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眼鏡かけても君は可愛い

眼鏡ラブ企画作品、お読みくださいまして、ありがとうございます!!

 婚約破棄宣言を受けても、リンナは何事もなかったかのように学校生活を送っていた。

 キュプロスもいつもと同じように、いや、なんとなく喜色を唇に湛えて、日々リンナの面倒を見ていた。


 そんなある日のこと。


「今日は子爵邸に行くのよ!」


 オルチェラが帰りがけのリンナの手を掴む。


「嫌です。今更用もないし、メイドの真似事する気もないし」


 思わず振り払おうとしたリンナに、オルチェラは囁く。


「あなたのお爺さんが、どうなっても良いの?」


 リンナの顔色が変わった。



 馬車に乗るリンナを見かけたキュプロスが、走って来た。


「リンナ! 何処行くの?」

「ちょっと野暮用で……」


 キュプロスには最後のリンナの言葉は聞き取れなかったが、彼女の隣にいる人間の声は聞こえた。

 何やら緊迫した気配だ。揉め事か?


 声の主は、多分リンナの従姉のオルチェラだ。

 そしてリンナのアホな婚約相手だった、ゼノンの現在のお相手。


 揉め事であるなら、婚約破棄が関わっているのなら……。


 キュプロスの頭が急速に回転する。

 ゼノンの父親は確か、地図を製作する商会を持っている。

 そのためか、隣国と妙に深い付き合いをしているという噂もある。


 地図は各国の機密を有することもある。


 機密……。

 地図作成に欠かせない、遠くを見ることの出来る遠見鏡(ぼうえんきょう)


 遠見鏡に必要なのは、レンズだ。

 となれば、狙いはリンナの祖父の持つ、レンズの……・。


 そこまで思考した途端、キュプロスは校舎の階段を駆け登る。


 知らせなければ!

 早く!早く!


 今なら、夕陽が落ちる前ならば、間に合うのだから。


 キュプロスはいつもかけている眼鏡を取り出し、片面に黒い紙を貼る。


 早く!早く!


 レンズが受けた夕陽を反射させる。

 一回、二回……。


 反射した光が向かう先は、王宮である。



 ◇再会◇



 リンナは子爵邸の地下に放り込まれた。

 いつも持ち歩いているカバンを取り上げられなかったのは僥倖だ。

 薄暗い地下室の片隅に、体育座りをしている爺さん、ジャナートがいた。


「じ、爺さん!?」


「おお! リンナか!」


 二人は久しぶりに抱き合い、互いの無事を確認した。


「あのさ爺さん」

「なんじゃ」


「何でこんなことになっているの?」


「そうさな……。話せば長いのじゃ。それはわしがまだ、ガラス工房に新弟子として入門した頃……」


 確かに長そうだ。

 全てを聞いている暇はないような気がする。


「分かった分かった。分かったから爺さん、三行でまとめて!」


 ジャナートはちょっと不服そうだった。

 簡潔に言うとこんな感じだ。


 他国からの侵攻を一早く察知するために、索敵用の遠見鏡が必要になった。

 鏡にはレンズと共に、レンズの厚さや組み合わせを細かく示した設計図が必須。

 それはリンナの父が設計したものだが、事故の時に失われた。


「だが、設計図を写したものは、わしも持っていたんじゃ」

「へえ。じゃあ、設計図を欲しがる人に、渡せば終わり?」


「渡す相手が、この国の者なら、な」


 そこまで二人が話した時。

 地下室のドアが開いた。




 スペランツ子爵家現当主(代行)は悩んでいた。

 愛娘のオルチェラは、あのゼノン伯爵子息と結婚したいと言う。

 だが伯爵は、リンナでなければダメと言い続けている。


 その理由は、「リンナが継承した、リンナの父イリネウスの作った設計図」が欲しいからだった。


 ならば、設計図を渡せば良いかと思い、オルチェラにリンナが暮らしている寄宿舎の部屋をこっそりと漁らせた。


 無かった。


 見つからないので、当主代行は人を雇った。

 リンナ祖父、ジャナートの住まいと工房に侵入させたのだが……ジャナートに見つかり騒がれた。

 仕方なく、ジャナート自身を連れ帰り、リンナを脅して設計図のありかを聞き出すことにした。


 今ココ。


 なんだか、犯罪行為をしている気がする子爵家当主代行だった。


「いやいや。モロ犯罪だから」


 捕らえていたジャナートとリンナを地下室から引っ張り出し、設計図を出せと言ったらリンナに犯罪者呼ばわりされ、ムカついている当主代行である。


 そうだ、想い出した。

 昔から、兄のイリネウスは気に入らなかった。

 頭脳の優秀さは認めざるを得なかったし、頭脳だけじゃなく剣術も強かったし、背が高く端正な見た目だった。


「叔父さん、一個も勝てる要素なかったんだね」

「やかましいわ!」


 ただただ、兄は口が悪かった。

 リンナはそんなところだけ、良く似ている。


 だが、どんなに優秀でも、兄はもう死んでしまった。

 残した娘は、自分の娘のオルチェラよりも、女の価値としてはグッと下がるだろう。

 それを世間に周知するためにも、伯爵家との縁組は必須である。


「というわけで、イリネウス兄さんの作った設計図をよこせ」


 わけ?

 どんなわけなんだろう?

