異界
この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。
この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。
この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。
長い序章を読んでここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。
一応ここからが本編って感じです。
今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。
長い話の門出を飾る拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。
「あの道楽親父の息子」
―――ああ、そりゃ変えられない事実で真実だ。あんなクソ親父の遺伝子が俺にも半分流れてるってだけで心底イライラする。
「狂った母親に捨てられた気の毒な子」
―――確かにそれも事実だ。でも、お袋だって心身の限界だったんだ。俺の存在を忘れるぐらい、一刻も早くあのクソ親父から逃げたくて堪らなかったんだ。
「ゆさくんにぼーりょくされた!ボクなにも言ってないのに…!」
―――ふざけたこと抜かしてんじゃねぇよ。テメェらが寄って集って人のことを「捨て子」とか「親無し」とか言ってあからさまにウザ絡みして来たんだろうが。
「他の子を泣かしちゃダメでしょ?悪い子ね…」
―――手を出して来たのは向こうが先だ。自慢になりゃしねぇが、今までの喧嘩やイザコザで俺の方から手を出したことは一度もねぇし、その全部は自己防衛だ。
「テメェが最近イキってる遊佐って奴か?なぁ、ちょっと顔貸せよ」
―――別に俺にイキってるって自覚があるわけじゃねぇ。テメェらみたいなバカに絡まれて相手してたら、テメェらが勝手にイキってると勘違いしたんだろうが。
「なあなあ、あんたって最近近所の不良達の間で有名な「射殺しの遊佐」とかって呼ばれてる奴だろ?うっは、マージこえー!」
―――何だよ射殺しって…もしかしなくても、この三白眼のことを言ってんのか?人が気にしてる負の遺産を論ってあだ名にしてんじゃねぇよ。ぶっ飛ばすぞ。
「遊佐ァァァッ!!テメェ今日こそぶっ殺すぞォォォッ!!」
―――チィッ!本っ当に毎っ回毎っ回懲りもせず、雑魚がバカの一つ覚えみたいに絡んで来やがって…ああ、もう本当に…。
ウザッてぇ…!
つまらねぇ…!
バカバカしい…!!
アホくせぇ…!!!
ダりぃ…!!!!
しょーもねぇ…!!!!!
くだらねぇ…!!!!!!
めんどくせぇっ…!!!!!!!
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!かっっったりぃなあああああああああっ!!」
叫びながら勢いよく上体を起こす。胸奥の辺りに蟠っていた圧迫感で呼吸は荒れ、寝起きとは思えないほどの激しい心拍数と肌の上を滝のように流れる汗のせいで、まるで長時間に及ぶ激しい運動をした後のようになっている。
それに加え、寝ている最中に見た夢の中で嫌な思い出を一気に多数も見たせいか、起き抜けの頭の中は記憶をぶち撒けたようにグッチャグチャで、自分が寝入る前に何をしていたのかを思い出せないぐらいに前後不覚だった。
今まで試したことは無いが、悪質な安酒を浴びるように飲んだら多分こんな状態になるんだろうと思った。
「チィッ…!最っ悪な夢見だ…クソッ…!まだ頭ん中がグラつきやがる…」
以前に熱中症に罹ってぶっ倒れかけたことがあるが、その時の意識が遠退く感覚がずっと残留しているような鈍痛を含んだ酩酊感を脳に感じた。
右手でこめかみの辺りを覆い、未だにグラついて揺れているように朦朧としている意識をハッキリさせるべく、寝る前に自分がしていたことを思い出そうと努める。
繁華街の中華屋でラーメンに餃子を付けた豪勢な晩飯を済ませ、それを食い終えて帰ろうとバイクを取りに歩いていたところに、いつものようにバカ共が絡んで来て因縁を付けられた。
殺る気に満ち溢れた連中から身を守るためと、帰宅を邪魔されたイラつきの解消を兼ねて、連中を近くの路地裏まで誘い込んで派手に喧嘩したはずだ。
そして、喧嘩をやり終えてもどうもイラつきが治まらなかったから、俺はそのまま憂さ晴らし解消のルーティンであるツーリングに行った…はず、だよな…?
