条件
この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。
この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。
この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。
今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。
拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。
さっきまで声を上げて騒いでいた目の前の少女…これまでの会話のやり取りの中でもう少女と呼ぶことすら俺の中でかったるい存在に成り下がったガキに質問した。
「召喚される条件…それって何だ」
なるべく言葉に怒気を含ませないように抑えながらガキに訊ねる。別に今この場でブチ切れて実力行使で無理矢理詰問するのは簡単だが、そんなことをしても事態の好転は望めないし、余計に泥沼化するだろうと思ったからだ。
そんな俺の配慮がガキに届いたのか、ガキが後ろめたそうな態度を僅かに和らげ、恐る恐るといった気配を帯びさせながら訥々と話し出した。
「…え~っとぉ…それは、そのぉ…気を悪くしない…?」
「ここまで来たら大したことじゃキレねぇ…っつーか、こっちも結構キてるんだ。俺のことはいいからさっさと言えよ」
「ご、ごめんってぇ…えっと、召喚法術陣と一緒に行使した探索の法術で設定した条件っていうのはね、その…私と似た境遇の人、っていうモノなんだけど…」
「お前と似た境遇だぁ?話が見えねぇぞ、どういうことだよ」
「うん…話すとちょっと長くなっちゃうから、全体は端折って要点だけ教えるね。あの、実は私ね、その…世界中から嫌われてるんだ…」
「………は?」
端正な顔に仄暗い影を落としながら喋るガキの話の内容が即座に理解出来ず、俺は一拍の間を空けてその言葉の意味を理解すると間抜けな声を上げた。
目の前のガキの言動には多少はイラつく部分もあるが、それにしたって世界中から嫌われてるって部分が俺にはよく分からなかった。
あまりにも突飛で斜め上の話の内容に呆けたままの俺を余所に、ガキが照れ笑いか苦笑いか分からない複雑な笑みを浮かべて話を続けた。
「あはは…さっきも言ったと思うけど、私って結構有能…と言うか、かなり稀有な存在なんだよね。まぁ、自分で言うのもアレだけどさー」
比重が照れに傾いたのか、ガキがどこかはにかみつつポリポリと指で頬を掻いた。
俺はその姿を見ながらガキの発言の中に出て来た稀有というどこかで聞いた言葉の意味を思い出そうとしたが、日頃の不勉強が祟ってか、その言葉の意味がすぐには出て来なかった。
そんな自分の学の無さにイラつきながらも、俺は続くガキの言葉に耳を傾けた。
「ほら、人ってさ、珍しかったり貴重だったり…自分の中の理解とか知識の範疇を超えるモノに対して絶対に何かしらの感情を持つモノでしょ?」
「何かしらの感情って…例えばどんなだよ」
「う~ん…例えばさ?珍しい宝石や装飾品を見て綺麗だなーって思ったりだとか、歴史的な貴重品を見て凄いなーって感じたりとか…そんな感情。それが私の場合、どうも悪い方に働いちゃったんだよねぇ…」
「悪い方?どういうことだ」
「あはは、そのまんま言葉通りの意味だよー。さっきの例え話の延長で言うなら、凄い力を持っててヤバいなー、理解出来なくて怖いなーって思われたらしくてさ、ず~っと前に偉い役人さん達に捕まりかけて幽閉されそうになったことがあるの」
「ゆ、幽閉だぁ…?お前が?」
「そうだよー。その時はなんとかして逃げ出せたんだけど…やっぱりそれが原因でお役所のお偉いさん達を怒らせちゃったみたいなの。未知の危険な能力を持ってる魔導師が逃げ出したっていう情報を世界中に流されちゃってねー…その結果、このウォーアム全土に指名手配されちゃったんだよねー」
「………はぁ?」
ガキはまるで他人事のような口調で話したが、俺はその発言の内容に驚きを隠せず再び間抜けな声を上げた。
捕まりかけて幽閉、未知な危険な能力、ウォーアム全土に指名手配…ガキの宣った一連の台詞の中に気になる事柄が多すぎて何から突っ込んで聞けばいいのか判断が出来ず、俺は怪訝そうな顔でガキを見ることしか出来なかった。
どうしたもんかと閉口して悩む俺を余所に、ガキはさらに話を続けた。
