異星《ウォーアム》
この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。
この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。
この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。
この話の舞台となる場所についての閑話みたいなモノです。
今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。
拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。
突然目の前に現れた謎の少女とサシで向かい合うこと数分。その間、俺は表面上は平静を装いながらも、内心では警戒の段階を引き上げていた。
この少女が敵なのか味方なのか、言葉は通じるのか否か、初動の攻撃は上下左右のどっちからなのか…思うことが多すぎて考えが濁流のように頭に押し寄せる。
(何にせよ、かったりぃことにならねぇのが一番なんだが…さて…)
ここ数年感じたことの無い緊迫感が俺の集中力を研ぎ澄ませる。俺達二人の沈黙が周囲に静寂を呼び、まるで俺達を中心として世界の全ての時間と空間がその活動を静止したかのようだった。
すると、そのずっと続くかと思われた沈黙が、少女の口によって唐突に破られた。
「――――――こ」
「…ぁん?」
「こっ、こっここ…こ、こ…~~~ッ!?こ、こんにちはっ!」
「………」
色々と思考を巡らせ、厳戒に警戒したのがアホらしく思えるほどの呆気ない瞬間が俺達の間に下りた沈黙をぶっ壊して訪れる。
目の前の少女の口から人間関係の第一歩と言えるお決まりの言葉が何度もの吃りを挟んでやっと発せられると、それと同時に思い切り俺に向かって腰を90度に折って丁寧に頭を下げた。
身体の横に垂らせた手で袖口をギュッと握り、頭を下げたまま小さく静かに身体を震わせているその姿を見た俺の胸中には様々な考えが渦巻き、脱力して咄嗟にその少女の言葉に返すことが出来なかった。
目の前に現れた人物が年端もいかない子供…それも、飛び抜けて愛らしい外国人の女の子だったということもそうだが、それよりも何よりも、俺はその少女の口からつっかえながらも出た言語に驚いた。
吃った冒頭の部分さえ無視すれば、イントネーションやアクセントのズレも無い、俺が聞き馴染んだ日本語が目の前の外国人の少女から発せられていることに対する驚きと、それらが整合性が取れていないような違和感を感じて声が出せなかった。
「………………」
「…?あ、あれ?こ、言葉が分からなかったのかなぁ…召喚の際にこっちの世界にちゃんと順応するようにはしたんだけど…えっと、あ、あのっ…こ、こんにちは!こんにちは!こんにちは!」
「…ぁ?あ、あぁ…こんにちは」
不安そうな面持ちで何度も同じ挨拶の言葉を繰り返す少女の言葉に、俺はようやく呆けていた意識を取り戻した。そして、俺はまだよくこの現状を飲み込めていないながらも、半ば条件反射的に少女の言葉に答えた。
目の前の少女が話す流暢な日本語には未だに驚きを隠せなかったが、少なくとも…言葉の内容は置いておくとして、お互いに言葉が通じ合うことが分かっただけでも俺は少し救われた気がした。
そんな俺の気の抜けた返事を聞いた謎の少女はどこか不安そうだった顔を一瞬だけ真顔にし、次の瞬間には子供が親に褒めてもらったかのような喜びに満ちた明るい表情を浮かべた。
「~~~!や、やったー!召喚大成功だー!!えへへ、嬉しいなぁ!ぃやったー!わーい、わーい!」
俺から挨拶が返って来たことがどうやら相当嬉しいのだろう、少女はその嬉しさを表すように小さな全身を何度もその場で跳ねさせた。
一方の俺は、そんな少女の言動を怪訝そうに眉をひそめて眺め、これまでに少女の口から出た言葉について思ったことを思わず訊ねていた。
「おう待て。召喚だとか順応だとか…一体なにを言ってんだ。ちゃんとこっちにも分かる言葉で言ってくれ」
「わーい、わー…え?あ、あれ?も、もしかして何も分かって、ない…?」
嬉しそうに飛び跳ねていた少女が俺の言葉でピタリとその動きを止めて俺を見る。
その顔の表情こそは先程の嬉しさの余韻が後を引いて笑顔のままではいるものの、顔色の方はどこか血の気が引いたように蒼く、徐々に脂汗が浮かび始めていた。
「分かるも何も…俺はここがどこだか知らねぇし、お前がさっきから言ってること全部が分からねぇんだけど…つーか、ここ何処だよ?」
「え、えーっと…ちょっ、ちょっと待っててね!う~ん…変だなぁ、言葉の順応は今のところ完璧なのに、知識の順応だけが抜けてる感じ…?えっと、えっとぉ…ま、まず、貴方には何が分かってる感じなのかな?」