記憶を浚って何とか少しずつ思い出せて来たが、そのどれもがそれぞれの場景から切り取った断片的なモノばかりだった。だが、辛うじて晩飯からの大まかな流れを思い出せたのはこの前後不覚の状況の中では幸いに他ならない。
「クッソ…!そんで、確か道を流してて、そろそろ帰るかとか考えて…月明かりがバカみてぇに明るくって…んで、周り見たら…白い、光が…あっ、て…っ!?」
断片的に頭の底から思い浮かんでゆく記憶を一つ一つ口にしながら認識していく。すると、俺はそこであることを思い出して顔から血の気を引かせて絶句した。
俺の知らない内に身体に発生した謎の白い光に気を取られ、その光を振り払おうとバイクをかっ飛ばした後…記憶に間違いがなければ、俺はバイクの操作をミスって制御の利かなくなったバイクを辛うじて乗りこなしていた。
そして、そんな俺の目の前に急激に切れ込んだカーブが出て来て、曲がれば確実に死ぬと悟った俺は分の悪い賭けに出てバイクの速度を上げて路側帯に突っ込んで、そのまま宙に身を投げ出して…多分だが、賭けに負けて…死んだはずだ。
十数メートルもの崖上から勢いよく海面に落下して運良く生き延びたのかと思い、上体を起こしたまま自分の顔、胸部、腹部、腕、脚、背中など…身体中を念入りに弄ってみたものの、特に目立った外傷や痛みといったモノは一切なかった。
確かに身体はずぶ濡れになっているが、恐らくこれは寝ている時にかいた寝汗だ。多少汗臭くはあるが、海の水特有の磯臭い匂いは皆無だし、俺が着ている学ランとインナーも俺が海に落ちていないと証明している。
じゃあ、逆にやっぱり助からずに死んだのかと問われればそれも分からなかった。俺自身に死んだという自覚があるわけじゃないし、いま自分がこうして在る現状を死後だと立証する術を俺は持ち合わせていなかった。
どうせなら死神とか地獄の獄卒みたいなあの世の使者でも湧いて出て来てくれれば幾分かはこの現状を把握して多少なりは納得することが出来るんだが、そういったあの世からのお迎えの使者の気配は周囲から何一つ感じなかった。
「取り敢えず、生きて…んのか…?ったく、一体何がどうなっ、て…っ!?」
ひとまず落ち着きを取り戻し、頭を振って顔を上げると再び絶句して息を呑んだ。
顔を上げた俺の視界に飛び込んで来たのは、乾いた風と静かな日差しが降り注ぐ、途方もなくどこまでも広がる枯れ果てた黄土色の荒野だった。
その水平線まで見通せる荒涼とした荒び野には剥き出しの岩塊や無骨に立ち枯れた古木ぐらいしか点在しておらず、動いているものといえば静かに吹き荒ぶ風に舞う砂塵だけだった。
しかし、それよりも俺の意識を奪ったのは、広大な荒野の果てに走る天地を分ける水平線の上…夕焼けの淡いオレンジ色と宵の薄い紫色が共演し、不思議な色合いを天空一面に広げた空だった。
乾いた寂しい大地と奇抜な彩りの空。相反する様相の二つの景色が同時に存在する違和感よりも、その対照的な景色が揃って一つの世界を構築していることに、俺は一種の感動に似た何かを感じてしまった。
日本…いや、世界中を探してもこんな不可思議な絶景はお目にかかれないだろう。寂寥でありながらも絢爛であり、見た者の心を掴んで離さない幻想的な景色が俺の目の前に広がっていた。
ここがあの世や死後の世界だと言われれば、今の俺なら納得して信じられる。
俺の記憶の最後にあるのは夜中の海だったはずだ。しかし、いま俺が存在している場所は夜でもなければ海でもない…むしろ、それとは全てが真逆の見たことも無い異常な世界だった。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
異世界の情景を文字に起こして書くのは難しいですね。
あまり奇抜にしても私には捌き切れないので、取り急ぎ空と大地から入りました。
衝撃なのは、私も昔は3,000字前後で書けていたということです。驚きです。
なんで異世界物書いてんだよ、身の丈に合ったモンを書け、もっと短くしろなど、読者様達から言われそうですが、少しでも良いなと思ったまた読みに来て下さい。
また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。
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今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。
12/8改稿。