「そうしてね、指名手配されてるって分かった後は、どこか一か所に留まらないでウォーアム中を放浪しながら人に見つからないようひっそりと生きてたんだけど…やっぱり人の目と口はいつまでも欺けなかったよ」
「…バレた、ってことか?」
「うん…私がひっそりと一人で過ごしてても、誰ともなしに私のことを見つけては指を差して『あっ!手配書の魔女だー!』って騒いだりして、近くの警備隊の人に報告されるようになったんだ」
「………」
「武装した警備隊の人達に追われて、時々だけど戦ったりしたこともあったんだ。捕まりたくなかったからね。あっ、そう言えば子供に石なんかを投げられたこともあったっけ…『悪い魔女めー』って…あはは、いやー、あれは流石に堪えたなぁ」
「………」
「追われる中で何度も何度も私は違うってみんなに訴え続けたんだけど、やっぱり個人の中に一度刷り込まれた認識ってなかなか当人の口から是正しにくいでしょ?そんなことがウォーアム各地を放浪してる最中に数えきれないぐらい遭遇してね、その度に世界中を転々としてたら、いつの間にか世界中で私のことを知らない人がいなくなって…そして、そこで思い知らされたんだ。ああ、私って世界中の人から嫌われてるんだなぁ、みんなが私のことを悪い奴だと思ってるんだなぁ…ってね。そして、気付けばこんな人の寄り付かない世界の最果てまで来てたんだよねー」
黙ったまま話を聞く俺にいらぬ心配をさせまいとしてか、ガキが明るく努めた声のトーンで身振り手振りを交えて流暢に話すが、その明るい声の影にはどこか何とも言えない侘しさを感じた。
俺は魔導師なんてモノを知ってもいなければ聞いたことすら無い。恐らく俺が思う魔法使い的な存在なんだろうが…だが、いま俺の目の前にいて話をしているガキがそんな指名手配されるような大層な存在には到底思えなかった。
俺はガキの魔導師としての力量をさっぱり知らないし、偉いお役人方が言うどんな危険で未知な能力を持っているのかも知らないが、別に他人に害を成したり迷惑を掛けたりしたわけでもないのに世間から迫害されたと聞いて、俺は昂っていた気を少し削がれた。
そして、俺はそのガキの話を聞いている内に、自分の中で苛立ちが少し溜まるのを感じた。
不意に溜まったそれはこれまでのガキの言動とかに対してのイラつきとは違って、自らが把握出来ない未知の力を持ち、それが理解出来ないからと言ってこのガキを迫害したウォーアムという世界と、そこに住んでいる連中に対してだった。
そんなガキの歩んで来た人生に、俺はどこか自分の人生と似た理不尽さを重ねた。他人から理解を得られず、こっちの身の上も深く考えずに好き勝手に吠戯く連中を俺はよく知っている。
家の近所の連中や小中学校の時の同級生…そして、俺を負かして名前を上げようとわざわざ絡んで喧嘩を吹っ掛けてくる破落戸共がいい例だ。
家庭環境や持って生まれた眼つきといった外的な要因だけで個人の資質を判断し、こっちが止めてくれと言ったり防ごうとするのを気にも留めず、その自分の判断をまるで錦の御旗のように振りかざして、当事者には何をやっても許されるだろうと思っているかったるいところが似通っている。
だからだろうか、危険な力を持った魔導師と言うだけで幽閉されそうになったり、その末に世界中に指名手配されるような激動の人生を歩んで来たガキに少しだけ…俺とは被害の規模は違えど、雀の涙程度だけ同情してしまった。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
一回の「」の中の量が多すぎると思い、ちょっと数回分だけ分割しました。
なんでアレでイケると思って投稿したのか自分でも分かりません。
やっぱり見直しと改稿は必要だなと思いました。
横37行×縦6行分は読み辛い、もう少し考えてから投稿しろ、三流三文書き手と、私のことを思っている方も多いんでしょうが、ちょっとでも良いな、愉快だなぁと思って下さったのならまた読みに来て下されば本望です。
また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。
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今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。
12/8改稿。