同類
この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。
この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。
この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。
エピソードタイトルを考えるのは難しいですね。
今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。
拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。
ガキの酷な身の上話を聞いて少しだけ冷静さを取り戻した俺は、どうにも責めるに責めることの出来ない歯痒さに小さく舌を打つと話を元に修正することにした。
確かに、このガキの送って来た激動の人生譚には多少は同情するところがあるが、生憎と俺はそれはそれ、これはこれと、話をキッカリと割り切る気質だ。
「…まぁ、そっちの言い分は分かったよ。ンで?そのことが俺を召喚したことと、一体どこからどう繋がるんだ?」
「うん…召喚する際に私と似た境遇の人…世界から嫌われているような人だったら似た境遇の私の気持ちを理解して仲良くしてくれんじゃないかなーって思ってね…だから、召喚法術陣と一緒に起動した探索の法術にそう設定して組み込んだの」
申し訳なさと切実な願いを帯びたガキの言葉を聞いて、俺はガキの姿を眇めながら「なるほどな…」と小さく溢した。
そして、頭の中でガキの話した内容を理解するために反芻させていると、その話のある一点に納得がいかず、俺はそれを思わず声に出した。
「…って、待て。つーことは何か?俺がお前と似た境遇…つまり俺が地球全土から嫌われてるって言いてぇのかコラ」
思わず日頃俺に喧嘩を売ってくるバカ共を気圧する時のような重く低い声でガキを睨みつけながら問う。
すると、その俺のキレてる雰囲気を察したのか、ガキが両手を前方に突き出して、荒ぶる寸前の猛獣を制止させるようなジェスチャーをしながら弁明した。
「えっ!?ちっ、違う違うっ!変な風に受け取らないで!誤解してるようだけど、それは視点の違いなのっ!」
「支店も本店もあるか。何がどう違うってんだコラ」
「あ、あのね…いい?世界っていうモノは、個人個人の認識の中に有るモノなの。私にとっての世界もあるし、貴方にとっての世界も有る…そういうコトなの!」
「あぁ…?チッ、かったりぃ…持って回った言い方しないで、もっと簡単に言え」
「わっ、わわわ分かった!えっと、えっと…」
ガキの言葉の伝えたいことがいまいちピンと来なかったせいか、イラつきに任せて少し高圧的な物言いになる。すると、それまで俺にどう簡単に説明をしたモンかと泡を食っていたガキがやっと考えが纏まったのか、獰猛な獣を宥めるような声色で口を開いた。
「つ、つまりね?私個人の視点から見た世界っていうのは、さっき私が話した通り『私自身が世界中の人達の間で畏怖されて嫌われている魔導師』っていうことを、私が知り得る範囲内で認識している上で成り立ってるモノなのね?」
「ぁん?だから、つまり…どういうことだよ?」
「え、えっと、だからね?これを貴方に置き換えた場合、貴方も何か周りの人から何か不興や恨みを買って…その…こういう言い方は悪いかもしれないけど、貴方も貴方が知り得る範囲から孤立してたりしないかな?」
「…ッ!」
起き抜けに脳天を一発ぶん殴られた気分だった。俺がこのガキに召喚された理由が「同じような境遇の奴」であるのであれば、その規模や理由に大小の違いはあれど「世界から嫌われて孤立している」という部分に限っては同類だった。
ガキの言う「世界」が「己の知り得る範囲」というなら、両親を見限り見放され、近所の連中や同級生に疎んじられ、腕自慢のバカ共に敵意剥き出しで絡まれ続ける俺は、確かに世界中から嫌われていると思えた。
思えば、俺には日頃から親しく話すという奴の存在は無い。学校の連中は元より、日銭稼ぎの土木工事のバイトでも先輩達とは仕事上必要なことを短く話すだけで、後は与えられた仕事を一人で黙々とこなしている。
仕事終わりの歓談やメシに付き合うことも無ければ、プライベートで遊びや食事に付き合うことも無い。俺と一緒にいて面倒事に巻き込んでしまう危険性があるのも理由の一つだが、長年喧嘩を続けて来て形成された斜に構えて捻くれた人間嫌いな性格がそうさせているんだろう。
しかし、だからと言ってそんな自分由来の因果や人生、環境の全部をひっくるめて俺が「世界から孤立している」と判断されるとは思わなかった。
そう思った途端、俺の心の内に溜まっていたイラつきが一気に減退して、代わりに途方もない虚無感と脱力感が心に去来した。ガキへ放っていた威圧感も形を潜め、俺はガックリと肩を落として力無く頭を垂れた。
胡坐をかいたまま顔を俯かせ、片手でわしゃわしゃと無造作に髪を掻きつつ自分がこのウォーアムに召喚された理由の理解に努めるも、いくら頭を回したところで「そうか」と、なかなか素直に納得出来るモンじゃない。
自分がここまで繊細な性格だとは思ってはいなかった。まさか俺が目の前のガキと同じ境遇…世界中から嫌われて孤立しているという召喚条件に合致しているという事実が意外にも精神にキている。
俺は何度も深呼吸を繰り返して、混迷を極める自分の精神を丁寧に落ち着かせた。そうでもしないと俺はこのあまりにもかったる過ぎる現実を受け入れ難く、今にも気が触れてこの場から叫んで走りだしそうになっていた。
その俺の様子を見かねてか、ガキが慌てて取り繕うようにして声をかけて来た。