「分かってること?あー…自分のことは分かってるつもりだ。それ以外で言えば、変な白い光に気を取られて事故って海に落ち…たと思うんだが…そんで、気付いて起きたらここにいたんだ」
「変な白い光…?うーん、それって多分、そっち側に繋がった私の召喚陣のこと、かなぁ…?って言うことはこっちとも接続は出来てるわけだし、こうやって召喚も成功してる…う~ん…でも、それじゃあ何も分かってないっていうのは変だし…」
俺の返答に眉根を顰めた少女が考えるようにして両のこめかみに人差し指を添え、目を瞑りながら何やらブツブツと独り言を言いながら考え出した。
その少女の口から出る独特な単語を俺はちっとも理解出来ず、俺はただ今この身に起こった何事かの全容を知っているであろう少女の返答に期待するしかなかった。
「えっと、うん…こっちの召喚陣と儀式内容に不備は無いはずだし、あっち側への物理干渉はこっちで操作出来ないから、もしかしたら海に落ちたのが…って、海に落ちたの!?だ、大丈夫!?怪我とかしてないかな!?」
「あぁ!?何だよ!?近ぇーよ!」
思案に暮れていた少女がバッと顔を上げたかと思うと、次の瞬間には驚きと心配が入り混じった表情になって俺の眼前に迫る勢いでしゃがみ込んだ。
その少女の咄嗟の動きに俺は思わず声を荒げ、眼前に迫る少女から距離を取るべく座ったまま上半身を後ろに引いた。
少女はそんな俺の挙動にもめげず、さらにグイグイと俺の方へと詰め寄って来た。
「貴方の話を聞く限りだと、多分こっち側からの召喚陣の光が原因で貴方が事故を起こして海に落ちちゃったと思うのね?事故ってすっごく大変なことなんだよ!そ、それで本当に大丈夫?怪我とかしてない?」
「ぁん?あ、ああ…不思議と怪我とかはしてねぇーよ。だから、そんな泣きそうな顔するんじゃねぇよ、かったるくなんだろ…」
「そ、そう…?でも、貴方が怪我とかしてないんだったら、それがなによりだよ」
俺の身体を案じて迫って来た少女を宥めて退かす。その俺の答えに安心したのか、少女が安堵の表情を浮かべてホッと息をつくと再び立ち上がった。
どうも目の前の少女に話の主導権を渡すと脱線しがちになると判断した俺は、次はこっちから気になっていることを聞いてみることにした。
「おい、今度はこっちから訊いていいか」
「え?うん、何かな?私に答えられることなら何でも答えるよー!」
「あー、そうだな…まず、ここってどこだよ?見たところ日本じゃねぇっぽいし、死後の世界とか地獄とかって訳でもなさそうだ…もしかして外国か?」
「…?ガイコク?二ホン?ジゴク?う~ん、そんな言葉は聞いたことがないし私は知らないけど、ここは別に死後の世界とかじゃないよ?ほら、こうやって現に私も貴方も生きてるでしょ?」
そう言うと、少女が両手を広げてその場でクルリと一回転して見せた。その動作が生きていることの証明になるのかという疑問は残ったが…取り敢えず、少女の宣う言葉に嘘や裏はなさそうだった。
「外国じゃねぇってか…そんでもって、やっぱり俺って生きてんのか。んじゃよ、ここが死んだ後の世界じゃなきゃドコなんだよ?」
「う~ん…ドコって言われても…えっと、どう教えたらいいかな?」
「俺はここがどこだかサッパリ分かってねぇんだ。だから、規模が一番デカい順に一個一個教えてくれ」
「うん、分かったよー!えっとね、ここは『ウォーアム』。イクサラグ大銀河系に属する第8惑星で…」
「はあっ!?待て待て待て!?お、お前、いま惑星とか言ったか!?い、いくさ…なんとか大銀河系の…うぉ、うぉーあむ…?な、何っ!?」
あまりにも聞き流すことの出来ない単語の登場に、俺は得意げになって意気揚々と喋る少女の台詞を遮って声を荒げた。
俺としてはあの時事故って海に落ち、意識もないまま漂流した末にどこかの外国に流れ着いてこの場に救助されたのが一番可能性として高いと思っていた。
しかし、目の前の少女の説明によると俺は知らない間に日本や海外はおろか地球を飛び出していることになる。イクサ…なんとかと言うのも気にはなったが、流石に惑星が違うとなればそんなことは一旦捨て置いて話を聞くしかなかった。
「ウォーアム、だよ。惑星ウォーアム。あっ、惑星って分かるかな?」
「俺が聞きてぇのはそこじゃねぇんだよ。つまり、ここは日本…って言うよりか、地球ですらねぇ…のか?」
「チキュー?それって貴方がいた場所の名前?うん、だとしたらそうなるかな」
「…マジかよ…」
少女の衝撃的な発言に俺の脳はなかなかその事実を認識出来ず、処理落ちしかけた脳の内部が熱っぽくじんわりと痛み出した。
惑星ウォーアム…俺に学が無いモンだから断定することは出来ないが、少なくとも俺がこの17年の人生の中で聞いたことがない星の名前だ。
