夏の終わり
喫茶店でコーヒーを待つ間、隣席で談笑するご婦人達に耳をそばだてる。話は旅行計画、健康診断の結果、夏休みの子供達等々……月並みな話題を経て、なぜかヴィーガンの話題に。
「〇〇さんトコのお家ヴィーガンに目覚めちゃって」
「ご家族が代わりばんこに骨折だってさ、やっぱり動物性タンパク質を摂らないとね」
「火葬したら油が足りなくって火が燻りそうね」
最後の言葉が余りに悪魔的で、思わず笑いそうになって、堪える為に窓から空を見上げた。するとまだ18時にもならないのに空が暗くなり始めていて、夏の盛りに比べて随分と日が短くなっている事に、8月31日の今更ながら思い至った。
程なくしてコーヒーが運ばれてきて、立ち上る湯気が火葬場の煙にも、在りし日の夏空に浮かぶ積雲にも思われて、しばらく変に意識してしまってその様をぼーっと眺めていた。
不意に、今年も暑かった以外何も夏めいた事を感じずに夏を通り過ぎたと侘しい気持ちに襲われた。ご婦人達はとうにいなくなって、静かで薄暗い喫茶店で一人、夏の終わりを感じた。