 全くわからないリンナだった。


 代わって爺さんが訊く。


「のう、当主代行殿」

「代行付けるな」

「設計図を使って、何を作るのだ?」


「へ、知らんよ、そんなこと」


 伯爵から言われただけだ。


「あれは、作ってはいけない設計図なんじゃ」


 重々しく爺さんは言う。


 作ってはいけない物の設計なんか、するなよ兄貴。

 心の中で思った当主代行だったが、ここで退くわけにもいかない。


「いいから、寄越せ!」

「設計図だけで良いんだな?」

「そうだよ」

「他にあれもこれも欲しいって言っても、絶対やらんぞ」

「くどい! 設計図だけで良いから寄越せ!」


「仕方ないのう……リンナ、眼鏡持ってるか?」

「うん」


 リンナはカバンから眼鏡を取り出し、爺さんに渡した。

 爺さんは、眼鏡の留め金の一つを外す。七色に光る留め金だ。

 そこには蟻よりも小さい、丸めた紙があった。


「ほれ」


 爺さんは丸まった小さな紙を、当主代行に投げる。

 受け取った当主代行、いそいそと紙を広げる。


 広げた紙の大きさは、子どもの小指の爪くらい。

 そこにはゴチャゴチャと、数字だか文字だか分からない何かが書いてある。


「読めないじゃないか!」

「ふふふ。それを読み取るには、高精度の拡大鏡が必要なんじゃ」

「そ、それも寄越せ!」


 爺さんはニヤッと笑いながら言う。


「設計図だけで良い、そう言ったよね言ったよね」


「この、クソ爺!!」


 怒り心頭の当主代行、爺さんに殴りかかる。 


 その瞬間。

 当主代行の目に、眩い光が射しこんだ。


「そこまでだ、子爵代行。誘拐、強要、暴行未遂の罪により捕縛する!」


 いつの間にか邸内に、国王直属の騎士団がずらりと揃っていた。


「ハインダー伯爵も今頃捕縛されている。伯爵は、間諜防止法違反の疑いだ。国家反逆罪にあたる」


 当主代行は、息を呑み、いろいろなところが縮みあがった。



 ◇その後のお話◇



 その後。


 ハインダー伯爵家はお取り潰し。

 伯爵は十年間の収監後、五十年間強制労働。伯爵子息のゼノンや他の家族は、十年間蟄居となる。


 スペランツ子爵家当主代行は、本来の当主になるリンナを不当に扱った上、貴族義務の放棄や書類の改ざんなど、細々とした罪を問われ、二十年間の強制労働を課された。

 代行の妻と娘のオルチェラは、修道院に収監された。



 一通り騒動が収まってから、リンナはキュプロスから侯爵家に招待された。

 さすが、現国王の妹が降嫁した侯爵家だ。

 庭園は、学校一つ、丸ごと入りそうな広さだった。


「騎士団の人から、少し話を聞いたよ。キュプロスがすぐに王宮に連絡してくれたから、助かったって」


 キラキラとした瞳のリンナに、眼鏡をかけたキュプロスは顔を赤くして、頭を掻く。


「僕、緊急事態の連絡手段を、持っているんだ」


 王族に関係する者には、護身用の道具を持たされ、護衛が必ず就いているそうだ。


 キュプロスは眼鏡を外すと、そのレンズをひとつ、取り出して見せる。


「これを王宮に向かって光らせるんだ。何回光らせたかで、内容が伝わるようになっているの」

「へえ、凄いね」


「君の、リンナのお父上が作ったらしいよ、この方法(システム)


「そうなんだ……」


 顔も覚えていない父親だけど、弟はあんなだったけど、娘の危機をこんな形で救ってくれたのか。

 


「それよりさ、眼鏡。リンナ用の眼鏡、かけてみてよ」


「え、あ、うん」


 リンナは爺さんが調整し直してくれた眼鏡をかける。


「あ!」


 リンナの前に、一瞬にして霞が消えたような景色が広がる。


「綺麗……」


「だろ?」


 ニコニコするキュプロスの素顔は、こんなにも端正なんだ。

 目を細めなくても、はっきりと認識できる!


 眼鏡……。

 スゲエ!!


 目を丸くして、あちこちを見つめるリンナを見たキュプロスもまた、彼女に見惚れていた。


 かっ!

 可愛い!!


「これから学園でも、毎日眼鏡かけて授業受けるね。そしたら、いちいちノートを見せてもらわなくても済むし」


「あ、ああ」


 キュプロスは少しばかり躊躇いながら答える。


 だって眼鏡をかけて微笑むリンナの愛らしさを、しばらくは独り占めしたいから。


  了

企画にも、本作にも、お付き合い下さいました皆様、心より御礼申し上げます!!

そして下の☆を★に変えて下さった皆様、ブクマ、いいねを押して下さった皆様にも、たくさんの幸せがありますように!!

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[良い点] 少女のリンナの境遇がかわいそうでしたし、地下室に閉じ込められてどうなるかと思いましたが、ハッピーエンドでよかったです。 リンナとキュプロスの眼鏡の二人、これからきっともっと仲良くなりそうで…
[一言] 皆さんのツッコミが冴え渡っていてとても楽しかったです。 リンナちゃん新しい世界でたくさんきれいなものを見て幸せになりそうですね。読ませていただきありがとうございました。
[良い点] あちこち笑わせられながら、楽しく読ませていただきました。 まさかの、豆設計図!! その手がありましたか。 父上考案でしたかあ。ほろりですよねえ( ノД`) そして功労者、キュプロス、ナ…
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