嘘や冗談の類かとも少しは思ったが、この少女が俺にそんなことを言ったところで何の損得も無いし、立て板に水を流したようなハキハキとした口振りからしても、恐らく雑じりっ気の無い真実を言っているんだろう。
と言うことは、いま俺がいるここは間違いなく地球とは別の星ということになり、そこで俺の目の前に現れたこの少女は異星人…いわゆるエイリアンっていうことになるんだろうか…深く考えだしたらキリがなさ過ぎて処理落ちしかけの脳がさらに悪化しそうだった。
「………」
「…?ねぇ、大丈夫?何だか顔色が悪いよー?」
「ぁん?あ、あぁ…まぁ、アレだ。星が違うってことに少しばかり驚いただけだ。んで?ここがその…ウォーアムだったか?とか言う星だってのは分かったけどよ…何で俺がそんなことになってる?いつの間に、どうやって俺はここに来たんだ?」
「あれ?ウォーアムについてはもういいの?せっかく星の創世期の頃からじっくり話してあげようと思ったのに…」
「いや、もうそんな小せぇ…いや、全然小さくはねぇけど、それは今は置いとけ。それよりさっきの質問に答えてくれ」
「うん、貴方がそう言うならいいけど…えっと、どうやって来たかって言うとね、それは…ふっふっふ、私が貴方を召喚したからだよー!いつの間かはこっちで判断出来ないけど、話を聞いた感じ、多分貴方が海に落ちた時ぐらいかな?」
わざとらしすぎる含み笑いを経て、少女が声も高らかに俺の質問に答える。
その声の高らかさと、背中に花火を背負ったようなテンションで一人お祭り状態の少女を尻目に、俺はその言葉の中に出て来た常用外の単語に食いついた。
「…ショーカンだぁ?あー、そういやぁさっきもそんなこと言ってたがよ…まさかショーカンってアレか?ゲームとか漫画に出てくるあの召喚か?」
「ぅん?え~っと…貴方が言うげーむ?とかまんが?に出てくる召喚っていうのがどんな物かは知らないけど、召喚は召喚だよ?転移の召喚法術陣を地面に描いて、そこに私の魔導力を流して召喚陣を起動させるのと同時に探索の法術を行使したんだよー」
「………」
さも当たり前の一般的常識を問われてキョトンとした惚けた表情を浮かべる少女を見ながら、俺は今日何度目かの絶句を味わった。
少女の口の端に上る単語や用語の大半は理解出来なかったが、ほんの僅かに残ったギリギリ理解出来る部分を無理矢理に繋ぎ合わせれば、どうやら少女の言う召喚は俺の思っている召喚と同一のモノだと思って良いだろう。
召喚って聞いてパッと脳裏に思い浮かぶのは、怪しげな魔法使いが儀式的なことを執り行い、地面に描いた魔法陣から怪物や化け物なんかを喚び出すシーンが恐らく一般的だと思う。現に、俺が頭に思い浮かべたのはそういうモノだった。
だが、そんなモノはファンタジー作品や娯楽作品に登場する話を盛り上げるための一つの要素であって、現実には存在しない架空の中だけの代物だと思っていた。
しかし、まさか自分が召喚をされる側でそれを体験するとは夢にも思っておらず、俺はさらにこの現状に頭を悩ませて混乱した。
それに、少女の発言等に嘘が無ければ、いま俺の目の前でキョトンとした顔をして俺を見据えている少女はそんな召喚技術を扱える者…俺を含めた大多数の地球人が想像する魔法使いのような存在ということになる。
俄かには信じられなかったが、こうして現に惑星間を移動して地球とは別の惑星に召喚されちゃあ、この奇想天外な召喚劇やそれを引き起こした魔法使いと思われる少女の存在を、俺は納得出来ずとも理性の外側で強引に理解せざるを得なかった。
今ならこれが俺の見ている夢や幻だと言われれば、俺は全面的にその言葉に縋って「覚めてくれ」と心の底から願うだろう。そのぐらいバカバカしくて突拍子も無い経緯を告げられ、俺はあまりのかったるさに呻きながら再び呆然と空を仰いだ。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
読み直して改稿する度に冗長だな、地の文多ッ!と感じています。
一回ぐらい全部会話形式で本文を書いてみたいとか思えてしまいます。
冗長とか今更…、地の文をもっと削れ、慣れないことしようとしてんじゃねぇ、と感じている方も大勢いるでしょうが、少しでも良いなと思って下さったのならば、是非また続きを読みに来て下さい。
また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。
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今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。
12/8改稿。