。
「共に寝よう」
「は、はい」
緊張からか声が上擦ってしまった私を見ても、永和様は優しげな顔付きを崩すことはなかった。
私はそんな永和様がいる布団へと腰を下ろし、捲られた布団の中に入り仰向けに寝転がると、永和様も私の隣に寝転がり、薄い掛け布団をかけてからこちらに身体を向けてくる。
「美月、その、嫌じゃなければ手を繋ぎたいんだが……」
こちらに身体を向けてくるなり、そう言った永和様を見て、私は思わず聞き返してしまった。
「手ですか……?」
「ああ、」
「いいですよ」
私は掛け布団から出ている永和様の左手にそっと自分の右手を重ねた。
永和様の左手に重ねた右手は永和様の両手で優しく包み込まれる。
「永和様……?」
「美月、私は不器用で何を考えているのか分かりずらいと言われることがある。だから、もし、これから不安や不満に思うことがあれば言って欲しい」
永和様の真っ直ぐな瑠璃色の瞳が私を捉える。吸い込まれそうな綺麗な瞳と私の瞳が絡み合う。そして数秒の沈黙の後、私は口を開いた。
「わかりました。永和様も何かあれば言ってくださいね」
「ああ、勿論だ」
永和様の穏やかな顔に私の顔も自然と緩む。
まだ、永和様のことを全部は知らないけれど、これから日々を重ねていく中で知らないことを知っていけたらいいなと私は心の中で思ったのであった。
「永和様、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。美月」
私は繋いだ永和様の左手を優しく握りながら、意識を手放して眠りに落ちた。
永和は先に眠りについた美月を見て、優しい笑みを浮かべながら美月の頭を空いている右手で撫でたのであった。