「わわわっ!?だ、大丈夫?や、やっぱり怒っちゃった、よね…?」
「…いや、ちょっと…つーか、結構かったりぃ。色々言いてぇことは沢山あるし、聞きたてぇことも山ほどあるけど…今は少し待ってくれ」
「うん…あっ!で、でもね…そんなに落ち込んでるってことはさ、そのぉ…貴方もやっぱり私と似た境遇だったってことだよね?」
無慈悲な現実に打ち拉がれる俺のことを思ってか、ガキがわざとらしくフォローのつもりで声をかけて来たが、その内容が俺の燻りかけていたイラつきを煽った。
ようやく自分が置かれている現状を理解して、自分がガキと同じ境遇=世界中から嫌われているという真実を無理矢理にでも飲み込もうとしていた矢先だってのに、改めてそんなことを聞かれるのは、人がせっかく飲み込んだ真実を再び見せるのに等しいダメ押しにしか感じなかった。
「…喧嘩売ってんのかテメェ…」
「わわっ!お、怒らないでよー!?別に悪い意味で言ってるわけじゃなくってね?もしそうならさ、私としては嬉しいなーって思っただけで、悪気なんて…」
「…やっぱり喧嘩売ってるよな。そんなに買って欲しのかテメェ…」
「ちっ、違うってぇ!その…実はね?探索の法術にはもう一つ条件を設けてたの。私と同じような境遇の人っていう条件と、その…初めて会う人なんだし、出来れば優しい人がいいなーって思って…そういう人も含めて条件にしてたんだよね…」
顔を俯かせて喋るガキの言葉に、俺は真顔になって「あ?」と短い声を上げた。
すると、ガキは照れくさそうな苦笑を浮かべ、指で頬を掻きながら言葉を続けた。
「あははは…世界中から嫌われてる人を召喚するっていうのに、優しい人だなんて矛盾してるよね。ほら、私って世界中の人から嫌われてるからさ、初対面の人との距離間っていうのがあんまり分かってないのね?だからさ、自分の弟子になる人…初対面の人を召喚するなら、私と似た境遇だけど優しい人がいいなって思ったの」
「………」
「だからね?もし貴方が自分のことを私と似た境遇だって思っているんだったら、貴方は私が設定した召喚の条件を満たしてる…つまり、それは貴方は優しい人って証明にもなるわけだから、私としては嬉しいなーって思ったんだー」
はにかみながら照れたような苦笑を浮かべるそのガキの言動に、俺は思わず暴力に打って出ようとした毒気が全て抜かれた。
ガキの口から出たもう一つの条件だという優しい人という言葉の意味を俺は即座に理解出来ず、目の前に立って照れ笑いするガキのことを間抜けな顔で眺めた。
俺は別に自分で自分を優しい奴だとは思っていない。むしろ常にイラついて周りの人間を不快にし、暴力には暴力を以て受けて返して来た誇るモノなんて無いただの自分勝手で傍若無人な男だ。
常に他人からは後ろ指を指され、俺の行動の一挙手一投足を腫れ物を扱うみたいに警戒され続けたこの17年の人生の中で、他人様に優しい人だなんて言われたことは一回も無いし、存在を嬉しいと評されたことは人手不足の中で出たバイトの途中に言われたことがあるだけだ。
俺とガキは当然初対面…人種どころか住んでいる惑星すら違う完全な赤の他人で、ガキの言う召喚の条件によって、この果てしなく広大な宇宙の中から選出された「世界から拒絶された者同士」っていうだけの間柄だ。
それに加え、いくら召喚の条件に優しい人という条件が含まれるからといっても、こんな出会って間もない得体も素性も知れない俺にそんなことを言うガキのことが滑稽に思えたし、同時に…少しだけ心が軽くなったような気がした。
「はぁぁぁっ…ツッ、かったりぃな…」
ガキの言葉に完全に毒気を削がれ、舌打ちも弱々しいモノになる。
ひとまず、俺がこのウォーアムへと召喚された経緯は何とか理解して飲み込めた。そして、俺をこの世界に召喚したガキが頑なに俺を元の世界に帰す気が無い以上、もう帰る帰さない問答を続けるのは無意味だろう。
召喚条件にあった世界中から嫌われている人って部分にまだ少し納得出来ていない部分もあるが、こんな最初から人智を超えた超常的な出来事に対してロクな知識を持ってない俺がいくら考察を重ねても無駄だとも察した。
非常に癪だが、ここまで来たら自分一人の力ではどうしようもないと渋々観念し、俺はこの外連味が過ぎる突飛な現実を受け入れるべく、凝り固まった頭を揉み解すようにしながら溜め息をついた。
そして、目の前で照れた笑みを浮かべているガキの姿を眇めて見ながら、俺は次に今後の身の振り方…地球とは違うこの未知の星でどうやって生きていくべきかと、せっかく落ち着いた頭に再び思考を巡らせて悩んだ。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
まだまだウダウダもだもだゴチャゴチャしてますね。
地の文が多すぎて自分でも目が滑って読み難いと感じて少し改稿しました。
思えば、この頃からまだ主人公以外の名前が出て来てないんですね…遅くね、私?
お前がゴチャゴチャ言うな、読み難いと感じたんなら修正しろ、トッッッロ!と、気炎を吐いている読者の方々も多いでしょうが、ちょっとでもこの作品が良いな、面白いなと思って下さったのならばまた是非読みに来て下さい。
また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。
それと、ページ下部のいいねボタンや☆マークを押して頂けると私のテンションやモチベーション等が上がって創作の励みとなりますので、良ければきまぐれにでも押してやって下さい。
今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。
12/9改稿。